前編 追放された彼
どうも。はじめまして今野と申します。まず、この小説を開いてくださりありがとうございます。こんなふざけたタグの小説を・・・・・・。よければ本編をどうぞ。
どんな生物も発見できない、異空間に存在する世界が存在する。
地面も、空も、建造物も、何もかも全てが真っ白の世界。
それを天界と言う。
そして、そこには神話やお伽噺でお馴染みの“天使”というものが住んでいる。
純白の肌に、透き通るような銀髪を持ち、背中からは真っ白の幻想的な翼を生やす種族。
これは、そんな世界に住む、天使の少女の不思議な体験の話。
―― ―― ―― ―― ――
天使には、仕事というものがある。天界には天使と神しかおらず、大多数は天使なため、天界のほとんどの住民は義務とも呼べるその仕事をこなしていることになる。
その仕事の内容は――
生物に幸せを配ること。
それはどんな小さなものでもいい。草食動物に草地を与えたり、肉食動物を飢餓から救ったり。
人間にだったら、くじ引きで当たりを引かせたり、腹痛を早々に治してあげたり。
そんな仕事をこなすのが天使。
そして、私――ジェールも、その例に漏れず今日も幸せを配る。
私の目の前にあるのは、淡い水色のパネル。そこに私の管轄の生物が写っている。
猫と、バッタと、小さな男の子だ。
猫には心良い飼い主を、バッタには隠れ家を、人間は――。
「あっ!」
いけない。ボールが道に出ていっちゃう。それについて男の子も・・・・・・。
私は大慌てでパネルを操作する。すると――
『うわあ!』
男の子が、公園の柵を乗り越えようとして、それに躓いて転ぶ。そして、ボールが――
死角からやってきたトラックにぶつかって、男の子の元へと跳ね返ってきた。
『うぅ・・・・・・。膝擦りむいたぁ』
そうして男の子が泣き始める。だが、私にとっては・・・・・・。
「あ、危ない・・・・・・」
「無事」という幸せを無事に送り届けられたことに安堵して、パネルの前で膝をついて肩にかかる髪をいじっていた。
よかった・・・・・・。膝を擦りむいたのは不幸かもしれないけど、もうちょっとでもっと不幸になるところだった・・・・・・。
「お疲れ様」
「ひゃっ?!」
不意に首筋に冷たいものを当てられ、私は大きく飛び退く。
「そ、そんなに驚かなくていいだろジェール」
「驚きます! というかタイミングが悪すぎます!」
「そ、そうか、すまん」
そう謝るのは、私の先輩のエルさん。そして、実は私たちは・・・・・・。
「うーん。彼氏らしく労ってやろうと思ったんだが・・・・・・。失敗か?」
「思いっきり失敗ですよ。地球の少女漫画を読んで勉強してください」
「えぇ・・・・・・。あのゾーン立ち寄ると視線が怖いからな」
そう、付き合っているのです。
エル先輩から告白してくれて、もう付き合って一年。喧嘩も時々するけれど、いい彼氏です。
「ま、そんなことより、ほれ、コーラ売ってたからやるよ」
「ほんとですか?! あれ人気ですぐ売り切れちゃいますもんね! ありがとうございます!」
そして、私はエル先輩の差し出したコーラの缶に手を伸ばし、カシュッといういい音を聞きながら蓋を開けて口に運ぶ。
「〜〜っ! 美味しい!」
「なんで俺と会う時よりも嬉しそうな顔してんのかな?」
「あー・・・・・・。エル先輩も一口飲みます?」
「ありがたく間接キスの恵みを預かろうじゃねえか」
あ、そうか、間接キス・・・・・・。えっ?!
「ちょ、ちょっと」
「いただきまーす」
止めるまもなくエル先輩が私の手から缶をとり、私が飲んだところからグイッと口の中に炭酸を流し込む。
「〜〜っ! うめぇ! ん? どした?」
「・・・・・・いや、もう付き合って一年なのに、慣れないなぁ、って」
ちなみに、私はファーストキスは未経験である。なので、少々初心なところが残っていたり・・・・・・。
「じゃあ、する?」
「へっ?!」
さりげなくエル先輩がそう言って悪戯っぽく笑う。
エル先輩と、キス・・・・・・。
「いや、あの、わた、私は」
「なんてな。冗談だよ。そんな顔赤くすんなって」
そう言われて、私は自分の頬に手を当てる。すると、自分でもわかるぐらいに熱くなっていた。
「じ、冗談の度が過ぎますよ!」
「あはは! えーぷみるるーるってことで!」
「エイプリルフールですよ! それに、それもう今年のは終わりましたからね!?」
怒涛の勢いでそこまで言い切って、私は疲れて思わずため息を吐いてしまう。エル先輩はいつもこんな感じだ。まるで、私をからかっているようで――
「・・・・・・なんですか?」
「・・・・・・ああ、いや、やっぱりお前可愛いなって」
・・・・・・可愛い?
「――! もう! 仕事に戻ってください!」
ぼっと顔から火が出るかと思うほどに顔が熱くなる。きっと、真っ赤になっているんだろう。
これだから、先輩は、困る。
「そうだな。・・・・・・なあ、最後に一個いいか?」
「はい?」
エル先輩が、いつになく真面目な顔で私を見た。その視線に、私は不覚にもドキドキとしてしまう。
「お前、この仕事のことどう思ってる?」
「・・・・・・どう、ですか?」
・・・・・・不思議な質問だ。この仕事は天使の義務なのだし、特に思うところはないのだけど・・・・・・。
「生物に幸せをもたらすこの仕事、誇らしいと思ってる?」
「あぁ、そういうことなら、私は誇りに思ってますよ」
だって、私の手の届く範囲は少なくとも幸せにできる。さっきみたいに、命を救うこともできる。素晴らしい仕事だ。
「・・・・・・そうか。なんか変な質問してごめんな。じゃ」
そして、彼は去っていった。
いつも少し変だなとは思っていたが、エル先輩は今日はいつにもましてどこかおかしかった。
・・・・・・考えすぎだろうか?
私はそんな思いを頭の隅に押しやって、仕事に戻った。
翌日。事件は起きた。
「裁決!」
壇上で、長い白髭を生やした老人が叫ぶ。
「罪人エル! 管轄下の生物への幸せの無譲渡により、地獄へ懲役三十年の刑とする!」
その老人の視線の先には――私の彼氏のエル先輩が。
私は、この状況が受け入れ難くて目眩を覚えてしまう。
なぜ? なぜエル先輩が地獄に・・・・・・。
そう考える度に目眩は悪化していき――
「ちょっと、大丈夫?」
「あ・・・・・・」
いつの間にそこにいたのか、友人のメルに受け止められる。
「だ、大丈夫。ちょっと衝撃的で・・・・・・」
「あれあんたの彼氏だっけ? 何も知らないの?」
何も知らない? 一体何を知る必要が? 彼は、私の彼氏で、優しくて、かっこよくて・・・・・・。
「あの人、五年間も自分の管轄の生物に幸せを配ってなかったらしいわよ?」
「・・・・・・え?」
五年間・・・・・・?
「で、でも、それじゃあ死んじゃうんじゃ」
「そうよ。それで昨日人間が死んだのよ。手術失敗の不幸だったらしいわ」
そんな、エル先輩が、エル先輩に限ってそんなことがあるわけ・・・・・・。
「人殺しね」
ぷつり、と私の中で何かが切れた。
「そんな言い方ないじゃない!」
私はメルに食ってかかる。
「そんなのおかしいわ! だって、何か理由があったかも知れないし、それを聞かずに・・・・・・」
「そこの人」
聞き慣れた声が私の鼓膜を震わした。
私は壇の前で膝をつかせられているエル先輩を見る。
「そんなに喚かないでくれ。俺が辛い」
「・・・・・・え?」
まるで、私のことを知らない人のように扱う彼の言葉。そこではっとして我に返って辺りを見渡す。
そこには、私と彼に向けられる冷酷な視線の雨があった。
私は口を噤んで下を向く。
「エルよ、何か言い残すことは?」
「無いです。何も」
その声は、どこか寂しそうで。
「では、そこの穴に身を落とせ」
底の見えない真黒の穴に歩んでゆく彼の横顔は寂しそうで。
「・・・・・・またな」
羽根を撒き散らして消えていく彼の姿を受け入れられなくて。
「ジェール?!」
私は、彼に続いてその穴に、地獄行きの穴に身を落とした。
「えっ?!」
「何あの子・・・・・・」
「やばくね?」
「あの子、あのエルってやつの彼女らしいよ」
「うわー。じゃあいっか」
・・・・・・ああ。私、
彼を追ったんじゃなくて、みんなから逃げただけかもしれない。
「裁判長!」
「あそこに飛び込んだのだ。彼女自身の考えと見て、連れ返さずともよい。・・・・・・どうせ、戻ってくるのだからな」
そして、私は地獄へと落ちていった。
最後までお読みいただきありがとうございます。いかがでしたか?次回は本日の二十一時に投稿いたします。




