第四話 回収の行動
やっほぅ、元気か皆の衆。
俺は元気がないアルヨ。
怒られたから。
それは伊勢に戻ってきた時のこと。
俺は大量の珍しい土産を持って、南伊勢の我が家に戻ってきた。
みんな笑顔で迎えてくれたのさ。
子供たちが無邪気な笑みを浮かべる中、雪ちゃんだけが極上の笑みを湛えていた。
この時は気付かなかったんだ。
極上の笑みに隠されて、目が笑ってなかったことに。
あまりにも極上だったから見惚れてウヒョーって有頂天になっちゃって…。
今思えば、端っこで義兄とももちーが顔面蒼白だったのもシグナルだったんだろうなー。
うひょーってなってて全く気付けなかった惨劇。
ちなみに義父殿も帰って来た。
諦めた訳じゃなくて、京都への野望を胸に秘めたまま。
むしろ、色々と算段するための一時帰還と考えた方がいいかも。
まあ好きにして下さいな。
決めたら報告ヨロシク。
そして夜。
俺は雪ちゃんにしばかれた。
以下再現ダイジェスト。
ああ雪ちゃーん、寂しかったよーっとと、何で避けるの。
そこに座れ?
うん、わかっ正座?なんで?
はい!正座しましたっ
いやあ、夫婦揃って正座で膝を突き合わせるのも中々オツな…。
え、京都?
楽しかったよ。
でもやっぱり一人より二人の方が良かったかな~。
いや、雪ちゃんが身重でなければ一緒にってね。
むしろお楽しみだったって、一体何を言って。
懐から取り出したるは見覚えのある手紙…ああ、徳松が送った奴。
俺も一緒に送ったよね、見てくれた?
そっか良かった。
ああ、手紙の内容ね。
ふんふん、徳松自身が感じる畿内の様子と俺の近況まで。
おお、中々詳しく記述されて…んん?
──若い娘を側に侍らせ云々──
…えっ?
おいおい徳松よ、これはちょっと違うんじゃないか。
俺は別に津田ちゃんを侍らせては…ん?侍女だから間違いじゃないのか?
いやしかし…うぅ~ん。
あっ!?
ち、違うんだ雪ちゃん。
これは実兄の家老をしてる叔父さんの娘さんの、そう!行儀見習いみたいなものでっ
直接手を出したりしてる訳じゃ…いやいや間接的にも手は出してないYO!
ホントだって!
何時の間に握りしめたのか薙刀の柄がギシギシ言ってるぅ。
落ち着いて、お腹の子供にも悪いからさー。
ぐぼっォホーッ
俺の、ボディが…ぁ、あめぇ、ぜ…
以上戻る。
あの後必死で説明して、一定の理解は得られたと思う。
さらに徳松の見聞と実際との差を明確にするため、護衛の鳴戸衆からも聞き取り調査。
よって誤解は解けた。
なのに雪ちゃんのご機嫌は直らない。
何故ぇ?
思うに聴取の場で問われて答えた義冬ら、織田側の意見が要因だろう。
側室って必要だよね!
特に本家との繋がりってば超重要。
そこを抑えるのは基本も基本。
分からないのが許されるのはバカ殿だけだよねー
ってやかましいわ!
続いて側室を迎えることが既定路線になりつつある。
俺は拒否したが、当の雪ちゃんが認めてしまった。
なのに不機嫌。
理解と感情は別ってことなんだろうけど、それは分かるけどさあ!
不機嫌になるくらいなら認めてほしくなかったよ…。
え、俺が悪い?
正室の顔を立てて尚且つ堂々とするのが男の甲斐性、と。
例えそうだとしても、正室持ってない義兄に言われると無性に腹が立つ。
ココは是非を問うため、男らしく拳で勝負だ!
あ、こら逃げるなっ
何だい義冬。
津田ちゃんは都の別宅に居るよ。
こっちに呼ぶ?
何をバカな、俺は側室なんか…あ、ハイ。
雪ちゃんの顔に泥なんか塗らないよ、じゃあ呼びよせまーす。
え、今度は何だ具良。
北畠側からの側室をとって岐阜に置く?
それって人質じゃ…まあ実兄の膝元だから心配はないけど。
ああ、松姫さんの話し相手にね。
武田家も名門らしいし、それはありかも。
でも側室である必要はないと思っ…て、ああ現地での世話係。
うん、必要だよね。
自慢じゃないけど俺ってお殿様だから。
最低限のことしか出来ないんだよねぇ、たははっ
分かった、候補を宜しく…。
って、まとめて一度に来るんじゃない!
具政の娘に分部の叔母と柘植の従妹とか、いや長野の未亡人は流石にダメだろっ
はあはあ…今度はなんだ具良、自分の妹を?
ああ、あの奥床しい…いやいや、だから迫って来るんじゃねえって!
だーかーらっ、一度皆で話しあって候補を絞ってくれよー。
報告してくれたらちゃんと選ぶからさあ、全くもう…。
あ、ももちーもそんな端っこにいないで話に加わっていいよ。
家老じゃないけど家臣なんだし、ああ家老じゃないし新参外様だから端っこにいるのか。
むしろ参加できるだけでも望外?
大げさだなあ、家老衆が許したんだから特に問題はああ俺が許したからか、失礼。
* * *
北畠サイドの側室選びは難航している。
一門外にまで広げたせいでにっちもさっちも、うんまあゆっくり選んでくれ。
とりあえず津田ちゃんは正式に迎え入れることに。
まずは先方に連絡して、実家の方にも。
面倒なあれこれは優秀な家老たちにお~まかせっ
なにせ俺は今、もっと大事な事に直面しているのだから。
そう、それは雪ちゃんが第三子を無事に出産したこと。
見事に玉のような男の子。
今回は流石に実父は飛んでこなかったので、俺が三松丸と名付けた。
元気な赤子に恵まれたせいか、雪ちゃんのご機嫌は大変麗しい。
非情に喜ばしいことである。
やあ雪ちゃん、元気な赤ちゃんをありがとう!
君の愛しい三介様だよー。
あ、うそごめっ笑顔で薙刀持たないで!
え、冗談?
そっか、そかそか。
いやー良かったホント。
うん、ホントに良かったよ二人とも元気で!
怒られなかった方じゃないからっ
順風満帆。
こんな時ほど足元を掬われるんだよね、物理的に。
ぬおぅりゃああああ!
足元がお留守ですよって喧しい!
俺が北畠三介信具と知っての狼藉かッ
ところでフルネーム名乗ったの超久しぶりじゃね。
普段は三介までしか言わないし。
雪ちゃんからは三介様、家臣たちからは御本所様って呼ばれるしね。
ちなみに御本所様ってのは、国司様の敬称らしいよ。
覚えたけど、他にも独特な風習とかあって大変だったわー。
で、足元に攻撃してきたのは?
大河内具良の妹ちゃん。
兄と違って奥床しい感じなんだけど、最近おかしい。
きっかけは鳴戸衆。
具良を旗本に伊賀攻めをした頃から家族ぐるみで親交が深まったらしい。
それはとても良いことなんだけどね。
問題は何故か彼らに憧れたらしい点。
表向きは名門の姫なんだけど、裏では忍道を嗜む不思議お嬢様に!
その後ももちーが現れてトドメになったっぽい。
ひょっとして俺の事が嫌いなのかと思ったけど、むしろ俺の為らしい。
どういうことだね?
剣術を嗜んでるのに最近ふぬけてる。
子供も生まれて大事な時、何時如何なる時でも反応できるようにならねば。
僭越ながら兄と共にお手伝いを…って余計なお世話じゃー!?
ちなみに雪ちゃんが居る時は絶対に来ない。
強かだね。
まあ忍者が胸熱集団なのは事実。
語り合える存在ってのは良いもんだ。
佐助も嬉しそうに……いや、あれは困惑してるな。
侍女に扮した伊野が指導役か。
こちらは超楽しそう。
個性豊かで何より。
でもいきなり足元は危ないと思うの。
うん、以後ヨロシク。
* * *
津田ちゃんがやってきた。
そして帰って行った。
実父と実兄と叔父たちの計らいで安土に住むことになったそう。
それはつまり、俺も安土に来いと。
別宅が多くて管理が大変だが…ああ、そういうことか
分かった、ももちーの組から何人か派遣ヨロシク。
もちろん交代制でね。
それで津田ちゃんがわざわざ来たのは家中へご挨拶のため。
主に雪ちゃんにかな。
会見は終始にこやかだったけど、緊張感が満ち溢れてた気がする。
牽制する雪ちゃんに、物怖じしない津田ちゃん。
津田ちゃんてば、会った初日から縋り付いて来るくらいだから驚きはない。
あまり宜しくない場面だから言わないけど。
何泊かして伊勢観光と神宮詣でとか。
途中で気付いたけど叔父さん夫婦も居た。
名簿に載ってなかったから気付かなかったよ。
言ってくれれば…え、内緒?
そんなに娘が心配だったの、それは違うと。
じゃあ何さ。
これを機に伊勢観光、まんまかよ!
ん、義冬?
伊勢の視察も兼ねてたとな。
ああ、そういうのもあるんだね。
確かに実兄の家老ってことは、権力の中枢に居る人だもん。
色々大変なんだな。
俺も視察をしろと?
おいおい義冬、俺を誰だと思ってるんだ。
時々佐助たちを供にお忍びで行脚してるんだぜ。
え、知ってるの。
ああそう。
ならどこを視察…ああ伊賀、伊賀ね。
だいぶ整地してマシになったとはいえ、山道が酷いからなあ。
警備や情報も家老やももちー、佐助たちに任せきり。
でも確かに、その佐助たちの故郷を見るのも必要か。
分かった。
今度行くよ、手配してくれ。
それはそうと、終始笑顔で火花を散らす雪ちゃんと津田ちゃん。
序列はハッキリしてんのに、何が彼女たちをそうさせるのか。
津田ちゃんを見送る時、俺の周りには具政の娘や具良の妹などが群れていた。
え、俺モテ期!?
はい側室候補たちだよね、知ってる。
雪ちゃんこっちはいいんだ。
良くはない?でもマシだと。
そっかー、色々あるんだねぇ。
んん?
今選べとな。
ずらりと並ぶ北畠家中の娘衆。
おいおい家老衆よ、雪ちゃんの隣でそれはあんまりでないかい。
って雪ちゃんや。
何故君が選んでる…ああ、正室だから。
娘衆も奥方様が選ぶならって、まあそれでもいいか。
義冬、結局絞り切れなかったんだ。
色んな思惑が絡み込んで大変だったと。
分かるけど、だからって投げるなよ。
ん、個人的には具良の妹ちゃん推し?
鳴戸衆もか、仲いいもんな。
だが手毬は鹿丸の嫁、これは譲れない。
はっはっは、照れるな照れるな。
いや見ててバレバレだから。
好いた者同士、一緒になって里の発展に尽くすと良いよ。
おっと雪ちゃん、別に遊んでないぞ。
家臣の未来を考えるのも大事な役目。
後にしろ?分かりました。
おや、目の前に居るのは…。
決まったのね。
でも気のせいかな?二人居るように見えるんだけど。
間違いじゃないから正座しろと、ハイしました。
どうぞ、是非紹介して下さい。
一人は雪ちゃんの従妹になる木造具政の娘ちゃん。
一人は雪ちゃんの従妹になる大河内具良の妹ちゃん。
どっちも従妹じゃねえか!?
あ、ハイすみません思わず興奮してしまい…いや、彼女たちに興奮したんじゃなくてねっ
ホントだから薙刀仕舞って下さい。
三介様たるもの側室の一人や二人問題なく…いや、津田ちゃん含めて三人になるんだけど。
ひいっ
い、いや睨まれたって怯まないぞ!
だって事実だしっ
うん、そう落ち着こう。
それがいい。
はぁ~、ふぅ~。
うむ!
で、新たに側室が二人ね。
決定?決定。
りょーかいでっす。
具政の娘は依姫、依ちゃんだね。
具良の妹は杜ちゃん、うん覚えた。
ようやく側室問題は解決した。
根本的な解決にはなってない気もするけど蒸し返しても意味ないから。
面倒事は極力回避。
なんでもちゃんとやりゃ良いってもんじゃない。
緩さも大切なんだよー。
* * *
ある日、全俺に激震走る。
鳴戸衆にお願いしてた極秘任務。
これに動きがあった。
知らせてくれたのは鹿丸。
先日晴れて手毬と一緒になった隠れイケメン忍者だ。
大々的には無理だったけど、具良の妹ちゃんもとい杜ちゃんと一緒に祝っておいた。
そしたら具良も来てて、何故か義兄も来てた。
義兄は相変わらず丸い。
心身ともに。
それはともかく、驚愕のお知らせ。
明智光秀が将軍様と連絡をとってると。
将軍様ってのは北の楽園は関係なく、室町幕府の足利将軍のことだ。
消滅寸前だけどまだあるんだよって教えて貰った。
そういや我が北畠家は朝廷から任命される歴とした国司であり、幕府から任命される訳じゃないとか何とか。
手習いしてた頃に義父殿が良く言ってたなあ。
斜に構えてると言うか、妙な対抗心みたいなものがあったのかも。
その義父殿だけど、都に隠居所を移す決心をしたみたい。
まだ準備計画段階ながら亀松を後継者にするとか何とか。
出来れば三松丸をって言われたけど、雪ちゃんがピシャリと断ってた。
それはそれで良いかも、むしろ俺がって思ったけど口は出さない。
ちゃんと学習してるんだぜ。
再び戻って明智光秀のこと。
色々焦ってるらしい。
詳しくは知らんが、実父が信孝に命じて四国攻めを計画してる。
主な矛先は長宗我部さん。
そこらと親しいのが光秀で、その辺で困ってるって誰かに聞いた覚えが。
でも光秀は実父の覚え目出度い人だって聞いた記憶もある。
つまり、実父は警戒してないけど光秀はやるかも知れんってことだ。
超やべえじゃん!?
信孝は四国遠征の準備がもうすぐ整うし、実父と実兄は中国地方へ遠征予定とか。
光秀もその援軍の一人だってさ。
急ぎ掃部と義冬を呼び、現在の状況を確認!
実父と義兄は秀吉への援軍で、中国地方に遠征予定。
京都に逗留してから向かう手筈。
光秀も同時期に出陣する。
だから兵を集めてても違和感ない感じ。
信孝は渡海の準備を進めてて留守。
石山改め大坂に駐留してるとか。
丹羽さんと信澄も一緒。
他の有力な織田家重臣は、柴田さんが北陸に上杉攻め。
滝川さんは北条対策で関東に向かい、徳川さんは京都に…え?
徳川家康が都にいるの。
へえ、実父たちと一緒に会食の予定。
武田和合の挨拶がてら、武田信豊と穴山梅雪を連れて。
聞かない名だな。
彼らはみんな、少人数且つ軽装で物見遊山旅気分らしい。
それで、都周辺に兵力はどれくらい?
ふんふん、ほうほう。
って、おい。
ほとんどいねえじゃねえかあぁーーっ!?
よし、出陣しよう。
大丈夫、俺は冷静だ。
何をそんなに慌てて…え、正当な理由なく軍勢を率いたら謀反扱い?
ああ、可能性があるってことね。
それは困る……いや困らないかも。
うん、別に何でもない。
じゃあちょっと実兄に連絡しといてくれ。
遠征の見送りにちょっと軍勢連れて出張るからって。
あ、ついでに津田ちゃんにも会いたいからって。
いやいや、津田ちゃんは口実だよ。
そっちが本命じゃないぞ?
ホントだから雪ちゃんに報告しようとすんなっ
鹿丸も、具良や杜ちゃんに言うなよ!?
あ、これ兄上への密書。
直接渡してねー。
* * *
いくら緩く行きたいと思っても、出来ないこともある。
身内の不幸を無視してまで貫くことでもないし。
さあ、津田ちゃんに会いに。
もとい不安を払拭する旅に出よう。
本隊は具政と義冬が率いて後から来てね。
掃部と具良は俺と一緒に。
ももちーは遊撃で。
時間があるようなら本当に津田ちゃんに会っておきたいかな。
鳴戸衆の皆、頼んだぞー!
おお徳松、いやもう元服して具雅だったな。
立派な若武者になって、義兄ちゃんは嬉しいぞい。
そういやさっき雪ちゃんから何か頼まれてたみたいだけど。
大したことじゃない?
余計気になるじゃん。
ほら、言っちゃえよー。
そうそう、先っちょだけでもな。
…ふんふん、ほほう。
ええっ、俺の見張りぃ?
津田ちゃんとの遣り取りを克明に教えろとか…まさかそんな恐ろしいことが。
でもそれ言っちゃっても、ああ釘を刺す意味で。
うん、確かにぶっとい釘が刺さったよ。
分かった、気を付ける。
ああ気にするな。
姉ちゃんの言う事は聞いとくべきだ。
うん、問題ないよ。
大丈夫だって、声も震えてないし!
そそそれじゃ、出発進行ぉーっ
Q.設定とかフラグとかが増え続けてる。
A.ワカメだって増えるんだから別にいいじゃない。
作中小ネタは分からなくても関係ないし、本作自体がネタでもある。