第三話 追加フラグ
やぁーミンナァ元気かーい!
ぼかぁ元気だよぉー。
伊賀攻めが嫌だと言ったのがフラグだったのか?
実父から伊賀攻めを命じられた。
嫌だなあ、面倒だなあ。
おっと雪ちゃん、子供たち連れてどうした。
え、シャンとしろ?
みっともない姿を見せるなと。
す、すまん。
確かに嫌がったところで避けられる訳でもない。
以前から調略を進めていたし、佐助たちも居る。
無駄に間延びさせずに緩く行くのが最上。
流石雪ちゃん、愛する我が妻!
良く分かってらっしゃる。
あ、違うそうじゃない?
むむむ、子が出来て益々強敵。
だがそこがいい!
ゥボワァーッ
キリッと引き締めたら雪ちゃんの鋭い一撃が腹に刺さる。
今日も俺のボディはお留守だった。
でも顔じゃなかったからな、照れ隠しだろう手応えあり!
おお小ちゃん、父を慰めてくれるのかい。
頭を撫でてあげよう。
ふぉーサラサラヘアーッ流石は雪ちゃんの血を引くだけはある!
いやあ、雪ちゃんも普段はあんなだけど寝室や二人きりの時はしっかり寄り添ってくれてねぇ。
抱きしめた時にはらりと舞う髪がとても美しい。
頬を撫でた延長で髪にも触れると凄くサラサラで感動すること間違いなし!
何度やっても飽きることはない。
そうやって共同作業の結晶が小ちゃんと三法師なのだよ。
だから小ちゃん、雪ちゃんの美髪を受け継いだ事を誇りに思うんだよ?
うんと可愛く頷く小ちゃんに対し、俯く雪ちゃん。
覗き込むと、顔どころか耳まで真っ赤っか。
凄く可愛いよ!
恨みがましく涙目で睨まれても可愛いだけだ。
しかも上目遣いだと!
くっ、さては俺を萌え殺すつもりだな!?
おっと雪ちゃん落ち着け。
薙刀なんてどこから持ち出した……ああ、優秀な侍女がいるんだね。
流石名門。
ほら、後でギュッとしてやるから。
ああ小ちゃんと三法師は今やってやろう。
ほぉ~ら、ギュギュー、ぎゅーっと。
では、父は仕事に行って来るぞ。
ぎりっと睨み続ける雪ちゃんに子供たちを託し、意気揚々と広間へ向かった。
いやー今夜が楽しみ…もとい、恐ろしいぜ。
ともかく伊賀攻めが決定した。
* * *
さて軍議です。
こんなこともあろうかと!
って進めて来た調略とかドヤ顔で色々報告されたけど、うん。
流石は名門の家老たちだと褒めておいた。
調略する方向性示したのは俺だった気もするが、まあいいか。
百地丹波とか言う伊賀の領主が応えてくれるとか。
ももち、モモチか、ももちーだな。
なんか妙にしっくりくるというか、呼びやすい名前だ。
そういえば、織田家の重臣たちが加勢に沢山来るらしい。
だから連携やらオ・モ・テ・ナ・シ、あと作戦の立案もヨロシク。
大事なのは鳴戸衆たちの情報と擦り合わせ。
佐助、頼むぞ。
あとで鹿丸を連絡役に寄越してくれ。
うん、そんな感じでヨロシク。
ちなみに鹿丸は鳴戸衆の次席。
佐助の右腕って奴だな。
胸熱忍者集団の鳴戸部屋、これは簡素ながらもちゃんと一から考えて作り上げた子飼い組織。
愛着もある。
何でか皆に良い顔されないけど、俺は全員の顔と名前を覚えてる。
もっと多くなれば難しいかもしれないけどねー。
家老たちの調略とは別に、鳴戸衆の人脈も駆使。
草の根活動、良い反応があってるみたいで良かった。
掃部が取り纏めてくれてる。
何時も助かってます。
おや叔父さん、いらっしゃい。
実父の弟である叔父さん。
名は信包。
そして義父の弟である叔父さん、木造具政。
二人が加勢してくれる。
叔父ーずが居れば百人力だ!
二人とも優秀な補佐官タイプだからね、安心して任せられる。
え、俺が総大将?
わっ、わかってるとも!
ちゃんと実父と実兄から指示もらったもん。
でも俺の本気は田丸の変で終わった。
あとは緩く、お殿様モードで過ごしたい。
あれ、義兄さん。
出陣するの?
珍しい。
義兄さんは俺と同じで面倒事は嫌いなタイプかと。
ああ、俺と一緒に本陣に。
そりゃ旗本筆頭の具良が居れば安心だものね。
義父殿は完全に引退して、剣術道場を開いた。
市井に広く開放、なんてもんじゃなくて城内で小さく趣味がてらとのこと。
具良はそこの師範代だ。
義父と言えば、以前俺の剣術師範になることを拒否ったことが嘘のように丸くなった。
孫が出来た辺りから好々爺。
でも裏で実父と爺位を争ってるの、知ってるんだからな。
まあ、穏やかに余生を送ってくれればいいさ。
そしてこのままずっと、俺の目標であってくれ。
剣豪大名すら緩ぅく生きることが出来る。
なんて素晴らしい。
あー、すぐ話がずれるのは覚悟が足りないからだと。
さす叔父。
ためになります!
じゃあ家老の皆、叔父さんたちと話を詰めちゃって頂戴な。
ある程度まとまったら義冬、宜しく。
今夜の俺にはとても大事な戦いがあるのだ。
雪ちゃんをギュッと抱きしめる、何物にも代えがたい大事な使命がな…。
* * *
伊賀平定。
援軍に来てた丹羽さんたち、ありがとう!
大軍の中で、個人的には蒲生君が気になった。
強い。(元服前の少年風な感想)
実父のお気に入りらしく、実家の妹と結婚したみたい。
義弟の一人ってこったな。
その当たりの事聞いてみたら、凄く嬉しそうに話してくれた。
尊敬してるんだな、実父のこと。
裏ではうちの義父殿と三法師の爺位を掛けて争ってるのに。
流石に言わなかったけど。
そうそう三法師に関してだが、実兄にも男子が出来た。
実父が喜んで三法師と名付けてた。
おい。
生まれたらちゃんと譲るって言ったろ。
勝手に付けてんじゃねーよ。
って手紙を出したら、改名は不要って返って来た。
実兄の長男だけど正室の子じゃないからって。
それでいいのか。
名付けたら後継者にするって表明してるようなもんじゃないの?
確かに実兄も、実父と正室との子じゃないけども。
しかし実兄てば未だに遠距離恋愛…。
その辺を事あるごとに突いていたら、気付いたら強引に迎える算段立ててた。
優秀な分、強引な事はしなさそうだったのに。
やるな実兄。
熱愛だな。
でも色んな意味で必死なんだろーなー。
いやね、正室候補の松姫さんって言うんだけど。
実は武田家の姫様なんだ。
武田ってのは甲斐、山梨県あたりに力を持つ大名。
先代の武田信玄って奴が超強かったらしい。
実父が強烈に恐れてたって。
当代の武田勝頼って奴も超強いらしいが、政略が弱いとか何とか。
何か伝手を持ってるらしい掃部が色々教えてくれた。
なんでも知ってるな、すげぇ。
その武田家なんだが、今は織田家と敵対してる。
でも、その命脈は風前のトモシビ。
来年あたり総攻撃が考えられてて、滅亡までのカウントダウンがどうたらこうたら。
この時代、武家の結婚にはそれなりの理由がいる。
俺が雪ちゃんと一緒になって北畠当主になったように。
実兄は織田家の跡取りだから、余計にその正室はそれなりの家格が求められる。
滅んだ家に価値はない。
だから滅ぶ前に、と実兄が心に決めた松姫さんを迎えるために超必死って訳だ。
それを慮ってか信孝が一緒になって暗躍してたが、実父から四国攻め総大将の内示が出た。
総大将として出陣となれば、かなりの準備が要る。
実兄を取るか実父を取るか。
かなり悩んだようだが、実父を取った。
別に二者択一じゃないと思うんだけどな。
だから代わりに俺が実兄の手助けをと思って…。
掃部、頼んだ!
優秀な家老を派遣するよー。
出来れば滅ばないようにするのがいいんだろうけど、難しかったら一任する。
こっちのことは義冬に引き継がせよう。
筆頭家老って奴は、仕事も多くて老齢にはきつかろうし。
でも思いの外、本人は元気に旅立った。
まだ隠居は考えないのだろうか。
俺なら今すぐにでも、とか思うんだけども。
考え方はそれぞれだな~。
平定した伊賀の四分の三を貰った。
残りは一緒に行った信包叔父さんのものに。
山国貰ってもなー。
なんて言える筈もなく、大人しく開発を進めよう。
佐助たちの故郷でもある事だしね。
あ、こら泣くなって。
ちなみにももちーは家臣団に組み込まれた。
忍者の心得もあるっぽいから、鳴戸衆とは別方面での活躍を期待してるよ。
交流は大歓迎、いつでもおいで!
なに娘自慢?ふふ、いいだろう望むところだっ
* * *
京の都に呼び出された。
べ、別に何も悪い事はしてないぞ!?
そうじゃなくて、御馬揃えをするんだって。
何それ。
天皇や公家たちの前で着飾った軍勢が行進する。
それって面白いの?
あー、確かに壮観ではあるかも。
伊勢の名門、北畠家の威光を示す良い機会だとな。
おや義父殿久しぶり、突然背後から声かけないで下さいよ。
まあ元気そうで何よりですわ。
上洛の供連れ?
具良と義冬を考えてるけど。
ハハハ、何じっと見てるんですか。
こっち見んな。
ほほう、京の都に憧れがあると。
楽隠居なんだし好きに行けばいいじゃない。
なに、先立つものが…。
あー…。
じゃあ観光がてら皆で行きまって近い近い!
分かった、分かりましたからっ
徳松も亀松も連れて行きましょう。
雪ちゃんは三人目を身籠ったから自重するとして…。
義兄も来る?
嫌ですかそうですか、そうだろうね。
多少覚醒したところで染み付いたものはそう変わらない。
本質的に動きたくない人だもんね。
伊賀攻めには出陣したのに。
ほう、雪ちゃんに格好良いところ見せたかったと。
妹じゃなくて嫁にアピールしろよ。
正室じゃなくても嫁は嫁だろ。
はあ、兄として妹に好かれたいのは当然?
分からんではないが、良い歳してやるこっちゃない。
伊賀攻めでは終始俺と一緒だったせか、何の成果も得られなかった。
雪ちゃん評価と言う意味で。
仕方ないと思う。
で、これに懲りてもう外には行かないと。
いや出ろよ。
義兄ってば、息子からも微妙な目で見られてるの知ってる?
知ってるんだ。
その上で気にしないと。
すげえな。
分かった。
もう何も言わない。
留守を頼む。
南伊勢の自宅警備員を見くびるな…って、別に何も…いや何でもない。
ももちー、義兄を頼んだー。
じゃあ雪ちゃん、行って来る…なに?
ははは。
女遊びなんてする訳ないじゃん。
大丈夫大丈夫。
俺は雪ちゃん一筋だからさ!
小ちゃんに三法師も、土産買って来るから大人しくしてるんだぞ。
おう、行って来る。
* * *
京の都には超ご機嫌な実兄が居た。
そして掃部も。
おお掃部、御苦労だった。
どうやら上手く行ったみたいだね~。
連れて行ったももちーの伊賀衆と鳴戸衆は役に立った?
そかそか、ともかく皆無事で良かったよ。
こっちは北畠一党で観光に来たよ。
お前もゆっくりしてくれ。
何か望みがあれば言ってくれよ?
出来る限り叶えるからさ!
で、実兄殿。
ご機嫌麗しゅう。
はいはい、ホントにご機嫌なのは見たらわかるから。
掃部の頑張りを無駄にしないでくれよ。
あと三法師…織田家の、そう兄上の!
大切にしてやれよ、兄上なら大丈夫だとは思うけど、舞い上がって忘却とか笑えないからな。
ふう。
他人の振り見て我が身を見直せとか言うけど、俺も外から見たらあんな?
ああ佐助。
言い淀む時点でお察しだ。
気にするな。
さて、御馬揃えは実兄に続いて行進か。
俺の後ろに信包叔父さんと信孝、従兄弟の信澄やらが続く。
宿舎で休んでると、ほぼ初対面の若い叔父さんがやってきた。
実兄の後見というか補佐役してるんだって。
あ、奥さんに息子さんと娘さんも一緒ですか。
これはご丁寧に。
利発そうな息子さんと可愛らしい娘さんですね。
あ、すみません。
奥さん褒めたら雪ちゃんに怒られそうなんで…はい、すみません。
雪ちゃんってのは我が愛妻です。
だからそんなに拗ねないで。
だったら娘を側にお仕えさせて欲しいって…。
何言ってんの?
ダメなら泣くとかありえん、可愛かったら許されると思っいや何でもない。
ちょっと叔父さん取り成して!
是非お願いします?
何なんだあんたら!
いや確かに娘さん可愛いと思うけど、それが…っておい。
あ、こら娘置いて帰るな。
娘も足に縋りつくな!
お情けを…って、俺が悪者みたいじゃないかー!?
* * *
実兄に使いを送ったら返事が来た。
よかったな、じゃねええぇぇーーー!!
正室迎え入れる算段付いて頭お花畑なってんじゃないのか。
大丈夫かこの兄。
義冬、どう思う?
え、問題ないって即答するの。
むしろ横の繋がりを持たせるのに良いと。
そうか、良い…のか…。
しょうがない、手元に置いて侍女見習いってことにしよう。
手を付けなければ問題ない。
当初は取り乱したが、落ち着いて行動してれば中々良いじゃないか。
雪ちゃんを凛とした可愛さと評するならば、こちら…津田ちゃんはホンワカした可愛い系と言えよう。
なんだ佐助。
旗がどうした。
フラグ?
まさかそんな。
* * *
御馬揃えは無事に終了。
津田ちゃんのお父さんも行進に参加してた。
せっかくだから京の都周辺の観光と洒落込もう。
雪ちゃんたちに土産も買わないと。
あれ具良、義父殿はどこに?
公家相手に茶の湯三昧と。
隠居らしくて良いねぇ。
亀松を後継者に京都北畠家を創出するのも…なんて呟いてた。
分家か。
悪くないな。
続けて、でも孫との一時が…信長に爺位を明け渡すのも…なんて呟いてた。
今更だが爺位って何だ。
爵位の一種?
まあ決まったら言ってくるだろ。
放っておこう。
お、何だ徳松。
手紙か。
姉上たちにと…そうか、俺も雪ちゃんや子供たちに手紙を出そう。
割と近いしもうすぐ帰るけど、身重の妻を案じるのは当然、安心させる意味もあるし。
御馬揃えのための軍勢も不要だし、一緒に帰そう。
鳴戸衆は……大分増えたな~。
佐助を頭に鹿丸の他、長次、伊野、捻子、瓦井、雛田、手毬などなど。
クノイチもいて、胸熱感マシマシ。
中でも長次は徳松に付いてくれてる。
順調に魔改造されてる北畠の御曹司。
いいぞもっとやれ。
さて、ふと思い出したが本能寺の変。
実父が謀反で殺されるんだった。
敵は確か明智光秀。
会った事あるけど、とても謀反とかする人には見えなかった。
隠居してもおかしくない歳だし。
掃部と言い、中々隠居しないな戦国武将って。
ともかく、流石に黙って見てられないでしょ。
時期や詳細は分からんけど、敵が分かってるなら対応出来る。
よって鳴戸衆の出番よ。
鳴戸佐助、お前たち鳴戸衆に極秘任務を与える。
明智光秀を見張るのだ!
妙な任務と思うかも知れんが、是非頼む。
繰り返すがこれは極秘任務だ。
誰にも言ってはならない。
掃部にもだよ。
何かあったら俺に直接知らせてくれ。
兆候だけでもいい。
そうだ、特別手当も出そう。
小遣い制だからあんまり潤沢じゃないけど…。
何、いざとなれば当主権限で蔵を開いてやるさ。
伊勢の名門は伊達じゃない。
織田本家の連枝でもあるし、何も気にしなければ金の心配はないのさ。
何も気にしないってのが現状ほぼ不可能なんだけどね。
ごほんっ
だから気にせず、経費はちゃんと申請するように。
うちはブラックじゃないんだ。
応える声は若干涙声だったが、泣いてる奴はいない。
俯いて肩を震わせてる奴もいるが、泣いてないから大丈夫。
よし、頼むぜ!
Q.場面が吹っ飛ぶ。
A.貴方の時間は私のもの。
ももちーは良い歳したおっさんで妻子あり。