最終話 そして名門へ
オッス、みんな元気にしてっかあ!
のほほんとお殿様モードで三介がお送りします。
モードと言っても、現に三ヶ国の太守だからほんまもんのお殿様なのだぁー!
そう言う意味では三介じゃなくて三守だなって具良が言ってた。
どゆことー?
まあイミフ発言は置いといて、俺の立場が凄いので自慢しよう。
なんと実兄は天下人。
しかも俺は大名で、一門筆頭という。
もう左団扇で暮らせることが保障されてるんだぜ!
だから後はゆるゆると、面白可笑しく余生を暮らすことに全力を注ぐのみ。
…ん、何かな?
ほう、弟たちから手紙が…ええと、どれどれ。
伊勢に引き籠ってないで働けボケェ!
はっはっは、信孝は口が悪いなあ。
偶には伊賀で遊びましょうよ。
山国を極めた具雅はどこに向かっているのだろうか。
暇なら関東で働いて下さい。
信孝より丁寧だけど意図は同じだな信房。
官兵衛が軍略について語り合いたいと。
無茶を言うな秀勝。
武者修行の旅に出ませんか?ちょっと薩摩の方に。
具良とでも行ってろ蒲生君。
やれやれ、みんな元気だなあ。
せっかく落ち着いたんだからもっと緩ぅく生きればいいのに。
ん、まだある?
弟は兄を手伝うべきだと思うの。
えらく緩い文体だと思ったら実兄かよ。
だが周囲を介さず直接言って来るのはマジギレ注意報。
ちょっとヤバいかも。
てな訳で雪ちゃん、ちょっと安土に行って来るよ。
いやいや、もちろん津田ちゃんも居るけどメインは実兄の方だし。
実家の子供たちも大きくなってきたからね。
そうそう、依ちゃんや杜ちゃんもすっかり大人になったし。
特に依ちゃんなんか随分と育って…ごほんっナンデモナイヨ!
ん?…ったくもう、自分で決めた側室なのに不機嫌になるのはダメだと思うよー。
常に一番でありたいとか、もう雪ちゃんてば可愛すぎ。
一々心配しなくても雪ちゃんが常に一番だよ。
うん、大丈夫大丈夫。
えっ雛田?
彼女はその~、いや掃部の養女になって陽に改名して…。
おおっと全部知ってるんだ。
改名って言うか読みは同じで字を替えただけ、うん俺が命名しましたが。
でも鳴戸衆は当家の大事な子飼でね、中でも頭領佐助の血に連なるものを取り込む意義がハイごめんなさい。
艶っぽい中にある可愛らしさがストライクでした!
それでも雪ちゃんが一番なのは嘘じゃないよー、信じてよー。
あ、信じてくれてる?
だけどヤキモチ焼いて俺にだけ意地悪しちゃうの、かーわーいーいー!
それに津田ちゃん以外には普通に接してると、津田ちゃんは何で?織田家だから?
絶対引かないから、なるほど確かに。
顔合わせる度に牽制し合ってるもんね。
でもちょっと楽しそうに見え何でもないデース。
雪ちゃん一番、津田ちゃん二番。
申し訳ないけどこれは不変、津田ちゃんも分かってるはずなのに凄いよね。
全く諦めない。
女は諦めない生き物なのです、雪ちゃんもそうなのいひゃひひょひゅひひゃん。
頬をぐぃ~っと引っ張られて上手く喋れない。
でも桜色に染まった雪ちゃんが可愛いからいいか。
おっと小ちゃん、何時からそこに!?
え、暑い?
今日は結構涼しいと思うけど、ああうん。
ごめんね、そのうち弟か妹が出来るから許して欲しゲブハァッ
雪ちゃん相手では俺のボディはいつでも甘い。
* * *
さて、やって来ました安土の街!
実兄が治める織田家の天下を象徴する街だ。
依ちゃんは初めてだよね?
そうかそうか、じゃあ手でも繋いでおおっと何で居るんだ具雅ァ!
都の義父と亀松に会うため、ほう。
どう考えても経路が違うがまあいい。
しかし亀松も遂に元服したし、時の流れは早いもんだな。
亀松は京都北畠家の当主候補として教親を名乗った。
貰う手紙には、義父殿の後を継ぐため勉強の日々だと愚痴が綴ってある。
教親にとっては実父だけどな。
大変だろうが、分家の当主として頑張ってほしい。
時々会いに行くからさ!
で、具雅よ。
何か用か?
特にない。
じゃあ邪魔するなよ。
初めての期待と不安で胸いっぱいの依ちゃんをしっかりエスコートしなきゃいかんのだから。
文言がイヤラシイって、どこがだよ。
別にその大きな胸にとか言ってない…ハッ!語るに落ちるとはこのことか、やるな義弟!
雪ちゃんに密告…まあ、したけりゃするがいいさ。
大体お前もとっくに奥さん貰って一家を持つ身。
いつまでも姉貴のパシリなんかやってちゃダメだぞ?
うーん。
確かにまあ、忍びっぽいっちゃっぽいかも知れんけど。
長次、どうにかならない?ならない、そうか。
まあ程々にな。
そもそも俺は雪ちゃんの全てを受け止める度量がある。
だから今後は一々言わなくていいぞ。
つまらんとか言うな。
全く歪んだ性格になりやがって、一体誰の影響だ。
おっと主従揃ってガン見するんじゃない。
さて依ちゃん、まずは屋敷に行かないといかんのだけど。
ふふ、そうだな軽く街中を見て回ろうか。
潤んだ瞳で見上げる依ちゃん萌え。
そんな彼女の肩にそっと手を置き、見つめ合う。
なぁーに、ちょっと寄り道するだけだ。
敢えて遠回りするだけで向かってるんだからな、問題ない。
津田ちゃんだって分かってくれるさ。
他の女の名を口にするな?ははは、いっちょまえに女の子だねぇ。
よし、二人きりのデートを楽しもうぜ!
じっくり楽しみ、すっかり日が傾く時分になって屋敷に入った。
護衛を除いた供連れはとっくに到着してて、待っていたであろう津田ちゃんの頭に角が見える。
頑張って挨拶する依ちゃんを笑顔で受け止め、奥で休むようテキパキ手配する津田ちゃん。
側室ながら安土屋敷を預かる主としての風格が滲み出ている。
やはり雪ちゃんと津田ちゃんは別格だなあ。
なんて事を考えていると津田ちゃんからのご挨拶。
やあ津田ちゃん、今日も綺麗だね。
取ってつけたような感じに聞こえるかも知れないけど、これ本音だから。
随分と長くお楽しみのようで、うん待たせてゴメン!
でも依ちゃんが初めてだったから…。
いやっ楽しみましたとも。
そもそも何故今回連れて来たのか。
依ちゃんが正式に側室となった記念旅行。
と言う訳じゃないから怒らないで。
かなり前にも言ったけど、北畠サイドの側室を安土に置くって処置さ。
誰にも強制されてないけどやっちゃうよー。
叔父ーずの片割れ、依ちゃんの親父さんである具政も意外と乗り気でね。
序列とかそんなん変わらないからヨロシク。
え、陽?
何で知ってるのいや別に隠してないよホントだって。
あの子は掃部の養女として、なんだ全部知ってるんだ。
耳が早いね。
そうだね、あの子で四人目の側室。
正室を入れて五人の奥さんがいるって計算に。
あれれ、これってもしやハーレム?
少し考えたけどハーレムの定義が良く分からない。
実父とか側室何人居るんだって話だし、あまり気にしない方が良さそうだ。
だ、大丈夫!
若い子の方が好きとかそんなんないからっ
可愛い子は好きだけど誰でもいい訳じゃないよ。
奥さんたち皆大好き。
これ以上増やす予定はないよ、俺は。
そういや津田ちゃんは押し掛け女房みたいだっブホヮーッ
いやだわアナタって言いながら張り手がクリーンヒットォォォ!
両手を頬にあててイヤンイヤンする様は大変愛らしいんだが、照れ隠しにしては激し過ぎると思うの。
よくよく考えたら津田ちゃんとは従兄妹になるのか。
だから何ってことはないんだけど。
照れてクネクネする津田ちゃんを眺めながらどうでもいいことを考える。
彼女の弟が尾張織田家、つまりうちの家老に入った。
こっちも従兄弟であるが、義弟でもあり本家とのパイプ役でもある。
津田ちゃんによく似た顔立ちの好青年だけど、視線がやばい。
凄く熱っぽいんだ。
お、俺にそっちのケはないぞ!
義冬に相談したら、あれは尊敬の念なんだって。
マジか、最近そういうの多いな。
あまり気にしないようにしよう。
* * *
津田ちゃんと昨夜はおたのしみでしたね。
依ちゃんはまた明日な。
今日は城で実兄のお手伝いだ。
帰れても遅くなると思うから、二人とも留守を頼んだよ。
うん、じゃあ行って来るよーん。
と言う訳で来てやったぞ実兄よ。
…クロスカウンター!
ふふん、雪ちゃんもとい剣術と鳴戸衆で鍛えた気配察知能力は伊達じゃない。
おお信孝に信高、君らも居たか。
信高は元服して以来だな、元気そうで何より。
だが何故読みを同じにした。
讃岐少将に憧れて?なら仕方ない。
同じように信勝と言う名乗りが一時期流行り過ぎて、実兄が制限を出したこともあった。
俺と同じ読みにして何が楽しいのかさっぱりだが。
しかし現に、織田家政権下で信勝を名乗れるのは嫡流だけというルールがある。
横暴だと不満が続出したが、実兄が天下人特権で押し切った。
織田家は今日も平和です。
ところでそのルールだと俺の家系も名乗れないんだけど?
別にいいけど。
そういや信孝だが、いつの間にか態度が正反対に。
あんなに嫌われてたのが嘘のように、今では自慢の兄だとあちこちで吹聴しまくり。
実は嫌がらせの一種なんじゃないかと勘繰ったことも何度か。
まあ平穏ならそれが一番だ。
戦だけじゃなくて心理的にもね。
さて、信高は何を?
密かに実兄のお気に入りなのは知ってるが、ひょっとして嫁取りか?
違った。
普通に実兄のお手伝い。
兄を手伝うとは、弟の鑑だな。
俺?俺はほら、三ヶ国の運営で忙しいから。
それなら信孝だってずっと四国に、へえ二ヶ国を運営しながら実兄や信房らの手伝いも。
何それ凄い!信高が憧れるのも分かるぜ。
嫌味とかないよー、なんでそんな…優秀なのは実兄と信孝だろ何言ってんだ。
で、今回信孝が四国に帰るから代わりに…でも若い信高にはまだ厳しい。
よってこっちに呼び出しが、なるほどなるほど。
秀勝は…九州か、信房…は関東がとても忙しい。
ぬう、他の弟たちもそれぞれお手伝いが。
なら蒲生君でもいいじゃん?
もうやってる、そっすか。
蒲生君の手紙は現実逃避か、遠回しに道連れ希望だったのかな。
でも政務とか掃部と具政が中心になって、いや最近は義冬と具良もか。
家老たちがメインでやってるからな、一体何が出来るだろう。
複式簿記とか?
そしてイイ笑顔の実兄から任された仕事がコレだ!
どうも父上、ご機嫌いかが?
はい見ての通り三介ですよ、全く見ようとしないな何やってんの。
床に散らばってるのは多分世界地図。
俺が知ってる世界地図とちょっと違うけど、まあ大体あってるんだろう。
それで何を、世界を見てる。
つまり船出する計画ですか?
ここで初めて直視され、力強く頷かれた。
なるほど実兄め、面倒な実父対応を振りやがって。
最早後見する必要もないほど盤石な実兄の政権運営。
暇になった実父は別の夢を見出した。
という建前のもと、実際は夢の為に全てを押し付けたという説が最有力。
実兄が半切れしたのが懐かしい。
あの時の親子喧嘩は織田家史上に残る激しいものだった。
何故かこっちにまで飛び火したからな。
ともかく実父の夢。
それは世界を股に掛ける大船乗りになる事。
寝言は寝て言え。
実父はもう良い年齢。
年齢の割には健康そのものだけど、流石に今から船乗りは無理だと思う。
そして止める周囲に耳を貸さず、座敷に籠って地図と睨めっこ。
対抗策として実兄から孫禁止令が出た時だけ表に出て来たとか。
その後、あまりに可愛そうだと禁止令が撤回されて今に至る。
天下人に泣いて縋る実父の姿は無かったことになりました。
とにかく、みんな心配するから屋敷に籠るのは止めてくれ。
伊勢に引き籠る三介には言われたくない、まことに御尤も。
だけどそれはそれ、これはこれ。
説得は続けよう。
しかし実父ってば、屋敷に籠ってはいるけど別にヒキコモリではないんだよな。
剣術や相撲、水練とか大好きだし。
無暗にだだっ広い屋敷が悪いのか。
とりあえず船乗りになる夢だけ諦めさせるか。
具体的には国内旅行を提案。
日本全国津々浦々、回り回って勧善懲悪。
そんな旅をしてみては?
どこぞのファンタジー御老公みたいにね。
お、食い付いた。
天下を統一した織田家だけど、全ての土地を見た事ある奴はほとんどいない。
自分の国を知らずに外に出ようなんて身の程知らずの極み。
なんて煽ってみた。
そもそも今の織田家には忍者集団が組織されてるし、国内なら敵なしだろう。
よし、興味が湧いたようだ。
あとは良い感じに煽りゴホンッ畳み掛けてミッションコンプリート!
後日実兄から便りが。
船乗りの夢は一端保留し、まずは全国行脚の旅に出るらしい。
外より内の方が多少マシとはいえ、実行が前提な時点でプラマイゼロ。
どっちもどっちで面倒だとぼやいてた。
だが俺は謝らない。
とりあえず実父には助さんと角さんを推薦しておく。
二人とも伊賀出身の胸熱忍者で、助さんこと助蔵はももちーの外孫。
角さんこと一角は鳴戸衆でやや年長の妻子持ち。
彼らには極秘任務を言い渡してある。
逐一様子を書き留めて、後で漫遊記など出版させるというものだ。
主人公が天下人の実父とあれば、評判も中々のものになるんじゃないかな?
実兄の精神安定にも少しは寄与するかも。
さて、後のことは任せるとして依ちゃんとデートを重ねよう。
初めて故郷を離れて寂しいはずだし、帰るまではしっかり心の隙間を埋めて上げねば!
津田ちゃんもちゃんと構うよ、だから妬かないでアウチッ
* * *
本日は晴天なり、杜ちゃんと山国デート。
つまり伊賀に来た。
具雅が来いと煩いので。
嫁さんサービスと義弟サービスを同時に行う、まさに一石二鳥の作戦。
口に出したらどちらも拗ねるので気を付けよう。
まずは杜ちゃん。
見た目は間違いなく奥床しい名門の姫君。
しかし山国を歩いても息切れしない隠れ実力者。
本職の陽には負けるが、嫁さんの中では二番目に強い。
側室に必要な強さじゃないけどね。
山国デートと言っても、別にやる事はゆっくり散歩しながら話すくらい。
剣術や忍術を披露し合うとか意味分からん事はせんよ。
いや~、ゆっくりする分には山国も良いねぇ。
最近は杜ちゃんもすっかり大人びて…前はまだ少女って感じだったよ。
スラッとしつつも細過ぎない、実に良い塩梅。
はっはっは、照れながら怒っても可愛いだけだぞ~。
いやはや、当初は杜ちゃんの忍者系お姫様って地雷っぽいとか思ったけど。
特に裏表なく、奥床しい空気を自然に醸し出すから凄く心地好い。
分からんもんやなあ。
そういえば具良は義兄。
でも本人が具房を思い出すから嫌だって言ってた。
笑ってしまったけど、納得できる答えでもあるね。
まあ具良は義兄ってより兄弟子だな、剣術の。
公式には義父が剣の師となってるからだけど、実際に習ったのは具良からがほとんど。
最近は俺に習いたいって一族の若い衆が時々来るけど、正直止めて欲しい。
面倒とかじゃなくて腕前がね、ホントに…。
杜ちゃんと穏やかなデートを楽しみ、夜はお宿でおたのしみ。
スラっとしてるけど抱き心地は良いんだよねぇ。
はっはっはっ
そして夜が明けた。
今日は具雅と…気配を感じて振り返ればそこに鳴戸衆。
数はたくさん。
なに?兄弟対抗集団鬼ごっこ、範囲は伊賀国内馬鹿じゃねえの!?
いいだろう、受けて立つ。
そして兄より優れた弟などいないことを証明してやろう!
まあ結構いるよね。
* * *
世の中が平和になったある日、織田本家より宴会の呼び出しを受けた。
そこで俺は特に何も考えずホイホイ出向いたんだ。
また実父が変なこと考えて実兄が当惑してるんだろうくらいの軽い気持ちで。
それがまさか、あんな展開になろうとは夢にも…。
最初の方は一門重臣を交えた宴会。
和やかに場は進み、やがて尊敬する人は誰だという話題に。
なんでそうなったのかは知らない。
ともかく秀吉や柴田さん辺りの重臣は実父を、一門の若手は実兄の名を挙げてた。
実父と一緒に大きくなっていった奴らは当然そっちを押すだろうし、現在の天下人は実兄だから人気が二分するのも頷ける。
実父は舅を挙げ、実兄は実父を挙げて和気藹々とした良い雰囲気だった。
第三者として三介信雄の名前が挙がるまでは。
切っ掛けは信孝。
実父や実兄を差し置いて俺の名を挙げるや、信澄と蒲生君がまさかの追従。
おいおい、そこは実父か実兄だろJK
和やかな宴会の場が俄かに緊張の色を増していく。
具体的には実父の機嫌が徐々に降下。
知ってか知らずか、重臣の若手からも一番とは言わずともなどと声が上がり始める。
そして向けられる大量の視線。
じゃあ三介殿の尊敬する人は誰なのかと。
ああ俺ですか、答えはずっと前から決まってるよ。
特に勿体ぶることもなくあっさり答えよう、兄上だね。
瞬間、勢いよく拳を振り上げながら立ち上がる実兄の姿と拳をついて悔しがる実父の姿が。
やっぱ明智の乱のときに信じてくれたのとそうでないのの差は大きい。
普段からの立ち振る舞いも間違いない。
実兄は立派だ、尊敬に値するよ。
でも真似は出来ないしたくない。
立ち直った実父が勝ち誇る実兄を苦々しく一瞥し、では我は何番だ!二番か!?と詰め寄ってきてちょっと引く。
ちょっと興奮しすぎだよ近い近いからちょっと顔引いて戻って、ふう。
うーん、まあ三番かな~。
ははは、父上どうしたの固まっちゃってるよ。
おや、と周囲を見回すと何故だかシーンと静まり返る広間だよ。
変な言葉になっちゃったくらい静かです。
そういえば六人目の側室候補の名前が静っていいます。お風呂大好き。あ、これオフレコね。
やがてざわめきが広がっていく。
ちょいと耳を傾けると、じゃあ二番は誰だ北畠具教か御母堂様ではないかいやいや織田掃部という線も。
なるほど憶測ね。
まあどうでもいいじゃない、ておわあっ?
そんな力いっぱい掴みかからないで下さいよ、ビックリしたなあもう。
理由はさっきの通りだよ、二番目?気にするな!
実父はフリーズしてしまった。
やっぱ黙ってれば渋いオジサマだな、茫然とした顔じゃなけりゃ。
ワイのワイのと騒々しい場だけど、まあ実父さえフリーズしてれば問題ない。
すこぶる上機嫌の実兄が次の話題を提供してくれた。
俺は今、尾張織田家と伊勢北畠家という二つの家を背負ってる状態らしい。
三法師が織田家を、三松丸が北畠家を継ぐのは決まってるんだけどね、どっちもまだ先の話だから。
で、将来分かれるにしても北畠家が尾張織田家の分家扱いになる。
要は凄い名門だって言いたいわけだ、実兄は。
でも何故急にそんなことを?
そりゃ政治の材料になるからさ。
天下人の信頼厚く、政権を全面的に支持してる一門重鎮と繋がりを持ちたがる家は多い。
将来の嫁候補や婿候補、それもいいが彼らの目の前にいる当主はまだ若い。
だから手っ取り早く側室とかどうでしょう?
それは燃料の投下に他ならない。
阿鼻叫喚の地獄絵図が展開された。
その一、ショックを受けた実父の図。
その二、一門重臣で行われる壮絶な側室候補選出大会の図。
その三、事情を知った雪ちゃん他奥さんたちに絞られる三介君の図。
北畠流織田中将家は押しも押されぬ名門として、長く続いていきましたとさ。
イージーモードは易しい世界
最後まで読んでくれた貴方はとても優しい人です
これにて完結、お付き合い頂きありがとうございました!