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♯1

第一章

……

  

……

  

 頬をなでる風の感触は穏やかでやわらかい。

  

「……」

  

 どうやらうつ伏せになっているようだが、冷たいアスファルトの上ではなさそうだ。

  

「……くっ!?」

  

 ウィリアムはパチリと目を覚ました。

  

 理由は分からないが、閃光をあびて気を失っていたのは間違いなさそうだ。

  

「……な、何だ!どうなってる!」

  

 まず彼は、周りの景色に驚いた。

 そこは先ほどまでいたはずの道端ではなく、青草が生い茂る草原の真ん中。ファミリーの人間もおらず、車も何もなかった。

  

 ここはどこなのか。誰に連れて来られたのか。まったく分からない。

 目の前には心地よい光を放つ太陽に照らされ、ひたすら草原が広がっているだけである。

 

  

 ウィリアムが立ち上がる。

 上等なスーツや靴も、ここでは場違いに見えた。

 

 腕時計を見る。時間を気にするのは彼の癖だが、それももう意味を成さないだろう。

  

 針が、止まっていた。

  

「チッ……携帯も、ダメか」

  

 携帯電話は電源が切れている。

 これではますます自分の置かれている状況が理解出来ない。

 ウィリアムは何をすればイイのか分からず、しばらくその場で立ち尽くしていたが、ようやくトボトボと歩き始めた。

  

……

  

 変わらない景色が続く。

 時折、木が立っていたり、鳥が飛んでいたりするが、それ以外に変化は無い。

  

「……誰もいないな」

  

 人がいればどうにかなるだろうと、まずは民家や道を探す事にした。

  

……

  

……

  

 三時間程度歩き続けると、ようやく草原が終わりを告げた。

  

「冗談だろ」

  

 唖然とするウィリアム。

  

 それは、大きな石を幾重にも積み重ねられた建造物。

 たとえるならば中世ヨーロッパを舞台にした映画にでも出てきそうな、そそり立つ高い城壁と深い堀に四方を囲まれた、大きな城塞都市が彼の視界に飛び込んできたのだ。ただしそれはステンドグラスや白壁が張り巡らされた美しいものというわけではなく、あくまでも実用性を重視した武骨なものである。四角く切り出した岩を積み上げただけの城壁は,外界との接触を半ば拒絶しているようにさえ感じられた。

 

「タイムスリップなんておとぎ話ならよしてくれよ……」

  

 小一時間程かけてその城の堀にそって歩いた。それだけでもこの城の巨大さが分かる。 

 入り口らしき木製の跳ね橋のような城門が見えるが、閉まっていて中の様子は分からない。だが、人の声や足音などが聞こえた気がした。

  

「おい!アンタ!」

  

「……!?」

  

 突然声をかけられてハッとする。

 周りを見渡すと、高い城壁の上から鉄の甲冑を着た男が手をあげていた。

 ようやく人に会えたのだが、やはり様子がおかしい。格好もそうだが、男が発したのは流暢なイタリア語だったのである。

  

「ここはどこだ!?どうやら道に迷ってしまったらしい!」

  

 幸運な事に、バレンティノファミリーにとって、イタリア語での会話は全く問題ない。

  

「はぁ!?アンタ、頭でも打ったのか?ここはローマだよ!」

 

「ローマ……?イタリアの首都?こんな街並みではないはずだが……」

  

 混乱したまま次の質問をぶつける。

  

「今の暦は何年だ!?」

  

 バカげていると思いつつも、訊くしかなかった。

  

「おい!本当に大丈夫かよ!?今は西暦2009年の10月だ!」

  

「そうか……安心……していいのか?」

  

 だがこれはこれで驚いた。過去ではなく『現在』なのだ。

  

「アンタのその格好は何だ!?21世紀にもなって、騎士の真似事か!?」

  

「なんだと!そっちこそわけの分からん服を着ているじゃないか!見るからに怪しい奴だ!ちょっとそこで待ってろ!」

  

 男の姿が城壁から消えた。

  

 ギィィ……!

  

 大きな木製の跳ね橋が手前の堀に倒れるように開き、男が甲冑をガチャガチャ鳴らしながら小走りで近寄ってくる。その手には剣が握られていた。

 

「神妙にしろよ!ひっ捕らえる!」

  

「ちょっ、ちょっと待て!俺は怪しい者なんかじゃない!」

  

「何者だ!」

  

 剣を構えたまま、甲冑の男はウィリアムを怒鳴りつける。

  

「ウィリアム・バレンティノだ。ニューヨークのバレンティノファミリーのな!」

  

「ニューヨーク!?何だそれは!?わけの分からん事を!その奇妙な出で立ちといい……さては貴様、悪魔の手先だな!」

  

「はぁ!?わけが分からないのはこちらの方だ!」

  

 百歩譲ってここがイタリアだとしても、先進国の教育制度からして、ニューヨークを知らない人間がいるはずなどない。だが、男はふざけている様子もない。

  

 時代は違わない。ではここは一体何なのか。

  

「まさか……ここは全くの別世界だとでも言うのか?有り得ない!映画やドラマじゃあるまいし!」

  

「大人しくしろ!暴れるならば斬るぞ!」

  

「クソッ……!」

  

 ウィリアムがスーツの懐に右手を入れる。

 

「何をしてる!動くな!」

  

「クッ……!銃もない……丸腰とはっ」

  

 マフィアのファミリーを支えるナンバー2である。普通であれば、一人で出歩く時くらいは拳銃を携帯するようにしていた。だが、多くの組員に守られるような状況であればそんな必要はない。

  

 ここで目を覚ます直前の出来事といえば、取引である。もちろん彼の懐に得物は入っていない。

  

「……」

  

「やっと大人しくなったか。ほら、行くぞ。歩け!」

  

 両手を上げ、剣の切っ先でつつかれながら、ウィリアムは城壁の中へと連行されていく。

  

……

  

 ガヤガヤと活気に溢れる街の様子が目に入ってきた。

 壁の内側にはまず、小さな民家が続く城下町が広がり、中心に一際大きな円筒形の建物を要する王宮が建っている。レンガや石で作られた建物ばかりが続く街並みは、やはりウィリアムが暮らしていた世界の『ローマ』とは違う。

 

「どこへ行くんだ……?」

  

「地下牢だ!たっぷり取り調べをしないとな!」

  

「何も出て来やしないぞ……」

  

 街の住民たちがじろじろとウィリアムを見ている。罪人が連行される様子が珍しいというより、スーツ姿を珍しがっているようだ。

 彼らも麻や綿の洋服を着ているのは分かるが、Tシャツやパーカー、キャップやサングラスなど、近代的な服を身につけている者はいない。

  

「この国の通貨は?」

  

「は?万国共通、金貨や銀貨だろう」

  

「ふうむ……」

  

 ユーロと言うのを期待したが、やはり違うようだ。この兵士や、地下牢にいるであろう看守を買収して逃げ出すという手は潰えた。

  

……

  

 王宮が近づいてきた。

 木製の立派な門に、槍を構えた衛兵が二人見える。地下牢とはやはり、この城の地下なのだ。

 

「ややっ!?罪人でありますか、軍曹!?」

  

 衛兵の一人が声をかけてきた。軍曹とはウィリアムをつれてきた兵士の事だろう。

 

 辺りは中世の雰囲気満点であるが、軍の階級はなぜか近代的なんだな、とウィリアムは思った。

 言語がイタリア語だったり、街の名前がローマだったりと、まったく現世と似ているのか似ていないのかわからない世界である。

  

「罪人だ!城の外をうろついていたので声をかけてみたところ、どうも話が噛み合わない!格好も異端者だろう?きっと悪魔の手先に違いない!」

  

「なんと!悪魔の!?それは一大事だ!しばしお待ち下さい!城内には我が君もおられます。地下牢に通す前に大司教様に、その男を見ていただいた方が良いのでは?中に入ったところで呪いや怪しげな魔術を唱える為に、わざと身をさらしたのかもしれません!」

 

 なにやら大事になっているようだ。悪魔の存在を信じているのは間違いなさそうである。

  

「なにっ!?貴様、そういうつもりだったのか!?ふざけた奴め!」

  

「待て待て!話が大きくなりすぎだ!俺は普通の人間だぞ!外国から来ただけだ!」

  

「少しここで待ってろ!大司教様がいらっしゃればすぐに分かる事だからな!おい、大司教様をお連れしろ!」

  

「はっ!ただちに!」

  

 衛兵の一人が駆け足で王宮の中へと消えて行った。

  

……

  

……

  

 数分後、衛兵が厳かな雰囲気を漂わす一人の老人を連れて戻ってきた。

 全身を真っ赤なマントで覆い、頭の上には煌びやかな金の冠が乗っている。

 一瞬、彼は国王ではないのかと疑ったが、両手に握られた聖書と十字架から、聖職者であるのが分かる。

 

「いかにも。ワシがこの国の……」

  

「こっちからはまだ何も訊いてないぞ、大司教」

  

 勝手に自己紹介を始めようとした老人に、ウィリアムが中指を立てる。

 無礼だぞ!と兵士達がいきり立つが、老人がそれを手で制した。なるほど。聖職者の長ともなると、それなりの権力を持ち合わせているらしい。

  

「むう……?奇妙な出で立ち。彼らが慌てるのも無理はあるまい」

  

 老人が指差したので、それを目線でたどる。  

 王宮の門の前、ウィリアムの背後には、いつの間にか大きな人だかりが出来ていた。しわがれた声で大司教が言う「彼ら」とは、何も兵士らの事だけを表したわけでは無いらしい。

  

「俺は見世物じゃないぞ。常に裏通りを生きてきたからな」

  

「そうじゃろうな。影が見えるわい」

 

 彼の口元は白髪混じりの立派なヒゲで隠れてしまっている。もちろん長く伸ばされた頭髪も白髪混じりだ。現世のローマ法王みたいなものと考えておけばいいか、などと罰当たりな事を考えていると、大司教がぬっ、とウィリアムに顔を寄せてきた。

  

「なんだ……?」

  

「お主がかけておる色付きのメガネ……イタリア人の名前が彫ってあるのぅ」

  

 大司教が着目したのはサングラス。メガネ自体は珍しくもないらしく、レンズが黒く変色でもしたと思われたのだろうが、高級ブランド『ジョルジオ・アルマーニ』の文字が気になったようだ。

  

「あぁ、コイツは祖父の祖国イタリアが誇る天下一品のブランドだ。それより……文字は共通なのか。そりゃ助かる。それにイタリアって国の概念はあるのか。ローマは都市名で間違いなさそうだな」

  

「ふむ?祖父の祖国?その通り。ローマはイタリアの首都じゃ」

 

「俺は外国人で、祖父はイタリア人だ。気づいたらなぜかここにいた。格好や考え方が違うのは外国人だから。それでいいだろう?」

  

「ふむ……」

  

 大司教が十字架をウィリアムに向ける。

  

「影は見えても魔ではない……か。場所を移そう。わしの聖堂へ連れて参れ」

  

「はっ!大司教様!」

  

 大司教が王宮の中へと歩き始め、軍曹の代わりに衛兵が再びウィリアムを連行する。

  

「また移動か……いつ解放されるんだ。おい、俺のスーツ触るなよ。お前ら一兵卒が一生働いても到底買えっこない特注品のオーダーメイドスーツだ」

  

「は?」

  

「チッ……原始人かよ。目の前でヘッケラー&コックを向けられてもヘラヘラしてられるんだろうな」


……

  

 ギィィ……

  

 荘厳な石造りの宮殿をしばらく歩き、前を行く大司教が聖堂の扉を両手で開いた。

 

 絢爛豪華。その一言に尽きる光景が広がっていた。  

 パッと見は祭壇といくつもの座席があるだけの普通の教会だが、その壁や天井にはびっしりと天使や神の絵が描かれており、ステンドグラスから差し込む光が、祭壇に立つ一体の大きな女神像を美しく照らしていた。

  

「さて……伍長。外してもらってもいいかな?」

  

「はっ!」

  

 槍を持った衛兵が聖堂から出て行く。

  

 大司教は木製のベンチ型の座席の一つを適当に選ぶと、ゆっくりとそれに座った。仕方がないのでウィリアムも隣の席に腰掛ける。

 二人で祭壇の女神像の方を見ている、という形だ。

  

「あらためて……わしはアンドレア・バッティスタ・クレメンティ。この城で大司教を名乗らせてもらっておる」

  

「ウィリアム・バレンティノだ。何が何だか、今でも自分の状況が把握できてない」

 

「ふむ……先ほどから外国人であると言っているようじゃが、いったいどこから来たというのだ?」

  

「アメリカ合衆国、ニューヨーク市のスタテンアイランド区だ」

  

 クレメンティ大司教がギョッとした。

  

「アメリカだと……?」

  

 ニューヨークすら知らなかった見張りの軍曹とは大違いのリアクションである。彼が何か知っているのは間違いない。

  

「おかしな事でも言ったか?」

  

「確かにアメリカから来たんじゃな?間違いないか?」

  

「そうだ。妙な装置をFBIに使われたかと思ったら、気がついた時にはこの街の近くに倒れていた」

  

「言っている意味がよく分からんが……アメリカは遥か東の海の向こうの大陸。魔族の多く暮らす未開の地。ローマに暮らしている一般人には名前すら知れ渡っておらん。そこにお主のような人間がいたとなれば、世紀の大発見だぞ」

 

 魔族。アメリカが辺境の地。次々にこの世界が抱える事実が浮き彫りになる。

 とはいえ、実際に自分の目で見るまでは信じがたいことである。

  

「アメリカが知られてない……そうか。俺が知る常識とアンタが知る常識とではかなり違いがあるようだ」

  

「そうか……しかしそれは、国が違えば多少は出てくる問題じゃな。身なりや持ち物を見るとかなり文明が発達しているように感じる。そう、まるで……未来からやってきたかのような」

  

「勘がさえるな、クレメンティ大司教。だが、俺は未来人じゃない。信じてもらえるかは分からないが、別の世界から飛ばされたみたいだ」

  

 大司教がピクリとまゆを動かす。

  

「むぅ?まぁ、わしらにとってはアメリカ自体がもはや別世界に近い存在じゃがな」

 

「そういう解釈になってしまうよな。仕方ない。それでイイ」

  

 確かにこの世界において、アメリカに魔族などという不可思議なものが巣くうというならば、それはきっと別世界と大差ない存在であろう。

  

「じゃが、向こうの人間とこうして話すのは初めてじゃ。まさか人が住めるとは思わんからの。世界は広いのぅ」

  

 どうやらアメリカ人である事は認めてくれたらしい。

  

「他に、どんな国があるんだ?そして、一刻も早く祖国がある世界に帰りたいのだが」

  

「ふむ……そうか。なにやら怪しげな術でローマ付近に飛ばされたのであったな?わしが知る範囲で、イタリアとその周辺の事を話そう。すぐに戻る。しばし待たれよ」

  

 大司教が聖堂から退室した。これはウィリアムにとってかなり有力な情報になりそうだ。

 

……

  

「やぁやぁ、あったぞ。とても貴重なものじゃ」

  

 一枚の大きな羊皮紙をわきに抱えて、大司教が戻ってくる。

  

「そいつは?」

  

「世界地図じゃ。大ヨーロッパ大陸と大アジア大陸。少しだけではあるが、アメリカも描かれておる」

  

「妙な言い回しだな。これも世界の違いというやつか」

  

 大司教が床に羊皮紙を広げる。

 ウィリアムはそれに視線を落とし、やはり驚いた。

  

「なんだこれは……」

  

 地図なのは確かだが、大陸の地形や国の配置。海や島など、それはウィリアムが知る世界地図とはまるで違ったものだったのだ。

  

「ふむ?どうやら初めて見たようじゃな。無理もない。この城にも一枚しかない程に世界地図というものは出回っておらんからの」

  

「アフリカやオセアニアが無い。それにイギリスとヨーロッパがつながっているだと……!?」

 

 大司教が大ヨーロッパ大陸と大アジア大陸と言ったのは、地図の中心にある大きな二つの大陸であろう。どちらも見事なほどにきれいな正方形として描かれている。

 その二つの大陸の間に小さな海があり、『神々の水路』とイタリア語で記されていた。

  

「これは?」

  

「ヨーロッパとアジアの間を南北に走る大河じゃ。この、神々の水路周辺では未だに戦争が絶えん」

  

「なるほど、海ではなく大河か。戦争とは?」

  

「まず、大ヨーロッパ大陸に存在する四大国家は、アジアの国々と対立しておるのじゃ」

  

 二十一世紀にもなって世界規模で戦争。しかし文明からして、ミサイルを撃ち合うようなものではなさそうだ。

 戦争については置いておく。

  

「四大国家とは?」

  

「我がイタリア王国、軍事国家ドイツ帝国、魔法国家フランス王国、そして歴史上最も古いイギリス合衆国の四つ。ヨーロッパにはこの四つの国しか存在せん」

  

「……まるで違うんだな」

 

 名前こそ似ているが、これもまったく違うものだと考えておいたほうがいいだろう。

  

「アメリカに渡るには大きな船が必要じゃろうな。なにせ近海は常に荒れ狂っておるらしい。残念ながら、我が国の航海術や帆船は他の国に劣っておる」

  

「どうしたら?」

  

「軍事国家ドイツ帝国。彼らが抱える艦隊の軍艦は世界一じゃと聞く」

  

「じゃあ、そこに向かえばいいわけだな」

  

 魔族が住むというこの世界のアメリカに行ったところで、どうなるかは分からない。

 だが、元のアメリカに戻る為に何かせずにはいられなかった。

  

「二つ返事で貸してはくれまい。操船には何十人もの乗組員が必要じゃ。しかも目的地がアメリカともなると……難しかろう」

  

「どうしても帰らなきゃならない」

  

「弱ったのう。ドイツ帝国は周りの三カ国と仲が良くない。当然、わしや我が君の書状一つで解決ともいかんのじゃ」

 

 アジア諸国と戦争中である上に、ヨーロッパ内でも多少のいざこざがあるらしい。

  

「だったら盗めとでも言うのか?やれないこともないだろうが」

  

「バカな!大型の軍艦を盗めるはずなかろう!」

  

「船そのものじゃなく、設計図でもイイじゃないか。こっちに持ち帰れば造れる。違うか?」

  

「ダメじゃ!ダメじゃ!欧州四カ国協定に背くことになる!」

  

 ぶんぶんと首を横に振る大司教。いくら仲が悪い国であろうと、形だけは和平状態であるのが分かる。

  

「わしとてアメリカの地を踏めるのならば力を貸してやりたいのは山々なのじゃ。別の手を考えよう」

  

 ウィリアムの事を受け入れただけのことはある。

 それとなく、アメリカにはついて行きたいという意思を見せてきた。

 

「船以外の手段は?飛行船や熱気球は無いのか?」

  

「飛行船?熱気球?なんじゃそれは」

  

「空を飛ぶ乗り物だ。やはり無いのか……」

  

 街を見れば分かるが、この世界ではそこまで高度な技術は期待出来ない。

  

「人間が乗り物で空を飛ぶじゃと!?鳥や飛竜のようにか!アメリカとは凄まじい場所じゃ!」

  

 大司教は手を叩いて喜んだ。

 ウィリアムにとっては竜という言葉を見逃せない。

  

「飛竜とは?」

  

「む?魔族の戦士たちが騎乗しておる小型のドラゴンじゃ。翼を有し、口からは火の玉を吐く。わしらにとっての馬のようなものとも言えるが……アメリカにいたのなら、見ないはずもあるまい?」

  

「ドラゴンか。いよいよ常識外れな危なっかしい代物が……その飛竜というのは入手可能か?」

  

 おそるおそる訊いてみる。

 

「無理じゃ!船の設計図どころの話ではない!殺されておしまいじゃぞ!」

  

「だったら他の案を出せ!この地図によると、アメリカ大陸にはアジアからの方が近いように見えるが?そっちはどうだ?」

  

「先にも言ったが、アジア諸国とは戦争状態にある。中国などには大型の軍艦もあるだろうが……戦争で奪い取る以外あるまい」

  

「チッ……」

  

 ウィリアムはスーツの内ポケットからタバコを取り出し、ライターで火をつけた。

  

「な!なんじゃ!?」

  

「ん?タバコか?」

  

「いや、違うわい!紙巻きのタバコくらい誰でも分かるわ!その……小さな箱から火が出たではないか!」

  

 大司教が食らいついたのはライターである。

 言われてみれば、携帯や時計などの電子機器はダメでも、このオイルライターは問題なく使用できたのに気づく。

 

「妙だな。何気なく火をつけたが、まさか使えるとは。ちなみに……コイツはライターという道具だ。中に少量の油が入っていて、この先端にある紐の部分に火打ち石で着火する」

  

「ほうほう……まるで魔術じゃ。アメリカの道具とは実に興味深い」

  

 感心した様子で、ウィリアムの手元のライターをまじまじと見る大司教。

  

「このくらいどこにでも売ってるぞ。俺が暮らしていた国に来たら、きっと驚いて腰を抜かしちまうだろうな」

  

 ライターを手渡してやる。

  

「おぉ……素晴らしい。うぅむ、ますます興味が湧いてきたわい。アメリカへのお主の帰郷、良い手がないか我が君にも相談してみよう。もちろんその時にはわしも同行するがの」

  

「国王陛下に?それは畏れ多いな。ま、よろしく頼むぜ」


……

 

 大司教が再び退室し、三十分程度待たされたところで戻ってきた。

  

「我が君がお会いになるそうじゃ。アメリカ人と聞いて大層驚いておられたわ!」

  

「ノリのイイ国王で安心したぜ。何をどう話せばイイ?」

  

「アメリカに帰りたいという意思を伝えればよい。ヨーロッパ四カ国の中で、未開拓であるアメリカの地の人間に恩を売った国などなかろう。調査の名義でわしもだいぶ推しておいた。悪いようにはされまいて」

  

 ウィリアムの肩に手を置き、にこやかに笑う。間違いなく粗末な罪人扱いから大事な客人扱いに昇格だ。 

  

「では王の間に参ろうか。我が君は寛大な御仁ではあるが、粗相のないようにな」

  

「……よく考えたら一国の王と話すなんて初めてだ。妙な緊張があるな」

  

 二人は聖堂をあとにした。

 

……

  

 王の間の入り口。

 

 玉座へと続く、中央に敷いてある真っ赤な絨毯が石の床に栄える。  

 見張りの兵士とは違い、白銀の煌びやかな鎧をまとった十二人の騎士達が左右に六人ずつ絨毯を挟んで向き合っているのが見えた。

  

「わしの後ろについて来るのじゃ」

  

 大司教がつぶやいたので、黙って頷く。

  

……

  

 玉座に座る国王の顔が見えてきた。

  

 若い。

 二十代後半から三十代前半といったところだろうか。服装は水色が基調の地味なものだが、深紅のマントと金色の王冠が目立つ。肩まで伸ばした金髪は軽くパーマをあてたかのように緩やかなウェーブがかかっている。

  

「我が君」

  

 国王の目の前で大司教が跪いた。ウィリアムも見様見真似でそれに習う。

  

「うむ。そちらが話に聞いたアメリカ人だな?……客人よ、お初にお目にかかる。余はミケーレ・マランツァーノ三世だ」

  

 玉座から立ち上がりハキハキと話す青年に、ウィリアムは好感を持った。

 

「はじめまして、国王陛下」

  

 当たり障りのない言葉だけ発しておく。

  

「我が君。先に伝えた通り、この者がアメリカの地に戻りたいと申しております。願わくば、わしを含めたアメリカ大陸調査団の編成の許可をいただきたく存じます」

  

 大司教がだいたいの概要を伝えた。

  

「うむ。アメリカの地に人間がいたとなれば、早急に調査を送りたいところだな。しかし、魔族やアジア諸国の件もある。まずは大臣らや騎士団長らを集めて、今夜にでも会食の場を設けたいと思うが、どうだ?無論、クレメンティと客人にも出席願いたい」

  

「おぉ……それは良いお考えですな。ウィリアム、異存はないな?」

  

 王の決定に拒否する事は許されないはず。

 だが今回は特にそうする理由もないので即答する。

  

「あぁ、もちろんだ」

 

……

  

……

  

 だだっ広い食堂。

 晩餐の長テーブルに並べられた料理は、意外にも質素なものだった。フランスパンにスープ、サラダが少し。それだけである。

 現世で一般人より裕福な暮らしをしていたウィリアムにとっては、余計にそう感じる。

 とはいえ、今日のメインは食事ではない。話し合いの中でただ冷めていくだけの役目を与えられた料理としては上等なものだ。

  

「さて、皆集まったかな」

  

 上座の席についた国王が言った。

 空席が目立つ。気になったウィリアムがキョロキョロしていると、笑いながら国王が話しかけてくる。

  

「客人。我がイタリア王国は弱小国家でな。地方や戦地、国境沿いにも有力者を送り出しておるため、恥ずかしながらローマに残っている重臣はこれだけなのだ」

  

 クレメンティ大司教をいれて五人。国の政を司るには心細い気がした。

 

「空席ならば、上座の近くに詰めて座っては?せっかくの晩餐だ。お互いの顔が見えなければ、話も盛り上がらないと思うが」

  

「ウィリアム……!あまり出過ぎた真似を申すな!」

  

 驚いた大司教が叱責するが、国王は微笑んで頷いた。

  

「そうだな。客人の申される通りだ。皆、余の方へ近く寄るのだ」

  

「ははっ!」

  

 ウィリアム以外の全員がかしこまって席を移動する。

 大司教はというと、国王の機嫌が損なわれずに良かった、とウィリアムの肩をつついた。

  

……

  

「では、まずは乾杯といこう。自己紹介も兼ねて、一言ずつもらおうか」

  

 パンパン、と国王が両手を叩くと、メイド服を着た給仕達がワインらしきボトルを持ってきた。

 そのまま全員のグラスに酒を注いで回る。

 

「遠いアメリカの地からの客人に!」

  

「客人に!」

  

 グラスを高く上げ、晩餐が始まった。

 酒は味も香りも悪くない赤ワインだったが、ひどくぬるい。ワインセラーや冷蔵庫に入れられていたはずもないので無理はないが。

  

「こんなにぬるい酒ならビールの方がいくらか飲めそうだな」

  

「ほう、ビールとな?ドイツ帝国の名産品のはずだが、飲んだ事があるのか?」

  

 言葉を漏らしたウィリアムに、隣の大司教が反応する。

  

「もちろんだ。炭酸と苦味のおかげで、冷えてなくても爽快な飲み心地だぞ」

  

「なんと!客人は様々な文化を知っておいでのようだ!まずはそなたから自己紹介を頼もうぞ!」

  

 ウィリアムの知識を聞き、上機嫌になった国王が彼を指名する。

 立ち上がり、口を開いた。

  

「はじめまして、皆さん。俺はウィリアム・バレンティノ。アメリカの出身だが、祖父はイタリア人だ」

 

 小さな拍手。

  

「では続いて、余がイタリア国王のマランツァーノ三世だ。ウィリアム。名前がブリティッシュ系の気がするが、そちらの血も?」

  

「いや。祖父の時代にアメリカに渡ってはいるが、イタリアの純血です、陛下。アメリカは公用語が英語なのでね。名前はブリティッシュに近い」

  

「英語か!ではもちろん?」

  

「話せます。むしろイタリア語の方が苦手だ」

  

 ウィリアムの冗談に、いくつか笑いが上がった。

  

「次は私めが」

  

 ウィリアムの正面に座る、スキンヘッドの壮年の男が言った。

  

「私は国の右大臣を仰せつかっております。アダムと申します。以後、お見知りおきを」

  

 丁寧な物言いだが、どこか冷徹な目つきをしている。

 突如現れてアメリカから来たなどという若者を目の前にして、気にくわないと思うのは仕方のない事だろう。

 

「左大臣はミラノに出張っておってな。ローマの内政は右大臣である彼の腕にかかっておるも同然よ」

  

 国王がつけ加えた。

  

「またまた、ご冗談を陛下。我が君あってこその国づくりです」

  

 右大臣が遠慮する。

  

「うおっほん!よろしいかな?」

  

 右大臣の隣。

 甲冑こそ着ていないが、唯一腰に剣を下げたままで着席している男だ。栗毛の長い髪をポニーテールに結び、肌は浅黒い。武人なのは一目で分かる。

  

「ジョバンニ・タルティーニだ。我がイタリア王国騎士団を束ねておる。タルティーニ中将と言えば、知らぬ兵などこのヨーロッパ内にはおるまいて」

  

「将軍様といえば爺さんのイメージだが。イタリアは元気な国だな」

  

「うむ。俺がいる限り他国の軍にひけは取らんぞ」

 

 国王の前だが、腕を組んで豪快に笑う将軍。彼は裏表の無いまっすぐな性格のようである。

  

「次はわしじゃな」

  

 クレメンティ大司教が立ち上がる。

  

「自己紹介は不要なようじゃな?その代わりにアメリカ大陸調査団の編成を強く望んでいる事を示しておこう」

  

「うむ。後で話し合おうぞ、クレメンティ。次は……」

  

 国王が視線を向けると、出席者の中で唯一の女性がにこりと微笑んで立ち上がった。

  

 淡いピンク色のドレス。艶のある綺麗な黒髪をまっすぐに伸ばしている。

 美しいその姿にウィリアムは一瞬、彼女は妃なのかと思ったが、もしそうならば末席に座らせているはずはないと判断した。

  

「ご機嫌うるわしゅう、皆様。私はベレニーチェ・シレア。このローマで魔術や薬学、医学などの研究をさせていただいております」

  

 なるほど。現世でいう研究所の所長や病院の院長といったところか。今回の晩餐会のために着飾ってはいるが、普段は地味なのかもしれない。

 

「美しいご婦人だ。よろしく」

  

「こちらこそ、バレンティノ様。アメリカと言えば魔族の地。面白いお話を期待していますわ」

  

「期待通りの話ができるかわからないが、聞いたこともない世界なのは間違いないだろうな」

  

 ウィリアムがベレニーチェに言うと、彼女はゆっくり頷いた。

  

「自己紹介も済んだ。早速だが、アメリカ大陸調査団の話に入る。進行はクレメンティに任せよう」

  

「はっ、我が君」

  

 一度は座っていた大司教が再び立った。

  

「まず、細かい事は抜きにして、調査団の編成自体にはおおよそ賛成と言う方々は?挙手願いたい」

  

 大司教、国王、ウィリアム、ベレニーチェの四人が手を挙げた。右大臣と将軍は反対のようである。

  

「なるほどなるほど。では我が君、賛成の理由をお聞かせ願えますか?」

 

「理由とな?新大陸の情報を得る事は我が国の為になるはず。それだけだ」

  

 決定事項となってしまえば王の一存で全てが決まる。だが会議の場では彼の発言も未だ、一個人の意見に過ぎない。

  

「わしもそう思います。ウィリアム、右大臣と中将を頷かせるため、一つ面白い話でもしてやってくれんか?」

  

「面白い話か……」

  

 そう言われて、一瞬困る。実際に彼が暮らしていたニューヨークの事で良いのだろうか。

  

「文明の話などはどうじゃ?ほれ、先ほどの火付けの箱など、素晴らしかったぞ」

  

「なるほどな」

  

 ウィリアムはポケットの中にあるタバコ、ライター、携帯電話、財布を取り出し、腕時計やサングラスも外して食卓に置いた。

 これが今持ち合わせている全ての私物である。

  

 全員の視線が集まった。

 

「わぁ!これは色々と面白そうな物が出てきましたね!」

  

 ベレニーチェがまず叫んだ。さすが研究を生業にしているだけあって、目新しい物への食いつきは良い。

  

「まぁ、一つ一つを説明していくのは面倒だし、分かりやすくコイツにしよう」

  

 ライターを持ち、カチリと火をつけて見せる。おおっ、と一同から声が上がる。

  

「ま……魔術だ!しかも詠唱も無しに直ぐ火が!これは素晴らしい!」

  

「落ち着け、ベレニーチェ。ウィリアムが言うにはこれは魔術では無いとの事じゃ」

  

 これは大司教だ。

  

「その通り。コイツはあくまでも火をつける道具に過ぎない。魔法だか魔術だか知らないが、俺にとってはそっちの方が信じられないがな。もちろん魔族なんて生き物もだ。俺は確かにアメリカ人だが、イタリアにもロシアにも日本にも、そんな生き物はいなかったはずだ」

 

「ロシア!それに日本だと!」

  

 国王が反応した。

  

「その辺はやっぱりあるのか。陛下、俺は確かにアメリカ人ですが、俺が知るのはこの世界にあるアメリカではない。まったく別の、もう一つのアメリカから来てしまったらしい。その世界にもイタリアという国やローマという街は存在した。この世界とはまるで違うんです。自分でも信じられない」

  

 言って良いものか迷ったが、信じてもらえなくても正直な意見を伝える。

  

「別のアメリカ……?別のイタリア……?客人、いったいそれは」

  

……

  

 カンカンカン!

  

 突如、城内の警鐘が鳴り響いてきた。

  

「むっ!ご免!」

  

 将軍がハッとして立ち、血相を変えて食堂から走っていった。

  

「ん?」

  

「ば……晩餐会は延期だ!皆!退避せよ!」

  

 国王が怒鳴る。 

 全員が去り、残った大司教も怯えた表情でウィリアムの手を引いた。

  

「こっちじゃ!聖堂に籠もるぞ!早ようせい!」

  

「待て!敵襲か!?アジア諸国と隣接しているわけではないだろう!?」

  

「そう、敵国の兵ではない!魔族、つまり魔物じゃ!内地の都市で警鐘が鳴る理由は魔物以外にあらず!」

  

「何!?」

  

 魔物。ウィリアムの鼓動が一気に高鳴る。

  

「おい、ウィリアム!?」

  

 駆け出す。聖堂へではなく、王宮の城門へ向かって。

  

「大司教は退避してろ!魔物という奴を見てみたい!」

  

「ならん!殺されるぞ!」

  

……

  

……

  

 大司教の忠告を無視して進む。

  

「あ!アンタ!どこへ!?」

  

「通してくれ!魔物とやらが街に現れたのか!?」

  

 もちろん王宮の城門は閉じられており、衛兵に行く手を遮られた。ここからでは城下町が見えない。

 

「分かってるならさっさと宮殿に入っていろ!」

  

「なぜだ、なぜ突然現れた!?」

  

「魔物は空間をねじ曲げてどこからか侵入してくる!それを防げるのは大司教様やベレニーチェ様が結界を張っておられる王宮内のみだ!そんなことも知らんのか!」

  

 結界か。もうそれくらいで驚きはしない。外からは剣や槍の音、人々の悲鳴やおぞましい何者かの雄叫び。火の手も上がっているのか、夜空が赤く見える。

  

「くそっ……!そうだ、将軍は!?」

  

「タルティーニ中将なら今し方、勇猛果敢に自ら兵を率いて魔物の軍団と戦いに向かわれた!」

  

「伝令があるんだ!早く通せ!」

  

 もちろん出任せだ。将軍のそばなら危険も少なく、色々なものを見たり話を聞いたりできるかもしれない。

 

「何っ?それを早く言わぬか!」

  

 二人の衛兵がたじろぐ。

  

「だが、門自体を開けるわけにはいかん。上へ」

  

 一人が城門にそって作られた梯子を指差した。

 

「上から城下町側に縄でも下ろすのか」

  

「そうだ」

  

 その兵と一緒に梯子を登り、城門の上へとたどり着く。

  

……

  

「急げ!下ろすぞ!」

  

「これは……」

  

 ついに見えたローマの街並み。そこはすでに戦場と化していた。

  

 逃げ惑う人々。

 踏みつぶされ、食いちぎられたのだろう。バラバラになった死体がそこら中に転がっていた。  

 隊列を組んだ王国騎士団と対峙するのは……人間の三倍はあろうかという、とてつもなく大きな身体をした生き物が数体。

 それが両手で大斧を振り回している。その度に人の首や腕が飛び、鮮血が舞っていた。

 

「……くっ」

  

 マフィアであるウィリアムは、拷問や粛清による残酷な死を現世でも見てきた。だがそれでも圧倒的な死の多さと凄まじさに吐き気をもよおす。

  

「アンタ!大丈夫か?」

  

「くっ……想像以上だな……あの、灰色で堅そうなデカい奴は?」

  

「斧を振り回してる奴だろ?俺たちはオーガって呼んでる。刃もなかなか通さないし、人を斬っちゃ食うし、恐ろしい化け物だぜ……」

  

 その『オーガ』という化け物の見た目は全身の皮膚が灰色で、衣類は一切身につけていない。頭髪はうっすら生えている程度で、でっぷりとした鼻、口から突き出している牙がかなり目立つ。耳は小さいが尖っており、目は顔の三分の一を占めるほど巨大で不気味だ。

  

「……あんなの倒せるのか?」

  

「見たところ四体か。かなり厳しい戦いになるだろうな。オーガ以外の侵入がなければ、の話だがな」

 

「他にも色々いるわけだな……」

  

 状況に圧倒されてげっそりとしてしまったウィリアム。その尻を衛兵が蹴り上げた。

  

「伝令は!早く行け!ほら、中将ならあそこに見えるだろうが!」

  

 騎士団の中に、一際大きな黒い戦馬に跨がる男。自らは金色の甲冑をまとい、特大の両刃剣を肩に担いでいる。

  

「おぉ……人間も化け物じみてるな……あんな冗談みたいな武器を振れるのか?」

  

「中将は優秀な指揮官であると共に、天下無双の武人だからな!あの方が出られて大敗した戦は無い!ほら、早く行け!」

  

「チッ……」

  

 下ろされた縄を掴み、スルスルと降りる。

 城下町側の地面に降り立つと、縄は直ぐに引き上げられてしまった。もう戻れない。

  

「あのデカブツから少し距離はあるな。こんなところで死んでたまるかよ……」

  

 ウィリアムは将軍の隊列に向かってゆっくり進み始めた。

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