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#5

「おはようございます。バレンティノ様」

  

「おはよう」

  

「おはようございます」

  

……

  

 2009年12月12日。イタリア、ローマ王宮。

  

 ウィリアムがいつものように城門をくぐると、いくつもの挨拶の声があった。

 兵士や従者、貴族や王族、様々な人間が行き交うエントランスはクリスマスが近いせいか、壁に円形のリースがかけられたり、飾りつけされた大きなもみの木が立てられたりしている。

  

「ウィリアム」

  

「……おっと」

  

 次に話しかけてきた人物を確認すると、ウィリアムはサッと跪いて頭を垂れた。

  

「おはようございます、陛下」

  

 ミケーレ・マランツァーノ三世。

 このイタリア王国を治める国王である。

 澄んだ蒼い目をした彼はこの日、足先まである長い純白のローブを羽織っていた。頭にはもちろん国王の証とも言うべき、金色の王冠が鎮座している。

 

「おはよう。そうかしこまるな。……ウィリアムがこの城へやってきて大分経つが、大事な客人であるのに変わりは無いのだぞ。お主は余の部下では無いのだからな」

  

 まだ青年と言えるほど若い国王が、爽やかな笑顔と共に右手を差し伸べた。

  

「はぁ……わかりました」

  

 ウィリアムはその手こそ握りはしなかったものの、国王の言うとおり、跪いた体勢を崩して立ち上がる。

  

「いよいよだな」

  

 満足そうに大きく頷き、国王がそう言った。

  

「はい。わざわざ新しいスーツまでこしらえてもらって、ありがとうございます」

  

 ウィリアムはいつものストライプ柄のスーツ姿ではなく、グレーのシングルスーツを身に纏っている。真っ白なワイシャツに、タイも新調したオレンジ色の鮮やかなものだ。

 綿ではなく麻なので多少ごわつくような着心地だが、それでもハイセンスなウィリアムは新たな装いが心地よかった。彼は以前から従者にスーツを作ってもらおうと思っていたが、国王の力添えもあってついにそれが実現したのである。

 

「しかし何度見ても奇妙な出で立ちだが、そんなに気に入っているのか?今度、余にも一着作らせてみるか」

  

「ははは、きっと似合いますよ」

  

 女性の従者が一人、早足でウィリアムと国王の所へ寄ってくる。

 モノトーンのメイド服を着た二十歳前後の女だ。顔くらいは見たことがあるが、名前までは知らない。

  

「陛下、バレンティノ様。こちらにおいででしたか」

  

 彼女が冷たい石の床に両膝をついて二人にそう言った。まるで女神像に祈りを捧げるシスターのような姿勢である。

  

「どうした?」

  

「御一行様が王の間でお待ちです」

  

「大司教だな。わざわざ使いなんて寄越しやがって。世話焼きな爺さんだ」

  

 ウィリアムが悪態をつくと、従者の女性は困ったような顔をしてしまう。

  

「そう言ってやるな、ウィリアム。助かったぞ、すぐに向かうと伝えてくれ」

  

 安堵の表情に変わった女性が失礼します、と去っていく。

  

 今日はいよいよ、ウィリアムが使者としてイギリスへ旅立つ日であった。

 

……

  

……

  

「お待ちしておりました、陛下」

  

 国王とは対照的な真紅のローブを着た大司教が出迎える。

  

 玉座が置かれた大広間には、右大臣のアダムやタルティーニ中将、副官のロッシーニ中佐の姿もあった。彼らは玉座の左右に立っている。

 そしてもちろんウィリアムの遠征を支える皆の顔も揃っていた。こちらは玉座まで続く絨毯の脇に控えている。

  

 常駐しているはずの十二近衛は退室しているようだ。

  

「……揃っているな。では、出発の儀を執り行うとしよう」

  

 腰を下ろした玉座から、改めてイギリス遠征のメンバーを見回す国王。

  

 ウィリアムを長とし、相変わらず魔女のような格好をした研究室長のベレニーチェ、紫色の荘厳なローブ姿の錬金術師のピエトロ・ムッソリーニ、護衛のガットネーロ隊が三名、従者のアーシア、御者らしき恰幅のよい男が一人。

 

 御者はつい先日決定したばかりのヘンリーという男だった。

 名前からも分かる通り、イギリスの出でイタリア国内に住んでいる者である。ウィリアム以外は英語が話せない編成だったので、場合によってはヘンリーは通訳にも一役買うことになりそうだ。

 

 このヘンリー。

 見た目は太い身体に口ひげを生やしたどこにでもいそうなナイスミドルだが、なかなか面白い経歴の持ち主だった。  

 彼がイギリスにいた頃の生業は、なんと盗賊団の頭領だったのである。  

 ではなぜそんな者が堂々と暮らしており、尚且つ使者のイギリス遠征に付き添う御者という大役を拝命しているのか。それは彼がイタリアに入ってきてから起こした事業による功績が大きい。

 ヘンリーは盗んだ金銀財宝を元手に、馬具や馬車を作る会社を始めたのだ。

 それは盗賊の被害や戦闘に巻き込まれても、ちょっとやそっとでは壊れないような頑丈なものである。

 元々は襲っていた対象だ。彼が生み出す製品には、その弱点を知り尽くしたヘンリーだからこそ思いつく様々なアイデアが盛り込まれた。  

 欧州四カ国の中で最も国力が弱いイタリア王国。技術力も然り。

 そんな中で彼が作る最新鋭の馬車には、貴族や大商人達からの注文が次々と入り、いつしか王室お墨付きの存在になるまでのし上がっていった。そして今回は特別に、代表である彼が自ら御者として同行することになったのだ。

 

……

  

 パン!パン!

  

 ゆっくりとした手つきで国王が手を叩く。

  

「……?」

  

 皆の注目など最初から集まっているではないか、とウィリアムは思ったが、これは使用人を呼ぶ為らしい。

「およびでしょうか」と言いながら先ほどの女性が現れて、ウィリアムはそれに気づいた。

  

「使者団に預ける品々をここへ」

  

「かしこまりました」

  

 いくつかの書状、そしてイギリス国王に献上する品々が、数人の従者や兵士たちの手によって運び込まれる。

 金貨や絹などの貴重品、小麦粉などの食料品がほとんどである。しかし、量はさほど多くないので、馬車がいっぱいになる心配はしなくて済みそうだ。

  

「ウィリアム、ここへ」

  

 次いで、ウィリアムが呼ばれた。

  

「はい」

  

 玉座の真正面に立ち、国王と向かい合う。

 

「これらの品々をお前に預けよう。くれぐれも、気をつけて行って参れ」

  

「ありがとうございます、陛下」

  

「イギリス国王によろしくな。よし、それではウィリアム・バレンティノとその一行の出国を許可する!皆、馬車に積み荷を載せるのを手伝うのだ!」

  

「ははっ!」

  

 今し方運び入れたばかりの荷物を、今度は馬車へと持って行く従者達。

 ウィリアムも国王や右大臣、中将や大司教にそれぞれ一礼、そして数枚の書状だけを受け取って回れ右をした。

  

……

  

「バレンティノ様、馬車は城の裏手に待機させてあります」

  

 ベレニーチェがそう言いながら、ウィリアムと肩を並べて歩き始めた。

 国王や大司教達も王の間から出てくる事はなかったので、あまり盛大な門出ではないらしい。

  

「あれか」

  

 コーチ。馬四頭立ての大型馬車。

 乗車スペースの大きさは幅と高さが共に10フィート(約3m)、長さが15フィート(約4.5m)はありそうだ。アーチ型の見た目はよく知られているが、骨組みや土台は木材ではなく金属を使用しており、最も目立つ幌の部分は暗い茶色の生地が張ってある。

 四つある車輪は木製だが、ぐるりと一周に渡って接地面部分がなめした動物の皮らしきものに包まれている。これは自動車のタイヤのように、衝撃を吸収したり滑りにくくする工夫のようだ。こうして少し見ただけでも丁寧に作られているのが分かる。長旅の中で、他にヘンリーがこの馬車にどんな工夫を施しているのか、少しずつ分かってくるだろう。  

 それを引く馬四頭も、大柄で立派なサラブレッドが揃えられていた。黒い毛並みと、栗色の毛並みがそれぞれ二頭ずつ。さらに一騎、鞍をつけられた白馬がいる。これはガットネーロ隊の分隊長、チェザリス少尉が騎乗する為の馬だ。

  

「ほう……見事な馬だ」

  

「馬はあっし個人の買いつけでさぁ」

  

 腕組みをしたヘンリーがにやけ面でウィリアムの独り言に返してきた。

 低く、ドスのきいた声だ。

  

「ヘンリーだったな。よろしく頼むよ」

  

「へい。任せといて下さい、旦那。あっしの作る馬車は世界一でさぁ」

  

「そりゃ頼もしいな」

 

 ウィリアムはにこやかに笑ってみせるが、ヘンリーは無表情で彼を見返した。

  

「……」

  

 ヘンリーの身の上話は一切ウィリアムに知らされていないが、何やら普通とは違う雰囲気を読み取る。そしてそれはお互い様だった。

  

「旦那。裏家業の方ですね」

  

「……そう見えるか」

  

 そっとささやくような声。近くには多くの人間がいるが、誰にも聞こえてはいない。

  

「悪党は鼻が利くもんで」

  

「そうか……まあ、お前には隠す必要もなさそうだ」

  

「へい。もちろんあっしはキレイさっぱりアシは洗ったんで、心配には及びません。久々にその筋の方と話すもんで嬉しかったんでさぁ」

  

 ここでようやく顔をほころばせたヘンリーが歯を見せた。

  

 それから出発までの少しの時間、彼らは盗賊団とマフィアの生業の話題で交流を深めたのだった。

 

……

  

……

  

「はぁっ!」

  

 御者が馬に鞭を入れ、パッカパッカと蹄を鳴らして馬車が前進し始めた。

 見送りはわずかな使用人達と兵士だけ。何も無いよりマシか、とウィリアムは手を振る彼らを見つめていた。

  

 馬車は王宮の北側、裏門から出発する。

 しばらくは見慣れた城下町を通るが、数分後にはローマ全体を囲んでいる城壁と堀を抜けて大草原へと進んでいった。もちろんそれは、ウィリアムがこの世界へ飛ばされた直後の光景である。

  

……

  

「紅茶でも淹れましょうか」

  

 まだ旅は始まったばかりだが、下女のアーシアがそう言ってティーセットを用意し始める。

 馬車内にはウィリアム、ベレニーチェ、ムッソリーニ、アーシアの四人である。ヘンリーは前方で馬車を操舵しており、ガットネーロ隊は外で警護に当たっているのだ。

 小さめだが、車内の左右に窓が一つずつ備えつけてあるので、白馬に跨がる分隊長のチェザリス少尉の顔がちらりと見える事もあった。カンナバーロ伍長とアマティ上等兵は早足で馬車の後ろを追従しているようで、窓からは姿を確認出来ない。

 

「お待たせいたしました」

  

 メイド服姿のアーシアが皆に言った。

  

 車内の中央に、研究の為に用意された申し訳程度の丸テーブル。その上にカップが三つ置かれ、生ぬるい紅茶が出された。炉があるわけではないので、常温水に茶葉を混ぜただけのものである。

 ウィリアムらは椅子代わりに酒樽を寄せて座る。

  

「あら?火が起こせなかったのかしら?」

  

 カップを手に持ち、ひんやりとしている事に気づいたベレニーチェが問いかけた。

  

「あ!すいません!そうですよね。王宮の方にぬるいお茶をお出しするだなんて……私は普段から飲み慣れているので気がつきませんでしたわ。どうしましょう」

  

 馬車内を見渡すが、火を起こしたければ馬を止めて薪を集め、外で野営するくらいしか無い。

  

「ポットを魔術で温めましょう。貸してみて下さいな」

  

 アーシアが手に持っていた銀製のティーポットをベレニーチェが受け取る。

 一度カップの紅茶をすべてポットに戻して、神木で作られているという杖を取り出す。

  

「……発火!」

  

 ボゥッ!と杖先が燃え上がり、その火がポットの底を焦がす。

 二、三分程度そのまま動かずにいると、勝手にその火が消えてしまった。もちろん閉めきられた車内に風など吹いてはいない。

  

「ん?消えたぞ。沸いたのか?」

  

「あ、すみません。魔力が尽きてしまったようです」

  

 ベレニーチェが少し疲れた表情を浮かべ、ウィリアムに返す。

 魔術は魔力というものによって生み出され、使いすぎると枯渇してしまうらしい。

  

「しかし、良い香りがしますな。もう充分なのでは」

  

 ムッソリーニが鼻をヒクヒクと動かしながらそう言った。

  

「あまり無理はするな。紅茶ひとつに身体を壊されては大変だ」

  

「しばらく安めば大丈夫です……ふぅ」

  

「休めば魔力は戻るのか……それなら安心だ。だが、そんなに疲れるのならば城に張っていた結界はなぜ消えなかったんだ?」

  

 確かに、それでは説明がつかない。城外の人間であるムッソリーニがいる場だが、たまらずウィリアムは訊いてしまった。

 

「発火や放電は直接自然現象を引き起こすものですが、結界は王宮全体を補強しているようなイメージですね。バレンティノ様も私の普段の研究室での生活を見ていらっしゃったと思いますが、常日頃から結界術を詠唱していたわけではありません」

  

「つまり、一度結界の魔術を使えば、しばらく効果が持続する……という事か?」

  

「その通りです。結界は通常、日に一度か二度だけ張り直します。ただし魔族の侵入などでダメージを受ければ、その都度クレメンティ大司教様と私が強化しているわけです。そういう時だけは一度や二度では済みませんわ」

  

 大司教が魔術を使っているところは見たことがないが、イタリア国内において魔術の権威である彼女と肩を並べているのだ。彼もまた、その魔力は絶大であるに違いない。

  

「なるほどな……」

  

「結界を張る以外にも、対象の腕力を一時的に増強させたり、鎧を固く頑丈なものにする補助的な魔術もありますよ。伝統を重んじる騎士団の方々はあまり好まない方法ですが、逆に魔術と剣術を掛け合わせて戦う事を得意とした者は、魔法戦士と呼ばれています」

 

 ウィリアムが見た王国騎士団の中には、そんな者はいなかった。魔族と必死に戦う兵士達は、手に持つ武器を頼りにしていたはずだ。

  

「それは面白いな。ローマには?」

  

「いませんね。ローマだけというより、イタリア全土を探してもいるかどうか……フランス王国には多数存在しているようですが、我が国では魔法戦士は認知度も低く、異端者扱いされてしまいかねません。魔術師の中でも、最も歴史が浅いのです」

  

「確かに魔術と剣術を組み合わせるという発想は、後々になって生み出されたものに思えるな。しかし、有用性は高そうだ」

  

 どちらにも手を抜く事なく鍛錬し、器用貧乏にならなければの話である。

  

「魔力を持つ人口比率がフランスほど高ければ良かったのですがね」

  

 この言葉から、血筋や国籍が魔力の有無に関わっていることが分かる。残念な事に、イタリア人はそれに恵まれていない事もだ。

 

「さぁ、皆さん。室長様が魔術で温めて下さったお茶をどうぞ」

  

 アーシアが再びカップに紅茶を注ぎ、それを三人が口へと運ぶ。

 ウィリアムは現世ではもっぱらコーヒーばかりだったので、美味いか不味いかは分からない。

  

「これだけ大掛かりな馬車だと、旅も優雅なものですな」

  

 ムッソリーニが紫色の厚手のフードを脱ぐ。大司教と同年代な割には白髪が少なく、若々しいオールバックのヘアスタイルだ。

  

「御者様にもお出しして来ますね」

  

 車内前方。

 人の出入りは出来ないが、御者とやりとりができる小窓があった。一軒家の裏口などに見られる、ペット用の出入り口程度のものである。

 小窓とは言っても透過性はない鉄製で、開閉する事でヘンリーと会話や、ちょっとした物の受け渡しが出来る形だ。

 

 コンコン。

  

 アーシアがその小窓をノックすると、ヘンリーが外からパタリとそれを引き倒して開けた。

  

「へい、何かご用で?」

  

 ヒゲ面が覗き込んでくるのがウィリアム達からも見える。

  

「御者様、お茶です」

  

「あぁ、紅茶ですかい。ありがてぇが、苦手でして。あっしは水か、酒しか飲まないんでさぁ」

  

 そんな言葉が返ってくる。

 一流の馬具メーカーの創業者のはずだが、彼は庶民や上流階級の嗜みとはまるで無縁なのだ。  

 しかしそれを見たウィリアムは、ヘンリーが妙なゴマすりやおべっかを使ってのし上がってきたわけではないと感じた。彼の武器は、製品の質。そう考えると逆に信頼と好感が持てる気がしてくるから不思議だ。

 やはりアーシアやベレニーチェ、錬金術師のピエトロ・ムッソリーニはこの荒くれ者のつれない返答に少し苦い顔をしたが、ウィリアムが小窓まで出向く。

  

「ヘンリー、俺もそっちに行っていいか?スコッチでも一緒にどうだ」

  

「そりゃ、旦那にそう言われちゃ断れませんぜ」

  

 車内後部の出入り口から車外に出て、幌の外に張られた足場を通って前方の御者席に向かう。

 

……

  

「動いてる馬車の外部を移動するってのは、なかなか怖いもんだな」

  

「あっしは慣れちまいましたがね。次からは停車させましょうか」

  

「いや、大丈夫だ。ありがとう」

  

 ウィリアムがヘンリーの横に座る。

 御者の座席は無骨な木製ベンチだった。座り心地は固い。藁で編まれた座布団が敷いてあるが、これは気休め程度だ。二人がけ用らしいが、無理をすれば三人は座れるくらいの横幅である。

  

「しかし、こりゃイギリスにつく前に腰を痛めちまいそうだ」

  

「そうですかい?綿や羽毛の使用も考えてみるかな」

  

 早速、ウィリアムのクレームで御者席の乗り心地を改善するアイデアが浮かんだようだ。

  

 コンコン。

  

 背後からノック。

 アーシアがスコッチの入った酒瓶を一つだけ小窓から準備してくれた。  

 その酒を、交代で一口ずつ飲むのだ。ヘンリーがグラスなど使うはずもない。そう思ったウィリアムが、アーシアに『酒は一本だけでイイ』と伝えていたのである。

 

「ほら」

  

 先に一口あおり、ヘンリーに手渡す。

  

「へへっ、どうも」

  

 ニッ、と笑い、ぐびぐびと水のように喉を鳴らして酒を飲む。

  

「イイ飲みっぷりだ。それだけでも誘って良かったよ」

  

「旦那、すいませんね。気ぃつかわせちまって。あっしが偏屈なもんで、合わせてくれてるんでしょう」

  

「それは勘違いだ。俺は元々お前寄りの人間だぞ?合わせてるって言うんなら、むしろ城の人間との付き合いの方だろうな」

  

 これはあまり大きな声が出せない話だが、もちろん他の人間との生活が苦痛であると言っているわけではない。

  

「おや、お二方。もう酒盛りですか」

  

 日は高い。馬車の左手で馬を進ませるチェザリス少尉が、酒瓶と赤ら顔のウィリアム達に気づいてそう声をかけた。

 

「はは、見つかってしまったな。うらやましいか、少尉」

  

「そりゃもう。しかし、我々の仕事は貴方の警護ですから。くつろぐのは遠慮しておきます」

  

 酒が嫌いな兵士などほとんどいない。

 戦地で生死を分かつという職業柄、王宮の中では最も荒っぽい部類に入る人間の集まりだ。もちろん十二近衛のように騎士という栄誉を王から与えられていれば、社交界で品も磨かれてはいくだろうが。

  

「次の街に着いたら小休止しよう」

  

「はっ、了解しました」

  

 馬車は北西へと進路を向けていた。

 ヨーロッパ大陸はきれいな正方形であるが、四カ国の国土はそれをキレイに等分している。つまり、国の大きさだけならば四カ国は全く同じなのだ。

 イタリア王国はその南東に位置し、イギリス合衆国は北西。大陸を斜めに走っていくことになる。

 

「次の街は近いのか?」

  

 これはチェザリスではなくヘンリーに向けた質問だ。ローマの外となれば彼の方が詳しい。

  

「どこを目指すかによりまさぁ。デカい街ならフィレンツェがあるんで丸一日。集落程度の小さな町でよければモンテロージやヴェトラッラを目標に、数時間ってところでさぁ」

  

「ふーむ。俺達はどちらでも構わないが。少尉、さすがに後ろの二人は疲れるだろう?」

  

 駆けてこそいないが、馬の動く速度に合わせているのだ。徒歩の兵士二人は早足になる。

  

「今のところ問題ありません」

  

 ウィリアムからは見えないが、少尉が後方を確認してそう返した。

  

「しかし一日中歩かせるのは無理だな。アマティ上等兵とカンナバーロ伍長は乗馬可能か?」

  

「はっ、上等兵はいけます」

  

「そりゃイイ。しばらくその馬で警護を彼に任せて、カンナバーロとお前は車内で休め。一気にフィレンツェを目指そう」

 

……

  

……

  

「ふう!暑い暑い!疲れたな~」

  

 鉄兜を脱ぎ捨て、手甲や具足も放り投げ、車内の床に転がってしまっている兵士。

 カンナバーロ伍長である。

 彼は黒髪の短髪に頬のこけた痩せ型の身体で、無精ひげが目立つ。がさつなのは玉にきずだが、決して荒くれているわけではなく、いつも明るくふざけているような印象だ。

 重装備で歩きっぱなしだった彼が板張りの床で大の字になっているのを、ウィリアムやベレニーチェらは微笑ましい表情で見ていた。

  

「隊長~。腹が減りました」

  

「しゃんとしろ、伍長!みっともないぞ!」

  

 隊長の返答。

  

 同じく車内で休息している分隊長、チェザリス少尉は窓際に立ったままで控えている。

 彼は伍長よりも年下だが上官だ。士官学校を出た将校と、現場叩き上げの下士官なので階級に差がある。

 もちろん兵士になってからの期間もカンナバーロ伍長が遥かに長いのだが、そこは階級社会というわけだ。

 

「お堅いなぁ……」

  

 カンナバーロはぶつくさと文句を垂れながらも寝転がった体勢からあぐらをかいた。

  

「アーシアさん、でしたっけ」

  

「はい、何なりとお申し付け下さい」

  

「そんじゃ、お茶だけもらおうかな。隊長、構いませんよね」

  

 また怒鳴られやしないかと上官にうかがいを立てる。

  

「私も貰おう。おカミさん、お願いします」

  

「はい、喜んで」

  

「あ!私、また温めますよ」

  

 ベレニーチェが言い出て、淹れたての紅茶が振る舞われた。

  

……

  

「アーシアさん、度々すまないんだが、ハンカチはあるかい」

  

「手拭いであれば、これをどうぞ」

  

「どうも」

  

 テーブル拭きに使うために持っていたのだろう、布を受け取る。そして、自慢の槍を手に取って刃を拭き上げ始めた。

  

「感心だな、伍長」

  

 ウィリアムが話しかける。

 

「ひび一つ見逃して、戦で折れてしまえば死ぬのは自分になるわけですからね」

  

「ほう。チェックはかかせないか」

  

「そういう気持ちを常に持ってもらいたいものだな……」

  

 チェザリスがやれやれと肩をすくめながら皮肉を言う。女性陣からクスクスと笑いが起こった。

  

 その時。

  

……

  

 ガタン!

  

 車内に大きな衝撃が一つ。スッと左後部が突然低くなり、斜めの状態になる。

 馬の嘶きがいくつか聞こえ、馬車は完全に停止した。

  

「……なんだ!?」

  

 話していた内容が内容だけに、誰もが敵襲を予測した。

  

……

  

「すいやせん、旦那。左の後ろが落輪しちまいました」

  

 前方の小窓からヘンリーの声が入ってくる。どうやら溝か何かに車輪がはまってしまったらしい。

  

「なんだ……そうか。俺達が後ろから押そう。それで抜け出せるか?」

  

「いえいえ、心配には及びませんぜ」

  

 立ち往生となれば大変なトラブルのはずだが、ヘンリーは冷静である。

 

「そうは言っても心配ですね。バレンティノ殿、我々が加勢をしてきますので。皆さんもこのままお待ち下さい。伍長、行くぞ」

  

「はい、隊長」

  

 チェザリスがテキパキと段取りを決めていく。

  

「いや、俺も行くよ」

  

 しかし、ウィリアムは状況把握の為に兵士達と共に車両後部から外に出た。

  

……

  

 すでに日が沈んでおり、平原を這うように敷かれた農道はほとんど視認できない。

 そのせいで、道の左に沿って流れている小川に後輪が落ちてしまっていた。

  

「おや、いらしたんですかい。初日からこんな事で申し訳ねぇ」

  

 すでに車輪のそばに屈み込んでいたヘンリーが顔を上げる。

  

「いや、無理言って進ませた俺にも責任がある。復帰できそうか?」

  

「このくらい余裕でさぁ」

  

 言いながら、彼は左前輪と後輪の間、車両の中腹辺りを弄り始めた。

 

「そりゃ何をしてるんです?」

  

 カンナバーロがヘンリーに訊いた。

  

「まあ見ててくんな、兵隊さん。よっ、と!」

  

 ガリガリガリ!

  

 車の腹下から、地面と水平に収納された車輪が現れた。

 さらにそれに力を加えると、支えてくれていた木製の支柱がガチャリと音を立てて変形し、その車輪が九十度立ち上がって地面と垂直になった。つまり、車体を乗せて地面を捉えたのである。補助輪つきの自転車のようにも見える。

  

「なんだなんだ」

  

 カンナバーロが興奮している。ウィリアムとチェザリスも興味津々で見守った。

  

「この馬車は六輪なんでさぁ。しかしこのままじゃ脱出できやせん」

  

 確かに、車輪が増えただけでは進めない。

  

 すると、その補助輪の支柱にある穴に、クランクを突っ込んでギリギリと回し始める。

 なんと補助輪がぐんぐんと伸びて、車体を押し上げていくではないか。

  

「まさか!ジャッキアップ出来るのか!お前は天才だな、ヘンリー!」

  

 この世界の技術力では到底発明出来そうにない高度な仕組みだ。

 魔力に頼った世界にも、技術の知恵を絞る人物がいた事にウィリアムは感動した。

 

「へっへっへ、馬車ってのは立ち往生させちまえばこっちのもんなんですぜ。動かなくなりゃ、大半の物は棄てて逃げ出すしかねーもんで」

 

 一理ある。

 列を組んで移動しているであろうキャラバン隊の、どれか一台が脱落すれば、その馬車は見捨てられてしまうだろう。

 

「なるほどな。それをさせない為に施した工夫なわけか」

 

「こっちのもん……?」

 

 感心するウィリアムとは違い、チェザリスやカンナバーロは首を傾げる。彼らはヘンリーの前職を知らないのだ。

 

「あぁ、いや。こっちの話でさぁ。しかし、これで復帰出来るんで。車内に戻ってくだせぇ」

 

 視界の隅で、アマティ上等兵が騎乗したまま警邏しているのが見える。

 夜盗にしろ猛獣にしろ、はたまた魔族にしろ、停車しているところは恰好の標的にされてしまうからだ。

 ヘンリーの指示に従い、車内に戻ろうとした、その時。

 

「た、大変です!」

 

 そう叫びながら駆けてくる騎馬兵、もちろん甲冑に身を包んだアマティ上等兵である。

 すぐに踵を返したチェザリスが応対した。

 

「どうした」

 

「後方に、魔族の群れを発見しました!数は五体前後!飛行型の個体です!」

 

「なんだと?インプか、ガーゴイルあたりか。我々への攻撃を?」

 

 まずそれを危惧する。

 

「いえ、東に進んでいます!この場にいれば、発見される事はないでしょう」

 

「……となると、狙いは近くの村や町か」

 

 チェザリスがウィリアムに目配せをしてくる。最終的な判断を仰いでいるのだ。

 

「少尉。悔しいが、俺は許可できん。やむを得ない戦闘以外は避けるべきだ」

 

「……了解しました」

 

 悔しいのは彼も同じだろう。しかし、たった三人の分隊が多数の魔物と渡り合えるとは思えない。

 

「魔族は……五匹。間違いないですかい、兵隊さん?」

 

 ふいに、ヘンリーがそう言った。

 

「え……?はい、見逃してはいないと思います」

 

 アマティ上等兵が返す。皆もヘンリーの意味深な発言に興味を持った。

 

「おい、ヘンリー。この馬車に武装が?魔族を倒せる武器があるのか?」

 

 ウィリアムが訊くが、ヘンリーは首を横に振った。

 

「まさか。馬車は馬車でさぁ。鉄板仕込んで、矢を放つ戦闘馬車とは違う」

 

「じゃあ、何が言いてーんだ。みんなの命を預かる身だ。適当な事吐いてるんじゃねーだろうな」

 

 少し苛立ったウィリアムの口調が荒くなる。彼のことを優男だとばかり思っていた兵士たちの顔が強張った。

 

「へへっ。旦那、あんまりこの使者団をなめちゃいけねぇってだけですよ。三対五じゃ確かに厳しい。……しかし、八対五なら話は違う。そういう事でさぁ」

 

 この言葉の意味を理解するのに、ウィリアムは一時を要した。

 そして、一つの答えを導き出す。

 

「お前……」

 

「旦那が真っ当な道ばかり歩んで来たわけじゃないのは聞きました。あっしの場合は、過去を変えるために今の商売をしてるんです」

 

 すべてがつながる。

 ヘンリーは、ウィリアム・バレンティノのという人物の『今』を知りたがっているのだ。「アンタはどうやるんだ」と。それは、ウィリアムがこちらの世界に来て初めて、自らの心髄を他人に試されているという事になる。

 ヘンリーがそういった事をする理由は、誰よりもウィリアム自身が分かっていた。まさに彼こそが、すべての人間に対してそれを自然と行ってきたのだから。

 

「……少尉」

 

「はっ」

 

 チェザリスが姿勢を正す。

 

「五匹の魔物を取り逃がした場合、予想される被害は」

 

「ローマのように部隊が常駐している都市ならば、最低限に食い止められます」

 

「農村ならばどうなる」

 

「壊滅の可能性も」

 

 厳しい回答だ。

 

「ヘンリー、馬車の進路を東へ。少尉、車体を引く馬を一頭放して、二騎で貴様と上等兵が先行しろ。……奴らを一匹残らず叩き潰す」

 

 マフィアの時代から自分の事以外では慎重な道を辿ってきた彼の中で、何かが変わり始めた。

 

……

 

……

 

 ガラガラと、車輪が地面を這う振動が強くなる。

 

「はぁっ!」

 

 力がこもったヘンリーの声と鞭の音。


 馬車は全速力で移動していた。

 先行する二騎から、標的との接触を知らせる火矢が上空に放たれたのを、後続の彼らが確認出来たからである。

 カンナバーロ伍長は装備の支度を済ませ、車内後部でヘラヘラと笑っていた。

 ベレニーチェは神木製の細い杖を携え、ムッソリーニも特殊合金製の大きな杖を準備する。

 御者のヘンリーはおそらく実戦慣れしているが、使用人のアーシアは非戦闘員として、もしもの時の仲間の救護を担当させる。

 ウィリアムはすでにヘンリーの隣で双眼鏡を構え、夜目をこらして外の状況を把握する事に務めていた。

 

「旦那、得物は持ってないんで?」

 

「お前達一人一人が俺の刃だ」

 

「へへっ、大したタマだ」

 

 近い。敵を目視で確認する。数は六。報告と軽微な差がある。

 コウモリの羽を生やした小型の悪魔、インプと呼ばれる魔族だ。

 

「馬車を停止しろ!伍長、出れるか!」

 

「待ってましたよ!」

 

 ガン!

 

 後部のハッチから、自慢の槍を手にした兵士が飛び出した。

 

「来たか!遅いぞ、伍長!」

 

 チェザリス少尉の声が聞こえてくる。

 

「なんで俺のせいみたいに言うんですか、隊長ー!」

 

 カンナバーロ伍長がそう返す中、アマティ上等兵が弓を放つ音も聞こえた。どうやら全員無事のようだ。 

 インプの群れは、ギャアギャアと高い声で叫びながら空中を漂っている。

 

「私達も行きましょう、ムッソリーニ様」

 

「この老いぼれの身、戦闘など久方ぶりです。腕がなりますな」

 

 続いて、派手なローブ姿の魔術師ベレニーチェと錬金術師ムッソリーニが馬車から出てくる。 

 ウィリアムは車体の幌によじ登り、状況を見えやすいようにした。

 

「バレンティノ様、ご指示を」

 

 力のこもった目で、ベレニーチェはウィリアムを見つめた。彼女の兄の命を奪った魔族。その仇が、目と鼻の先にいるのだ。

 

「とにかく前衛は重装備のガットネーロ隊に任せておけ。二人の魔術は、遠距離での使用は可能か?」

 

 小型の魔物が相手とはいえ、鎧をつけていない人間が攻撃されれば一撃で殺されてしまうのは分かりきっていた。もちろん、防具があっても助かる保証など無いが。

 

「効果的な攻撃は不可能です。味方が巻き込まれてしまいますわ」

 

 なるほど、射程距離の問題ではなく同士討ちの危険性から不可能との回答だ。矢だろうが銃だろうが、それは同じ事が言える。

 

「接近戦ならば誤射はあり得ません。ご許可願えますかな、バレンティノ殿?」

 

 これはムッソリーニだ。だが、ウィリアムはこれを却下した。

 

「そんなことは出来ない。他に何か、遠くからでも可能な魔術はないか」

 

「それならば発光の術で光源を打ち上げ、辺りを照らすのはどうですかな」

 

 確かにガットネーロ隊の攻撃は、空を斬るばかりに見える。相手が飛んでいる上に、視界が悪いのだ。

 

「照明弾に近い発想か……しかし敵にもこちらが丸見えだぞ」

 

「昔聞いたことがあるのです。インプはコウモリから生まれた魔族。夜行性なので目はほとんど見えていないと」

 

 これは朗報だが、信憑性が薄い。このムッソリーニの情報が間違っていたなら、こちらにも危険度が増す。

 

「それは、一度試してみる価値はありそうですわ。生態の研究にもなります」

 

「おいおい、ベレニーチェ。戦闘中は研究の事は捨て置いて欲しいんだが……」

 

 ベレニーチェのとんでもない発言にため息をもらすウィリアム。

 

「では、やりましょうか」

 

「仕方ない、やってみるか。少尉、聞こえるか!」

 

「はいっ!」

 

 返事だけが聞こえた。余計な事は喋っている余裕がないのだ。

 今のところインプから激しい攻撃は無い。空中に浮いて飛び回っているだけなので、闇夜に紛れて放たれているアマティ上等兵の矢だけが奴らに対する有効打だ。しかしそれも簡単には当たらない。

 

「発光の魔術で光源を作り出す!俺がいる辺りの真上に放つから、こちらを直視しないようにしろ!」

 

「承知しましたっ!分隊、復唱!」

 

「後方確認禁止!」

「後方確認禁止ぃ!」

 

 味方の目を眩ませてしまっては本末転倒だ。ガットネーロ隊の背面上空から照らし、万が一、敵の視力があったとしてもあちらからは逆光になる状態を作る。

 

「では、参ります……発光!」

 

「発光!」

 

 ベレニーチェとムッソリーニの杖が天に向けられ、光を放つ球体が二つ、ゆらゆらと杖先から夜空に上っていった。 

 大きさはサッカーボールくらいだろうか。しばらく上昇したところで二つの球体が合体し、さらに強い光を放った。

 ウィリアムはたまらず胸ポケットに入っていたサングラスをかける。それでも球体を直視するのは不可能だ。辺りは当然、真っ昼間と見間違えるほどに明るくなった。

 六体のインプが前方のガットネーロ隊の近くで飛び回っているのがハッキリと見える。

 

「アマティ!」

 

 分隊長のチェザリス少尉がアマティ上等兵の名を叫ぶ。

 

「射落とします!」

 

 ビュッ!ビュッ!

 

 矢継ぎ早に数回のストロークを行う。

 

 一人でやったのが信じられないほどの多数の矢が風を切り裂きながらインプ達を襲う。

 

「カンナバーロ!」

 

「はいはい!行きますよ!」

 

 視界が確保出来た途端、水を得た魚のようにガットネーロ隊が動き始める。 

 弓兵のアマティ上等兵が放った矢は、二体のインプを地面に射落としていた。もちろんそれで絶命させたわけではない。魔物は人間よりも遥かにタフなのだ。

 痛みか怒りか、地面に這いつくばるインプ達はギャアギャアと激しく騒ぎ立てた。短い四つの脚で地面を捉え、最も近くにいたアマティ上等兵目掛けて突進する。

 

 ザシュッ!

 

 一閃。

 

 ピギャァァァァァ!!

 

 そして、耳をつんざく断末魔。 

 上等兵とインプ達の間に割り込んだカンナバーロ伍長が、自慢の槍をなぎ払ったのである。 力任せの一撃は、ひょろひょろの身体の伍長が繰り出したとは思えない破壊力を叩き出した。二体のインプは緑色のおぞましい鮮血を撒き散らし、一体は上下に真っ二つ、もう一体は首だけを失っていた。共に即死である。

 

「あ、ありがとうございます!先輩!」

 

「ボウズ!くっちゃべってないで残りも落とせ!」

 

「了解!」

 

 ビュッ!

 

 さらに数回、弓を射る。しかし、次はなかなか命中しない。

 決して上等兵の腕が悪いわけではないのだろうが、急に激しさを増した彼の攻撃にインプの群れが敏感になっているのは間違いない。先ほどまで空中で停滞していただけだったが、時折地上ギリギリまで滑空してきて攻撃を仕掛けてくるようになった。

 

「すいません!」

 

 アマティが不手際を謝罪する。

 

「急に動きが変わったな!カンナバーロ、迎撃出来ないか!」

 

 続けて叫んだのはチェザリス少尉だ。彼も士官用のショートソードを抜き、インプが攻撃の為に降りてきたところへそれを振り下ろすが、敵の素早い動きに地面ばかりを捉えてしまう。

 

「やってますってば!」

 

 カンナバーロ伍長の返答にも、少し焦りが見える。

 

「旦那」

 

 御者のヘンリーがウィリアムを呼ぶ。

 

「どうした」

 

「このままじゃ体力的にこちらが先にへばって、一人ずつ食われちまいますぜ。あっしが手ぇ貸します」

 

「なに?大丈夫なのか」

 

 ヘンリーがそれに頷く。

 

 しかし彼も魔術師の二人やウィリアムと同じく軽装だ。加勢はありがたいが、さすがに前には出せない。

 

「まさか、身一つで突っ込む……だなんて言わないよな?」

 

「そのまさかです」

 

「危険すぎるぞ!」

 

「必要以上には寄りません。得物は、コイツを使いましょう」

 

 そう言ってヘンリーが取り出したのは皮製の鞭。馬を叩くのに使っている、さっきまで彼が握っていたものである。

 

「鞭なんかが効くのか?」

 

「おっしゃる通り。コイツで叩いても、奴らには大した意味がありません」

 

「だったらどうする?」

 

「敵は降下し始めました。そこにコイツを引っ掛けて、すこしばかり体勢を崩してやろうかと。

 それだけでも兵隊さん達の剣や槍が当たりやすくなるはずでさぁ」

 

 そう言って、ヘンリーは地面に落ちていた拳くらいの大きさの石を拾った。さらに鞭の先にそれを結びつけ、投擲出来るように工夫を施す。 

 さすがに機転が利くと関心してしまう。馬車の造りにしろ武器や戦術にしろ、机の上では学べない事が多々あるのだ。

 

「それならば危険も少なくいけそうだな……鞭の予備はないか?俺もやろう」

 

「もちろんありますぜ。それじゃ一緒にやりますかい」

 

 ウィリアムもヘンリーと同じものを作ると、前線で戦うガットネーロ隊のところへ急いだ。

 

……

 

 ガチッ!

 

 攻撃を外した剣が土に刺さる。

 

「クソ!奴ら、さらにすばしっこくなったんじゃないか!?」

 

「隊長、落ち着いて下さいよ!化け物のスピードが上がったんじゃない、俺たちが疲れてきてるんです!」

 

 ベテランの下士官が、実戦経験の浅い上官を諫める。

 

「少尉、加勢に来たぞ」

 

「……!バレンティノ殿!?何をなさっておられるのですか!」

 

 軍人にとって、護衛対象は命に代えても守らなければならない。

 のこのこと前に出てこられては、守るものも守れなくなってしまう。もちろん、ウィリアムにもそれは十分理解できる。

 

「すまんな。ただ、コイツを試してみたい」

 

 チェザリス少尉とカンナバーロ伍長が、ヘンリーとウィリアムの持つ特製の鞭を見た。だが、すぐに理解できるわけはない。

 

「隊長!」

 

 それよりも先に、アマティ上等兵が叫ぶ。一体のインプが再び攻撃をしかけてきたのだ。

 後方から照射し続けてくれている魔術師二人のおかげで、勢いよく降りてくるそれはハッキリと見えた。

 

「ヘンリー!」

 

「もう少し……もう少し……今です!旦那!」

 

 同時に二つの鞭がインプを襲う。 

 ヘンリーの鞭は的を外れたが、ウィリアムのものがインプの左足に巻きついた。

 

「よしっ!」

 

 ズズッ……

 

 バランスを崩しながらも、インプはガットネーロ隊を目掛けて進んでくる。

 まるで大きなマグロを釣り上げたかのような力強い手応えがあった。

 

 ザシュッ!

 

 一刀両断。

 

 カンナバーロ伍長の刃が、速度の落ちたインプの胴体を引き裂く。豪快な一撃を見るとローマについて間もない頃に見た、タルティーニ中将の大剣捌きが思い出される。

 やはり緑色の血しぶきが舞い、少尉と伍長の身体を染めた。

 

「次!来ます!」

 

 またもやアマティ上等兵の警告が届く。

 しかし、ウィリアムの鞭はインプの死体に絡まっていてすぐには対応出来ない。屈んでそれを解いている真っ最中である。

 

「そりゃっ!」

 

 ヘンリーの鞭だけが的へと飛ぶ。だが、次なる敵はその鞭を左手で払い落とした。

 

「くっ!やはり見えているのか!」

 

 これは後方のムッソリーニだ。そう断定するにはまだ早いが、その可能性は高い。

 

「バレンティノ殿!地面に伏せて下さい!」

 

「お客さんをお守りしますよ、っと」

 

 二人の兵士がウィリアムをかばうように立ちふさがる。

 ドンッ!という激しい衝突音がした。チェザリスに言われ、地面に突っ伏していたウィリアムからは状況が分からない。

 

「隊長!?」

 

「ぐぅ……大丈夫だ……」

 

「まったく……無茶しちゃって」

 

 どうやら身体を張ってインプの攻撃を受けたらしい。仕留め損ねた敵は、再び空へ舞い上がる。

 

「旦那」

 

 ヘンリーに引き起こされ、再び鞭を構えた。

 

「……!?少尉!お前!」

 

 少し前方にいるチェザリスが剣を地面に立てて片膝をつき、息を荒げていた。

 駆け寄って状態を確認する。鉄製の鎧の腹部が大きくへこんでしまっている。かなりの衝撃が加わったのは誰の目から見ても明らかだ。

 

「バレンティノ様!ウチの隊長を引っ張って一旦下がっちゃもらえませんかね!」

 

「伍長……俺はまだ戦える……!うぉぉっ……!」

 

 力を振り絞り、チェザリス少尉が立ち上がった。

 

「チェザリス、よせ!アーシアのいる所まで退くぞ!」

 

「いえ……自分はまだ……!あなたをお守りせねばならんのです!」

 

「隊長!次食らったら再起出来ませんよ!今のあんたじゃ足手まといなんだよ!退け!」

 

 カンナバーロ伍長がチェザリスを後ろへと押しのける。

 

「隊長!先輩!次が来ます!」

 

 ついに離れて矢を射っていたアマティ上等兵が弓を肩に担ぎ、短刀を取り出してこちらにやってきた。弓兵である彼は接近戦に疎い。ナイフしか持ち合わせていないという装備の軽さがそれを物語っていた。

 

「少尉!命令だ!俺も一緒に退くから来い!」

 

「くっ……」

 

 よろよろとふらつくチェザリスの腕を引き、後退を開始する。

 

「ヘンリー、引き続き鞭で援護してやってくれ!」

 

「がってん承知でさぁ、旦那」

 

 予備になればと、自らの鞭もヘンリーに渡した。

 

……

 

「バレンティノ様!こちらです!」

 

 馬車にたどり着く。

 状況を見ていたアーシアは、すでにテーブルの上に毛布を敷き、木製の桶に水を張って待機していた。

 

「こちらへ寝かせてくださいまし!」

 

 息の荒いチェザリスをテーブルに乗せ、ガチャガチャと乱暴に鎧を外して半裸の状態にする。

 

「ぐっ……!」

 

 腹部は真っ赤に腫れて変色していた。鍛え上げられた腹筋が無ければ、気を失っていただろう。

 

「もう少し上だったら肋骨をやられていたろうな……

 少尉、安心しろ。しばらく休めばきっと大丈夫だ」

 

「はい……お手数かけます」

 

 アーシアが手ぬぐいでせっせと彼の身体を拭いている。外傷は無いが、身体を清潔にしておいて悪いことはない。

 

「元気になったら、俺にも剣術を仕込んでくれないか」

 

「もちろん……です……」

 

「では、今は寝ておけ。残りは優秀なお前の部下に任せてな」

 

 すでに寝息が立ち始めており、少尉からの返答は無かった。

 

……

 

……

 

 数時間後、揺れる車内でチェザリス少尉がようやく目を覚ました。

 

「……うっ!?」

 

「隊長……?気づいたんですか!」

 

 近くでうとうとしていたアマティ上等兵が反応し、少し離れていたウィリアムとアーシアも少尉のもとへ歩み寄る。

 

「……戦闘は?」

 

「終わりました。脅威となる魔族をすべて排除。こちらの被害はありません」

 

 敬礼をしながら、上等兵が返す。

 

 カンナバーロ伍長やベレニーチェ、ムッソリーニは粗末な軍用の寝袋ですでに休んでいる。

 

「あれからは特に問題なく済んだぞ、少尉。よくやってくれたな」

 

「バレンティノ殿……面目次第もございません」

 

「何を言ってるんだ?お前が守ってくれたおかげで俺はピンピンしてるぞ。また、戦闘の際にはお前の部隊に期待している」

 

……

 

 再びチェザリスが寝息を立て始めた頃、馬車の窓から朝焼けが差し込んできた。

 ウィリアムやアマティ上等兵、そしてチェザリスの様子を看ているアーシアもくたくたなのだが、他の者達が目を覚ますまで休んではいられない。

 御者のヘンリーなど、次の街に到着するまでは不眠不休である。

 

「もう一人、御者を雇うか……」

 

「ヘンリーさんの心配をしてらっしゃるんですか」

 

「あぁ。俺の中では彼を戦闘に駆り出すつもりはなかったが、どんな状況が待ち受けているやら分からないからな」

 

 タバコをくわえ、眠ってしまわぬようにと上等兵にも一本渡した。

 

「これはありがたい」

 

 アマティは十六歳。金髪をポニーテールに束ねた、まだどことなく垢抜けない少年である。

 

 しかし、いつもふざけているカンナバーロとは対照的に生真面目な印象だ。チェザリスもそうだが、命令や任務に忠実である。騎士団で厳しく叩き込まれたのだろう。

 欠点があるとすれば、自発性が乏しいことくらいか。これは性格の問題なので、ウィリアムもとやかく言うつもりはない。


「旦那、フィレンツェの街が見えてきやしたぜ」

 

 ヘンリーが小窓を開けてそう告げた。

 

……

 

 速度を緩めた馬車がフィレンツェの街へと進入する。 

 窓の外には、やはり石畳とレンガ造りの街並みが広がっていた。朝の早い時間だからか、人や馬の往来はほとんど無い。

 ローマは街全体が城壁に囲まれていたが、フィレンツェはそのような設備は見当たらない。ひとたび戦闘となれば、街は大混乱を引き起こすだろう。

 

「旦那、フィレンツェは織物が有名でさぁ」

 

「らしいな。スーツは新調したから、シャツの代えでも後で探してみるか」

 

「まずは宿でも取りましょうか?それとも、街にいる間も馬車内で過ごされますか?」

 

 アマティがウィリアムに伺いを立ててくる。

 

「宿を取ろう。チェザリスをきちんと寝かせてやりたい」

 

「了解しました、バレンティノ様。では、自分がひとっ走りしてきますね」

 

「助かる」

 

 そんなやり取りをしていると、先に休んでいた者達が続々と目覚め始めた。

 彼らに、アマティが宿を探してくれているところだと伝える。

 

 所狭しと住居や商店が立ち並ぶ中、広いスペースを見つけて馬車を停める。

 上等兵の帰りを待つまでの間、ウィリアムは外に出てその縁に座り、タバコをふかしていた。

 

「フィレンツェですか、何十年ぶりですかな」

 

 後部の出入り口、幌をめくって出てきたムッソリーニが、ウィリアムの隣に座る。

 

「爺さん、ローマからはあまり出ないのか?」

 

「はは、それはもう骨が折れますからな」

 

 現世のように気軽に旅行が出来るはずもない。海を渡るにも陸路を何日間も進み続けるにも命がけである。

 

「そうは言っても来てくれて嬉しいよ」

 

「しかし……バレンティノ様、あなたは不思議な人ですな。突如として現れ、今はこうして国を左右するやもしれぬ事を成そうとしておられる」

 

「悪運だけは強いタチでな。刺激的な時間を共にできるのは保証するよ」

 

 クレメンティ大司教からも似たような事を言われたな、と思い返す。 

 気楽と言えば嘘になるが、自分が偉大な者であるかのように言われるのはこそばゆいものだ。

 

「アメリカの話、摩訶不思議な道具の話、あなた様に訊きたいことは山ほどある」

 

「俺も早く錬金術とやらを見てみたい」

 

「錬金術以外の魔術を先にお見せすることになるとは、何とも皮肉でしたな」

 

 昨夜の戦闘の事だ。

 

 ずいぶん前にベレニーチェから魔術師の種類を聞かされた時、ウィリアムはそれが完全な特化型、つまりスペシャリストだと想像していた。しかし、実際には錬金術師だろうが死霊術師だろうが、基本的な魔術はある程度使える。

 ちなみにベレニーチェはそういった専門分野に進んでいないので、単に『魔術師』としか言い表せない。しかし、ローマ王宮内で魔術師を束ねるには、敢えて基本形のまま力をつけていく方が合理的だったのだろう。

 

「あれはあれで面白かったんだがな。アンタの魔術とベレニーチェの魔術とを組み合わせて強大な光を放っていた。戦闘中ではゆっくり見物するわけにもいかなくてね」

 

「あれは彼女の力によるところが大きいですな。さすが研究室長でいらっしゃる」

 

 噂をすればなんとやら。ベレニーチェがひょっこりと顔を出す。

 

「あら、バレンティノ様。こちらにいらっしゃいましたか」

 

「うん?どうかしたのか?」

 

「アーシアさんが皆さんでお茶でもどうですか、と」

 

「いや、それは宿についてからになりそうだぞ」

 

 ウィリアムが前方を指さす。

 宿を探しに出ていた深緑色の旅装束姿のアマティが、こちらを目掛けて走ってくるのが見えたからだ。

 

「素敵なお部屋が取れたのかしら!」

 

 はたして王宮内の部屋にかなう店があるのか。難しいところだ。

 

……

 

……

 

 翌朝。

 

 時刻は午前九時。目を覚ますと、温かみのある木目の天井が映った。

 

「おはようございます」

 

 ウィリアムはチェザリスとの相部屋で、すでに少尉は起床していた。

 ちなみに、ベレニーチェとアーシア、カンナバーロ伍長とヘンリー、そしてムッソリーニとアマティ上等兵、というように全員を二人部屋に分けている。

 ようやく長い休息が取れたおかげで、ウィリアムは身体が軽く感じた。

 

「おはよう。どうだ、具合は」

 

「痛みもなく、いつでも出発できます」

 

「それは良かったな!だが、次の街へは明朝に発つことにしよう」

 

 チェザリス少尉の体調も問題ないようだが、万全の状態を作る為に今日一日はフィレンツェの街に留まる事にした。

 

 コンコン。

 

「入れ」

 

「おはようございます、バレンティノ様、隊長!」

 

 ノックの後に、敬礼をしたアマティ上等兵が入室してくる。

 

「おはようございます。お身体の具合はいかがですか」

 

 さらにもう一人、その後ろからは従者のアーシアが。チェザリスの身を案じる様子は、まるで我が子を思う母親である。

 

「おはよう、二人とも」

 

「おはようございます。アーシアさん、昨夜から自分の世話をしてくれたみたいで、何とお礼を申し上げたらよいものか。ご覧の通り、ピンピンしてます」

 

「それは良かった。宿の方から珍しい飲み物をいただいたんです。なんでもココアというそうで、カカオの粉に砂糖を混ぜた、甘い飲み物です。お茶をお出しするのと迷いましたが、あまりにおいしかったのでお持ちしました」

 

 そう言うアーシアの手元、盆に乗せた二つのカップが湯気を上げていた。

 大司教から砂糖は貴重品だと聞いていたが、王宮からの使者団だと知った店主が気を回してくれたのだろう。

 

「ココア……ですか。甘い飲み物だなんて新鮮ですね」

 

 チェザリスがそれを受け取る。

 

「……」

 

 一口飲む。言葉にこそ出さないが、目を丸くしているあたり、チェザリスはあまり好みでは無いのかもしれない。

 

「さて、俺は買い物をしてくる。今日は丸一日休暇だ。アーシア、全員にそう伝えておいてくれないか」

 

「かしこまりました、バレンティノ様」

 

 アーシアが頭を下げて退室する。

 

「自分も同行してもよろしいですか?怪我人だからと寝かしつけられては身体が鈍ります」

 

「あぁ、好きにしろ。出るぞ」

 

「いってらっしゃいませ!」

 

 アマティ上等兵の敬礼に見送られてウィリアムとチェザリスは宿をあとにした。

 

……

 

……

 

 ウィリアムの狙いはもちろん替えのシャツの購入である。スーツに合わせてもおかしくないものがあればの話だが。 

 チェザリスは朱色のズボンに白い麻布のシャツを着てついてきた。ラフな格好だが、やはりショートソードは腰に下がっている。

 

「ローマの下町ほどではありませんが、フィレンツェも賑やかですね」

 

 メインストリートと思われる通りにでると、道の左右には様々な露店が並んでいた。

 魚や肉、野菜や果物の食料品店や、陶器や食器を販売する店、変わったものでは犬や猫といったペットの販売店まである。

 

「服を見たいんだ」

 

「衣料品ならそこら中にありますよ。お付き合いします」

 

 チェザリスがそう言ってくれたので、それならばと片っ端から目についた店先で足を止める。

 彼は自分が何かを購入したくてウィリアムについてきたわけではないのだろう。

 

……

 

 やはりお気に入りの服は見つからないが、間に合わせのつもりで何点か適当に薄手のシャツを買って回った。

 

「バレンティノ様、あちらに武具店がありますよ。覗いていきませんか」

 

「ほう、面白そうだな」

 

 そちらへと足をのばす。

 ガタイのいい店主が、自分の露店を覗くウィリアムとチェザリスに気づいた。

 

「いらっしゃい。何かお探しかい」

 

 そう言いながら彼らの格好や体格を瞬時に見定めているのが分かる。さすがは武具を扱う商売人だ。 

 だが、見慣れぬ服装のウィリアムに、少し訝しむような表情をしたのは言うまでもない。

 

「あ?お客さん、異国の人?そうじゃなけりゃ魔術師か?」

 

 珍しく、異邦人なのを言い当てられた。ウィリアムが軽く頷く。

 

「あぁ、遠い国から来た。用があるのはコイツの方だ」

 

 チェザリスを自分の前に引っ張り出す。

 

「軽戦士か。まぁ、見てってくれ」

 

 店主は無遠慮にもパイプをくわえてタバコをふかし始めた。

 店内には剣や弓、鎧や兜が並んでいるわけだが、店としてはやはり槍や大剣、斧などの大物が売れるほうが儲かる。 

 小振りな剣を腰に下げているチェザリスでは、上客になるとは思わなかったようだ。 

 彼が携行しているのは士官用のショートソードとはいえ、両手持ちでしか到底扱えない重量はある。それを軽戦士などと言われてしまっては誰もが非力ではないかと、現世で生きてきたウィリアムに苦笑を浮かべさせた。

 

「店主、これは」

 

「ほう、気づいたか、兄ちゃん」

 

 まるで傘のような扱いで、乱雑に樽の中に立てられた武器を吟味していたチェザリスが、赤い刀身を持つ剣を手に取った。

 

「間違いない。魔剣だ」

 

「魔剣……?魔族が使う剣か?」

 

 もちろん、ウィリアムの知らない単語だ。名前だけ聞くと、呪われでもするのかと思う。

 

「いいえ、違います。魔力を持つ剣の事ですよ。普通の剣とは使い勝手が違う。……店主、この剣の刀匠と魔術師の名は判明しているか?」

 

「いいや。扱いを見りゃわかるだろ。どうせ(なまくら)だよ」

 

 話から推測するに、刀匠が打った剣に魔術師が手を加えて作られたものらしい。

 

「ではこれを。バレンティノ殿に」

 

「なに?俺に?」

 

「はい。剣術を覚えるんですよね?それに馬術も」

 

「やれやれ、逃げ出せそうにはないな」

 

 ガットネーロ隊からの厳しい訓練が待ち受けているようだ。しかし、魔剣は気がかりである。

 

「魔剣と言ったか?魔力があるにせよ、俺では持て余してしまうんじゃないのか」

 

「どうでしょう。しかし、せっかく見つけた珍しい武器ではありませんか」

 

 なるほど。チェザリスの好奇心というわけか。

 

「分かったよ。俺の負けだ。店主、コイツを貰おう。それから、彼に合う盾を探している。頑丈なやつが欲しい」

 

「あいよ。軽戦士向けの盾か」

 

「ちょっ……自分に盾など……なぜです」

 

「また身体一つで俺を守られてはかなわないからな」

 

 再び敵に突っ込まれるような状況が起きたとき、盾の有無では受けるダメージがまるで違うはずだ。

 

「盾の用途を訊いてもいいか?この兄ちゃんに持たせるなら小型のやつになるだろうが、物理的なものを防ぐならこの鉄製、魔族とやり合おうってんならこの神木製をオススメするぞ。鉄に比べれば魔術には強い」

 

 神木。ベレニーチェの杖に使われている材質と同じだ。

 昨日の戦闘での負傷は物理的な攻撃だったが、ウィリアムは神木製の盾を選択した。

 

「こっちにしよう。どうだ、少尉」

 

「しかし、バレンティノ殿に買っていただくわけにはいきません」

 

「じゃあ交換条件だ。俺にその魔剣を買ってくれ、お前にこの盾をやろう。それでおあいこだ」

 

 チェザリスは魔剣をウィリアムに渡すつもりだったが、自分は盾を受け取れないと否定した。だが、ウィリアムの意見に納得して頷く。

 

「ちょっと待て。あんたら、騎士団の関係者か?俺はてっきり冒険者かと」

 

 階級で呼んだからか、店主がウィリアム達の正体に気づいた。

 

「あまりこちらの情報は開示できないが、確かに俺達は国に仕える身だ」

 

「やはりそうか。その小振りな剣は将校用だな。非力なだけかと侮ったぞ」

 

 俺の目もまだまだだな、と店主が首を横に振る。

 

「気にするな。魔剣と神木の盾を」

 

「へいへい。まいどあり。余裕があるなら他にも買ってくれてイイんだぜ?」

 

「調子のいい奴だ」

 

 そんな店主に別れを告げ、二人は宿へと戻った。

 

……

 

 

 その日の夜。

 自室にベレニーチェとムッソリーニを呼び出し、ウィリアムとチェザリスは魔剣の鑑定を依頼した。

 

「あら、魔剣ですか。基本的には魔法戦士向けの武器ですよ。よく露店なんかで見つけましたね」

 

 赤い刀身をまじまじと見ながら、ベレニーチェが言った。

 

「珍しいのか?」

 

「少ないです。前に話した通り、魔法戦士自体が少数派ですから」

 

 ムッソリーニも彼女と同じく、じっくりと舐め回すように魔剣を見ている。

 両刃だが、軽く反った形をした曲剣だ。鞘は無く抜き身なので、希少なものであるにも関わらず、かなり雑に扱われてきたのが魔術師の二人からもすぐにわかる。

 

「炎……ですかな」

 

「そのようですね」

 

「おぉ!やはりそうですか!」

 

 ムッソリーニとベレニーチェのやり取りに、チェザリスが沸く。ウィリアムにもそれとなく理解できた。

 

「使えそうか?その……炎の魔剣は?」

 

「魔術の触媒として使うには難しいでしょう」

 

「ん?意味が分からないが」

 

「魔剣は、魔法戦士にとっての剣であり、杖でもあります。私たちが唱えるような魔術を発動する事が出来るのです。しかし……この魔剣はくたびれてしまっていますわ。もう『杖』にはならない。せいぜい、斬撃と同時にその切り口を発火させる程度でしょう。それが魔剣の『剣』としての能力ですから」

 

 特殊な攻撃ではあるが、要するに単なる剣としてしか使えないという。もちろん、杖として魔術を唱えてみろと言われてもウィリアムには無理な話なので、そこに大した価値は無いのだが。

 

「触ってもいいですか?」

 

「どうぞ」

 

 ベレニーチェがチェザリス少尉から魔剣を受け取る。

 

「……発火!」

 

 彼女が杖と同じように魔剣をかざす。しかし、それは何の反応も示さなかった。

 

「やっぱりダメですね。剣から魔術が発動するところを見てみたかったです」

 

 一番残念そうなのはそう言うベレニーチェ自身だ。

 

「まあそう落ち込むな。動いたところで俺には宝の持ち腐れさ。少尉、抜き身で持ち歩くのは危ない。厚手の布を巻いて背負おうと思うんだが」

 

「はっ、すぐに準備させます」

 

 スーツ姿で剣を持つとは、かなり奇妙な組み合わせである。

 

「せっかくです。手合わせしてみてはいかがですか」

 

 ムッソリーニがそう勧めてきた。

 

「手合わせか。何せ剣を手にするのも初めてだ。見苦しいことこの上ないぞ」

 

「バレンティノ様に買っていただいた、この神木の盾に打ち込んでみてはどうでしょうか?盾は自分が持ちます」

 

 チェザリスがそう続ける。

 

「なるほどな。確かその盾は魔術に強い材質だったか」

 

「ここでは危ないので、宿の裏手へ行きましょう」

 

 ムッソリーニが手招きをして、皆を外に連れ出す。

 

……

 

 建物の裏は空き地だが、彼らが乗ってきた馬車と、それを手入れするヘンリーの姿があった。 

 明日の出発に向けて、人知れず仕事をしていたらしい。

 

「おや、どうしたんですかい。みなさんお揃いで」

 

 車輪のボルトを締めていた手を止め、一行に気づいたヘンリーが問いかけてくる。

 

「新しい装備を買ってきたんだ。チェザリスに盾を、俺には魔剣を。そいつを試そうって事になってな」

 

「魔剣!たいそう値が張ったでしょう!どら、あっしも見物させてくだせぇ」

 

 値段の話から入るあたり、盗賊の名残である。

 

「では……」

 

 両手で盾を構えたチェザリスと向き合う。

 彼の半身も隠しきれていない円形のそれは、小型の盾に分類される。

 

「いくぞ」

 

 剣術のいろはなど知りもしないウィリアムは、上段に構えた魔剣を力任せに振り下ろした。

 

 ガッ!

 

 剣が盾と接触し、そのまま切っ先は地面に当たる。

 盾には確かに浅い傷が入っているが、そこから火が上がるような、期待していた効果は見られなかった。

 

「え……?おかしいわ。少しくらい火の手が上がるはずなのに」

 

「何も起こりませんな。これはどういう事だろうか」

 

 魔術師二人が思案を巡らせる。

 

「通常の剣としての攻撃の際も魔力が必要なのでは?」

 

「いや、それはないはずです。あくまでも術を唱える時にしか魔力は使いません」

 

 ウィリアムの考えは即座にベレニーチェから否定された。

 

「バレンティノ様!刀身が!」

 

 チェザリスが魔剣を指差して声を荒げる。

 

「ん……っ!?」

 

 地面に突き刺さった赤い刀身が、まるで炉にくべた鉄のようなオレンジ色に変化していた。

 発火ではなく、発熱をしているように見える。

 

 おおっ、と一同からも声が上がる。 

 柄の部分を握っているウィリアムは素手だが、不思議と熱さは感じなかった。

 

「これは……?」

 

 剣を地面から抜き、高くかざす。

 

「もう一度、攻撃を!」

 

 ベレニーチェがそう促し、見とれていたチェザリスが慌てて盾を構え直した。

 

 ガッ……!

 

 先ほどと同じように、盾に一撃を加える。すると、微かな切り口から細い煙が上がった。

 そして……

 

 ドンッ!

 

「うわっ!」

 

 小規模な爆発が起こり、盾ごとチェザリスを後方へ吹き飛ばす。

 嘘のような出来事に、ウィリアムは混乱した。あれほど赤々と熱されていた刀身は元の姿に戻ってしまっている。

 

「いてて……何がどうなったんですか……」

 

「すまん、平気か?」

 

「えぇ。この盾もバッタもんじゃなさそうですね。しっかり防いでくれました。自分が鎧を着ていれば吹き飛ぶ事もなかったと思います」

 

 確かに、転がって土汚れこそ服や顔についているチェザリスだが、今の爆発で焼けたような箇所はない。 

 盾も二度の斬撃の痕が木目にうっすらと残っているだけである。

 

「旦那、ソイツはどうも抜刀術用の魔剣みたいに見えますが」

 

 馬車の縁からヘンリーがそう言った。魔術は専門外だが、武器についてはベレニーチェやムッソリーニよりも彼の方が詳しい。

 

「抜刀術?」

 

「へい。アジア人なんかがよく使う剣術でさぁ。鞘から抜きつつ攻撃するスタイルなので、中段から斬り上げる形になります」

 

「それはなんとなくイメージ出来るが、なぜこの剣がそうだと断言出来るんだ?」

 

 皆がヘンリーの次の言葉に注目している。彼は照れくさそうに頭を掻いた。

 

「えーと……一度目の攻撃。たまたま、うまい具合に盾に引っかからずに滑ったでしょう。それが魔剣の力を引き出したとあっしは思うわけでさぁ」

 

「つまり、本来ならば鞘から抜く時の摩擦で力が発動するという仕組みなんですね!素晴らしいわ!」

 

 ベレニーチェが嬉々として飛び跳ねた。

 

「もう一度、試してみよう。いけるか」

 

「はい、どうぞ!」

 

 ウィリアムの意見に、チェザリスは快く盾を持つ。

 鞘から抜いた程度の力を想定し、斬りつけるのではなく、盾に刃を当ててスッと軽く引いた。

 

「おっ」

 

 やはり、魔剣は焼けたように眩く光る。摩擦が引き金になっているのは間違いないようだ。

 ウィリアムはそのまま切っ先で盾をわずかに突いた。

 

……ドンッ!

 

 当て方は違えど爆発音は変わらず、チェザリスはまたもや後方に吹き飛ばされて転がった。当て方の強弱に依存せず、威力にも差異がないということだ。

 

「すまん!少尉!」

 

「大丈夫です!受け身さえ取れば、爆発自体はこの盾が防ぎますので」

 

 そういうチェザリスはすでに立ち上がっている。

 

「そっちの盾も上等なものらしいな」

 

「ありがたい事です」

 

 これ以上は無用だと判断して、ウィリアムとチェザリスは魔剣と盾を下ろした。

 ベレニーチェ達が寄ってくる。

 

「ふぅむ……なるほど、この魔剣の力とは一定の威力の爆発なのですね!」

 

「そのようですな。ウィリアム殿がより高威力な攻撃を望むのであれば、むしろ剣術を鍛えるほうが良いのかもしれません。面白いものですなぁ」

 

 簡単に言ってくれるな、とウィリアムは笑うしかない。

 

「ご心配なさらずとも、我々ガットネーロ隊がビシバシ鍛えて差し上げますよ!やはり、リーダーには威厳と力が必要不可欠ですからね!」

 

「あぁ、せめて足手まといにはならないくらいに精進させてもらうよ……」

 

「旦那、あっしは肝が座ってる人物は見抜けるつもりです。入り用な物があれば出来る限り用意しますんで、そう気を落とさないで下せぇ」

 

 ヘンリーが励ましてくれる。

 らしくもなく、自分が浮かない顔をしているようだと気付かされた。

 

 現世では、引き金を弾くだけの単純作業が彼にとって最大の暴力的行動だったわけだ。巨大な魔物に剣を持って対峙するなど、並大抵の精神力ではない。だが、ここに暮らす人々はそれをやってきた。遥か昔から、ずっとだ。

 

「若干話は変わるが、ヘンリー。ものづくりに興味があるなら、時々俺とベレニーチェの研究に加わってみないか」

 

「まぁ、移動中じゃなければ」

 

「そうだな。ロンドンに着いてからだ。あちらにはしばらく留まる必要がある」

 

「わかりやした」

 

 馬車にジャッキを取りつけるような工夫をした人物だ。電気を利用させない手はない。

 

「さぁ、今日はこれでお開きとしよう。予定通り明日の朝、出発だ。各自ゆっくり休んでもらいたい」

 

 それぞれが部屋に戻る。ヘンリーはもう少し馬車の整備をしたいと言って残ったが、それもじきに終わるだろう。

 

「バレンティノ様。鞘の件ですが、ご指示いただいた布巻きでは、魔剣の力を引き出せないのでは?」

 

 床につく前に、ウィリアムと同室のチェザリスがそんな言葉を漏らした。確かにそれはウィリアムも考えていたところである。

 

「斬る前に地面にでも当てるか、二発目まで我慢するかのどちらかだな」

 

「右手で剣を抜くのでしたら、左に腕輪や手甲を装備してはいかがですか?」

 

「悪くないな。ソイツで剣を擦るわけか」

 

 マッチを箱の側面で擦るように、左手にあてがえば魔剣の力を解放出来る。

 だが明日の朝に出発するのであれば、購入は不可能である。夜になればフィレンツェの露店も閉まってしまうからだ。

 

「永らく使うものだから、デザインが気になるものだな」

 

「はい?デザイン、ですか」

 

 現在ウィリアムはスーツを着ているわけだが、腕を覆ってしまうような無骨な物より、腕時計の代わりになるようなバングルが望ましい。

 チェザリスに理解を求めるのは難しいだろうが、未だに服装をこちらの世界の物にしない事からも、ウィリアムなりの意地が伝わってくる。

 

「それでは……バレンティノ様専用の物をこしらえてはどうでしょうか?鞘も然りです。自分たちにはよく分かりませんが、馬車の中ではムッソリーニ殿のご助力で金属の加工が出来るんですよね」

 

「それはいいな!研究開発からは道が逸れるが、彼の術にも興味があるんだよ」

 

「決まりですね」

 

 次々と新たなアイデアが浮かび、ウィリアムの期待も膨らんでいく。

 バングルや鞘をオリジナルで制作するとなれば、材質やデザインなどに強いこだわりを押し出していくに違いない。

 

「盾はどうだ?上手く扱えそうか?」

 

 丸く、裏に皮製の取っ手があるだけで、装飾などは施されていない。丸太を薄く叩き切っただけで、年輪がハッキリと見えるような物である。

 

「盾を持つのは久しいですが、軽くて邪魔になりません。しかしながら、簡素なようで先ほどの爆風も見事に防いでくれました。さすが御神木というところですね」

 

 値段だけで言うならば、ウィリアムの魔剣よりもこちらの盾の方が高かったのだ。それに見合う仕事をしてもらわなければ困る。店主が魔剣の能力を目の当たりにしていたならば、話は変わっていたかもしれないが。

 

「それほどの材質なのか……金属のように造型出来れば兜なんかにも利用出来そうだな」

 

「身体の大きさに合わせて御神木をくりぬいて作れば出来るとは思います。しかしさすがにそれは……」

 

「うん?」

 

「騎士団の一員として、鎧や兜が木製ではしまらないと言いますか」

 

「デザインの良し悪しは理解できないくせに、生意気な事を言うじゃないか」

 

 ウィリアムがいじらしくニヤリと笑う。

 

「それはそうなんですが、やはり屈強な戦士を謳うからにはしっかりとした金属製に限ります!」

 

「そうだな。確かに木の装備をまとった騎士団を見たら、かかしの集まりかと笑われてしまうだろう。これも騎士道の一角か」

 

「はい、よくご存知ですね。騎士道……すなわち勇気、忠節、名誉の三つからなる道徳。装備一式すべてを木製にしては、名誉が穢れます。自分は尉官とはいえ一兵卒に過ぎません。しかし、王国騎士団に所属している以上、騎士の位を持つ人間と変わらない心構えのつもりです」

 

 この騎士道の精神は、現世にも通ずるところが多々ある。

 

「しっかり者の青年将校には感心させられてばかりだな」

 

「そんなご冗談を。魔剣に巻いておく布ですが、上等兵に指示しておきましたので明日の朝一番にお渡し出来ます。鞘を作るまでの仮住まいでしょうが」

 

「助かる。抜き身のままだといつか自分の背が割れてしまいそうだ」

 

 立てかけてある魔剣をちらりと目で追った。

 

「それでしたら、バレンティノ様が神木製の鎧を着るべきですね」

 

「ははは!確かに騎士団ではない俺にはかかしの姿がお似合いなのかもな!さて、話はこれくらいにしておこう」

 

「あ、いやっ!決して自分はあなたを馬鹿にしたわけではっ……!」

 

「分かってる分かってる。別に気分を害してなどいないから安心しろ。むしろ俺ばかりが戯けた事を言っていたからちょうどイイくらいだ」

 

「は、はぁ……それでは、おやすみなさいませ」

 

 明かりを消し、眠りにつく。

 明日から再び彼らの長い旅が始まる。

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