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第二話 意外と順調

ヤァ皆、元気カイ?

僕ハトッテモ元気ダヨ!


カッ……んんっ


雨降って地固まるって言うけど、良い言葉だよね。



田丸の変。

反織田色の強い北畠家中を粛清した一連の事件。


北畠親成と坂内具義が滅亡。

長野具藤は狂乱の果てに自害した、らしい。


義父殿と大河内具良は生きてる。


概ね思った通りに落ち着いて、まずは良かった。

でも実父からぶっとい釘を刺されたのと、実兄からハニートラップを心配された。

兄め、自分が遠距離恋愛だからって妬みやがって…。


さらに雪ちゃんから罵倒されてみたり。

ええー?

いや、俺頑張ったじゃん。


しかし眦を上げ、激しく罵倒してくる雪ちゃんの顔も中々良……はっ!?

お、俺はMじゃないぞ。

ホントだぞ!


なんでも、俺の行動には慎重さが足りないらしい。

義父殿を救うためとはいえ、場合によってはどちらからも狙われかねない危険な橋を渡ったんだと。


おお雪ちゃん、愛しの俺を心配してくれトゥボァッ


雪ちゃんの鋭い一撃が鳩尾にクリーンヒット。

俺のボディが甘いぜ!


心配したのは北畠家中が乱れる事ですね、ハイ。

分かっとります。

案山子の如き存在でも俺は北畠当主ですか。

せめて神輿って…すみません、黙ります。


クドクド、クドクド……わふー。


雪ちゃんからのお説教は二刻半に及んだ。

目端に涙を浮かべて説教する雪ちゃんマジ萌え。

平手打ちを食らった。

何故バレタ。


お説教が一刻半延びた。

一刻およそ三十分、よって合計約二時間。

うぼぁ…

だがどう考えても俺のせい。


ハーイ、すんませんでしたー。


あ、ちょっと雪ちゃん。

マウントはだめ!

ごめ、まじごめって…ちょまっアッーー!



* * *



いやー、あの時の俺はホントよくやったよ。

超頑張ったもん。


ゆる~く行こうなんて言ってた癖に、などと思うなかれ。


あれ許したら絶対殺伐とした結果になるだろ。

今後も緩く行くために、必要な努力だったんだよ!



まずは織田寄りの立場が明確な北畠一族、義父の弟で俺にとっては義理の叔父にあたる木造具政に相談。

次いで義父殿に面談。


あ、最初に雪ちゃんに話したんだった。

青褪めて強張った顔を見た時、ちょっと早まったかなって思ったけど時既に遅し。

凄い勢いで両肩を掴まれ、顔を近付けて詳細を話せと涙目で睨まれた。


おぉ~、雪ちゃんてば大胆。

突いて出た軽口に、やはり俺のボディは甘かった。

必死に謝って許して貰う。


そして雪ちゃん連れて…連れられて?…連日、主要な北畠一門との密議を講じた。


やがて俺の方針が固まると、義冬に手紙と想いを託して実兄に訴え。

そして実兄を通じて状況を知った実父から詰問。


織田家に対しては反織田勢力の粛清対象の縮小要請。

更に北畠当主として考え得る、義父殿たちの今後に向けた必要性と有用性を。


北畠家に対しては家中引き締めへの協力要請。

明確な反織田勢力など、危険因子排除と折り合いの必要性を説いた。


往来を重ねた義冬には申し訳なかったが、最終的に俺が実父と対面することで決着を見たのだった。



* * *



ところで俺は改名した。


織田家の人間であることを明確にしろってことで、「信」の一字を用いろと。


実父こと信長、叔父たち。

実兄の信忠や同い年の弟・信孝と一緒にして、実父殿の心配を除いてやれと。

優しく秀でた実兄からのお達しである。


北畠三介信具。


「信具」と書いて「のぶとも」と読む、新しい俺の名だ。

「信」を上に頂いて織田家の優位性を示しつつ、「具」を付けて北畠当主としての名も表す。

我ながらナイスなネーミングだと思ったが、周囲の反応は微妙だった。


まあ義冬と徳松は寿いでくれたので良しとしよう。


今回、義父殿は次男と養子を失った。

養子の方はともかく、次男・具藤は残念だったな。

詳細は教えてくれなかったから不明だが、掃部と具政が固い表情してたから何かあったんだろう。



さて、雪ちゃんとの関係が若干変わってからちょっと経った。

どう変わったかって、すっかり頭が上がらなくなっただけさ。

いや問題ないよ、ナニモモンダイナイヨー。


おっと危ない。


まあ、緩く考えてみればホントに問題ないから大丈夫。

あんなに頑張る日はもう来ないだろう。


改めて、ゆる~く生きて行こう。


そうそう、先ごろは雪ちゃんが懐妊。

娘が生まれたよ!

小姫と名付けた。


お陰で最近は雪ちゃんが小ちゃんに構いっきり。

俺に構ってくれなくてちょっと寂しい。

むしろ俺が構いたい。

でもしばらくダメらしい。


仕方ないので徳松と亀松に構ってる。

義弟二人はすくすくと育ってるよ。


そして義兄こと具房。

元は養父とみてたんだが、近頃は義兄あにと呼べと煩いのでそう呼ぶことに。

雪ちゃんの懐妊が発覚した頃から何か覚醒したっぽい。


最近は具房と徳松、亀松の北畠三兄弟。

俺と義冬の北畠義兄弟で良く居るようになった。


あと義父殿と具政が一緒に居ることが増えたようにも思う。

穏やかな顔してるし、良い傾向なんだろう。



* * *



家老から伊賀攻めを具申された。


だが断る。


えーっじゃない。

なんだよそれ、面倒じゃんか。

別に実父からも実兄からも命令されてないだろ。

苦労は買って出ない。


大体、伊賀って忍者で有名な山国だろ?

待てよ、忍者か……。

いやいや、ちょっと胸熱な可能性もあるが、緩くなさそうだから却下。


話し合いでならともかく、軍事行動は認めないからな。


どうしてもってんなら実兄に伺いを頼む。

俺からは言わないぞ。


じゃあ調略から始めますって、あーうん。

まあいいか。


あ、掃部。

何か面白そうな奴居たら紹介してくれ。

いや、興味はあるんだよ。

忍者ってやつに。


でも自分から山国に出向きたくはない。

軍権でも嫌だ。


だから報告ならってな。

居なかったら別にいいよ。

強制でもないから。


うん、じゃあヨロシク。


さて、今日も楽しく剣術の授業だ。

最近は義父ではなく、病の癒えた具良に師事してる。


具良ってのは、義父の甥でその寵愛が深い大河内具良のこと。


俺にとっては義理の従兄弟になる……なるよな?


義兄とは対立してるが、挑む勝負が大食い競争って…。

挑戦された具良はと言うと、苦笑して往なすばかり。


あれ、これ対立じゃないな。

義兄が勝手に挑んでる構図だ。


しかも挑んでおきながら、軽く往なされたらそこで試合終了ですよ。

やる気ないな!

でもその緩さは心地よい。


いや、義兄・具房はそのままで良いと思うよ。

相変わらず雪ちゃんからは嫌われてるけど、俺は嫌いじゃないから。

徳松と一緒に緩く行こう。


雪ちゃんは小ちゃんに構い切りなことだし、徳松と亀松をこちら側に引き込むチャンスだ。


義冬はその点、具良と同じくストイック派閥。

俺だって剣術修行はサボらないけど、まだ趣味の範囲だから。


義父も指導の回数こそ減れ、時折見に来る。

その時マジメにしてないと怒られるからな。

いや怒られないためにマジメしてる訳じゃないぞ?

これホント。



* * *



俺に個人的に仕えたいって奴が来た。


名前は佐助。

伊賀の方から来たらしい。


それって何か詐欺っぽくね?

あ、掃部の紹介。

なら大丈夫か。


ふぅ~む。

あ、じろじろ見て気悪くしたかな。

すまないな、何せ初めてこの目で見たもので。


どんなことが出来る?

ほほう、水隠れ。

川やら沼やらが得意分野と。

凄いな~。


あれ、伊賀って山国じゃなかったっけ。

まあ川や沼くらいあるか。


さて、ホントに俺に仕えてくれるの?

分かった。

給料の相場とか分からんけど、最初の頃は掃部から頼む。

あとは働きに応じて考えるから。


そうそう、名前を上げよう。


ん、いやいや。

佐助って名字ないんだろ。

別に大した意味はないが、俺に仕えてくれた証拠みたいなもんよ。


うん。

今日から君は北畠三介の家臣、鳴戸佐助だ。

宜しくな!


え、なんで泣くの。



* * *



家臣に迎えた鳴戸佐助はそれなりに優秀だった。

剣術を修めつつある俺に対し、負けない戦いが出来る程には。


ああ具良に義冬、俺がまだ未熟なのはちゃんと知ってるから。

敢えて言わんで宜しい。

だからそれなりって言ったじゃん!


雪ちゃんまで、久しぶりに構ってくれたと思ったら図に乗るなとか辛辣過ぎる。

でも可愛いから許す。

小ちゃんと揃うとまるで天使のようだよー。


おおっと、何時までも俺のボディが甘いと思うなよー。

はっはっはー、がはぁっ


雪ちゃんの一撃を軽く防ぎ、両手を腰に当てて高笑いしてた俺のボディはがら空きだった。


剣術やらで鍛えてるのに、薙刀を嗜む雪ちゃんも強くて困る。

いや、薙刀嗜んでても拳は強くならんはずだが。

おかしいな、お姫様の筈なのに。


武家の娘ですからって、北畠は国司で公家の末裔でしょ?

あ、はい。

公式チートさんに連なる血筋ですもんね。

知ったかでナマ言ってすんません。

小ちゃんの立派なパパでありたいと思います。

はい、精進します。


ふぅー。

相変わらず雪ちゃんは可愛いなあ。

一児のママとは思えん。


実際まだ若いからな。

しかし俺によく向けてくれる微笑みが、とても艶っぽくて凄い。

何が凄いって…ねえ、察してくれよ。


側室をって声もあるけど、必要ないね。

俺は雪ちゃんにぞっこんラヴだから。


ぞっこんラヴて死語?

大丈夫、未来の言葉だからむしろ新しいさ。


そして翌年、俺は男子を得る。

実父が飛んできた。

え、何やってんの…。



* * *



父上におかれましては、ご機嫌麗しゅう。

え、挨拶はいいから早く孫を見せろと。

はいはい。


初孫でもないのに、そんなソワソワしないで。

ああ、男子は初?

なるほど。

それは正室を持たない実兄が悪い。

未だに遠距離してんの。

すげぇ。


あ、小ちゃんは初めましてだな。

小ちゃんのお爺様だよ。

おっと義父殿とは別の爺だ。


いや父上、孫にとって祖父が爺なのは間違いないでしょ。

普段から一緒に居る義父殿がそう呼ばれるのは仕方ないと…。


茶筅如きが知った風な口をってアンタ。

俺だって既に人の親。

知った風じゃなくてちゃんと知ってるっつーの。

小ちゃん膝に乗せて悦に浸ってないで聞けよ!


ええい父上め、子煩悩は孫煩悩にジョブチェンジしおったか。


あ、甘い南蛮のお菓子ですか。

ありがたく頂戴します。


うん、そりゃちゃっかりするさ。

息子の名前は、ああ名付け親を狙ってきたのね。

三法師?


三は三介の三ですか。

違う、父上の三郎から…はいはい、知ってましたよ。


じゃあ北畠三法師と…何難しい顔してんすか。

俺は北畠当主。

その子が北畠を名乗るのは当然のことでしょ。


は?

俺に織田を名乗れと?

おとといきやがれ。


おっと失敬。

いやいや、流石に飛ばし過ぎでしょー。

兄上がそのうち男子を産めば…ああ、兄嫁がね。

織田を名乗る男の孫が出るんだから。


初の男子にこれまで温めて来た三法師を付けたい。

でも織田を冠に付けたい。

ジレンマだな。


じゃあこうしましょう。

我が子は三法師。

兄上に男子が生まれたら名を譲ります。


はい、じゃあそれで。

どうせすぐ生まれるよ。

遠距離恋愛を続ける優しく秀でた実兄も、女と接点がない訳はないのだから。


この前貰った手紙には、塩川さんちの娘さんと懇ろになったとか書いてたよ。

あと正室は心に決めた相手がいるから云々…と、惚気が綴られていた。

俺には雪ちゃんが居るから羨ましくはなかった。

若干うざかったけどな。


何それ知らないって、そんな寂しそうな顔すんなよ父上。

世間の織田信長像が崩れるぞ。

ほら、北畠家中の皆も。


いや構わんて。

まあ別に俺はどうでもいいけどさ。


ところで兄上の幼名は奇妙。

俺は茶筅。

随分と孫には良い名を考えるじゃないか。

拗ねてない。

一生ものなら困るけど、所詮幼名。


いや雪ちゃん。

所詮ってのは言葉のあやでね。

そう、大事。

超大事!

うん!

分かってるとも。


と言うことで、俺の長男は晴れて北畠三法師となった。

やったね!

今宵は宴じゃ。

実父は下戸だから菓子三昧。


カキもありますよ。

これのどこが柿だって?

ええー、どこからどう見ても立派な牡蠣ですよ!

伊勢志摩の隠れた名産。

おっと父上様、脇差はダメでしょ。

ほら、こちらに甘い柿の山ががががっ


そうだ。

せっかくだから義父殿と話でもしたら…いや、爺位を掛けた決闘とか要らんから。

剣では勝てない。

勝てない勝負は挑まない。

だから菓子の大食い対決をって…。


宴会の余興だから良いものの、レベルが義兄と同じだぜ。

案外気が合うかもしれないね。



* * *



忍者の鳴戸佐助は優秀だ。

名字を持たなかったから身分は低かったみたいだけど、故郷ではそれなりに知られた腕前だったらしい。


それなりばっかでごめんね。

でも事実だし、他に言いようが浮かばなくて…。

うん、ちょっと考えるから少し待っててね。


ともかく佐助は凄腕の忍者。

真面目に仕えてくれてて、普段は身辺警護と護身術の稽古係。

たまに情報収集をやってくれてる。


掃部などは稽古係に良い顔をしないが何も言わない。

ぎりセーフなんだろう。

軽い身のこなしが徳松の琴線に触れたようで、一緒に習ってる。

剣豪の息子はどんな大人になるのかな。

今から楽しみで仕方がない。


そんな佐助だが、故郷から仲間を連れて来た。

雇ってくれないかと。

二つ返事でオッケーしたら驚かれた。

流石に全員佐助と同じ待遇にはさせられない。

とりあえず佐助を責任者として、組を作らせた。

ついでに部屋を与えておく。


今まで佐助が使ってた部屋とは別の、ちょっと広いところに全員。

住むのに問題はないはず…って、また何で泣く。

気にするな?

ああ、分かった。

佐助が言うなら大丈夫だよね。


鳴戸佐助を頭とした忍者の集団。

住まいの部屋に因み、彼らは鳴戸部屋の鳴戸組、鳴戸衆と呼ばれるようになっていく。

うん、胸熱。


そういえば、伊賀の調略は順調なのか?

そうでもない?

じゃあ佐助たちは…ああ、個人的な繋がりが…。

俺は運が良かったんだな。


掃部に感謝しないと。

最近何か疲れてるみたいだし、労ってやろう。


どうやって?

どうしよう。



* * *



普段は緩く安穏としてる俺だが、時折ちゃんと遠征が入る。

実父や実兄に従い、各地を転戦。

そこまで遠出はしないけど。


一番遠かったのは播磨、兵庫県の辺り。

この時は秀吉たちへの援軍に。

他でも何回か会ったことあるけど、周りより小さくて凄く愛嬌がある人だった。

後の天下人とは正直思えなかったわ。


あとは石山とか岩村とか。

石山は大阪周辺って何となく分かるけど、岩村が何処かは良く分からない。

とりあえず山の中だった。


かなりきつかった。

伊賀も似たような感じらしく、やはり前に伊賀攻めを却下したのは正解だったな。


戦以外にも、京の都に行ったり岐阜に行ったり清州や熱田に詣でたり。

実兄の命令を受けての移動が結構多い。

織田本家重臣の丹羽さんや滝川さんと一緒になることも。


軍勢を率いるのも大変だ。

岩村では織田家の伯父さんと一緒だったけど、剣を習ってて良かったと思える場面もチラホラ。


今は鳴戸衆が守ってくれてるけど、それでも危ないからなぁ。

やはり我が家が一番だよ。


そうは思っていても、命令が来たら断れない。

特に実父と実兄からのは強制力が凄いんだ。

まあ、当然か。


腹違いで同い年の弟・信孝は俺と違い、積極的に活動している。

実兄からの信頼も厚い。

ただ、時折出しゃばり過ぎて怒られることもあるようだ。


俺はその弟から嫌われている。

同い年なのに、待遇に差があるからだろうね。


俺の母は生駒氏の娘。

信孝の母は坂氏の娘。


それほど身分に違いはない。

違うのは、実父が俺の母をとても大事にしていたこと。

そして既に亡くなっていることか。


まあそんなあれこれがあって嫌われているのだが、俺は別にどうとも思ってない。

そこがまた気に障るんだろうなーとは思うけども、そこはどうしようもないわー。


実兄は頑張れば認めてくれるから、是非頑張ってほしい。

でも足の引っ張り合いはまっぴら御免。

だからさ、緩く行こうぜ~。



Q.なんか知ってる歴史と違う。

A.うんうん、あるあるぅ~!(ウザ顔


一刻およそ三十分計算で二時間になるよう修正

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