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第一話 見切り発車

YAHA!

みんな元気かい?


突然だが俺は現在、二度目の人生を謳歌している。


何の事か分からないって?

そりゃそうだ。

俺だって良く分からない。


まあ聞いてくれ。


一度目はそれなりに生きて、無難に逝った。

別に大災害や大事件を引き起こしたり巻き込まれたりもしてない。


全体的にボンヤリしているが、少なくとも逝った記憶がある。

でも今もちゃんと生きてる時点で、二度目なんじゃないかと考えるのはおかしいだろうか?

勿論、頭がおかしくなったとか、夢やら妄想やらの可能性もある。

そこはそれ、大差ない。


さらに根拠の一つとして、未だ知り得ない筈の知識を持っていることが挙げられる。

俺が生きている今、そこから先の事実と認識するものだ。

推察するに、俺の二度目は過去に遡ってきたものではないか。


ああ、自己紹介が遅れたな。

一度目の名や立場は最早意味のないものだから省略するぞ。


俺の名は織田茶筅。

もうすぐ伊勢の名族・北畠氏の養子に出される、織田信長の次男様だ!

伊勢ってのは三重県の大部分のこと。


おっと、織田信長を知らないってことはないよな?

歴史に詳しくなくても、流石に小学校で習うレベルだと思うんだ。


まあ知らないなら諦めてくれ。

俺もそこまで詳しくは知らない。

いや、授業で習う範囲とサブカル要素の知識が多少ある程度でね。


簡単に言うと、戦国乱世を鎮める礎を作った英雄ってことかな!

旧弊を打破し、新しいものを取り入れた英邁な人だったらしい。

サブカル的な作品によってちょこちょこ違うけど、大体こんなもんよ。


そんな人の次男として生きる俺。

普通に考えたら勝ち組っぽいと思うじゃん?

でも普通じゃなかったらどうすんべ。


織田信雄として知られるようだが、何か彼方此方でボロクソな評価を受けてた気がする。

サブカルの作品によっては存在しないことすら…。


そう言う意味で普通じゃない気がする訳よ。

とは言え、まあ大した問題じゃない。


根拠知識を披露しよう。


『マンガで学ぼう!日本の歴ェ史ィッ』


俺の知識の大半がこれ。

縄文時代から戦後まで一連の流れを一冊に詰め込んだ大作だ。

教科書以上にざっくりしているが、むしろそれが良かったと思う。


戦国の風雲児で英雄の信長だが、本能寺の変で非業の死を遂げる。

その後、信長の下で働いていた豊臣秀吉が彼の偉業を継ぐ。

継ぐのだが、その前には大きな敵が立ちはだかる。

信長の同盟者であった徳川家康だ。


例の大作では、その豊臣秀吉と徳川家康との争いの場面でチラッと出て来た。

家康が信長の息子である信雄と組んで秀吉に対抗。

戦は膠着するも、秀吉が信雄と和睦して有耶無耶に…とかそんな感じだった。


後々家康は秀吉に臣従、秀吉が天下を統一する。

そんな流れ。

尚、信雄はその後一切出て来ない。


でも俺は知っている。

信雄が最終的に大名として残ったことを。


偶々見てた、お宝を鑑定してウハウハする番組でやってたんだ。

信長の次男・信雄が残した茶壷がどうのって。

その時のナレーションで、確かに信雄は大名と言ってた。


だから過程は良く知らんけど、上手く流されていけば順当に大名として残るはずだ。

根拠としては十分だろ?

だから問題なっしん。


さて、俺の…と言うか、織田信雄のボロクソな評価についてだが。

凡庸とか暗愚とか短気とか。

意志薄弱やら優柔不断やら。

英雄・織田信長の子とは思えない云々。


そんな評価があるけど気にはしない。

だって英雄の子が全て英雄になれる訳じゃない。

英雄の親は英雄なのか?

必ずしもそうじゃないだろ。

多分。


そして意志薄弱は協調性があり、周囲の意見も取り入れる柔軟性があると言う事。

優柔不断は慎重であると言い換える事が出来る。

凡庸は普通ってことだし、暗愚は適性の問題で短気も決断力があるってことに。

多少の矛盾は誤差の範囲!

大丈夫だ、問題ない。


そう、物事は楽天的に考えるべきなんだ。


うーん、楽天的だとちょっと良くないかな?

好意的解釈って言った方がいいかも。


そんな訳で、特に何か新しいことをするでもなく。

淡々とお気楽能天気に、でも締めるべきところは程々に締めて行こうと思う。

素晴らしきかなお殿様人生。


未来知識でチートプレイとか、そんなん無理だから!


緩く行こうよ、ゆる~く。

な!



* * *



そんなこんなで数年後。

俺は家臣を多数連れて伊勢に旅立った。


名前も変えたんだぜ?

元服して、北畠三介具豊!

何やら立派な名前だろ?


織田信雄じゃないのかと思ったが、養子に行くんだからそりゃ名前変わるよねー。

そう。

予定通り、伊勢の名門・北畠氏の養子になったんだ。

居城は大河内城から田丸城に移ったところ。

どっちも正確な場所は知らない。

でも俺って城主なんだぜ!

例え実権がなくとも、ドキドキワクワクが止まらない。


ところで俺は別に歴史オタクではない。

だけど物語は割と好きだ。

意外な知的さに驚くといい。


色々あるけど、関係ありそうな「太平記」とか「勢州軍記」とかを読んだことあるんだよ。

だから北畠と言えば、北畠顕家と北畠具教。

この二人が出て来る。

知らない人も多いかも知れないね。


特に、太平記はともかく勢州軍記はちょいとマイナーかも知れん。

俺も詳しくは知らないけど、高校の先生が好きだった。

仲が良かったし、影響を受けたのは間違いないな。


俺もこっちで養子に行く前に、諸々基礎知識として色々習ったけどさ。

ほとんど忘れた。

我ながら、頭の出来はあまり良くないらしい。


で、例の二人。

片や南朝の名将として、片や剣豪として著名な奴ら。

剣豪なのは北畠具教の方で、今現在…戦国時代なう…正に著名。

なんてったって、剣豪だから。


いいよね剣豪。

憧れる。


そんな人がなんと、俺の義理の父?になる。


余談ながら、俺の嫁さんは北畠の娘さん。

名を雪と言い、名門らしいお嬢さんであった。


どんなのが名門らしいかって?

ほら、あれだ……イメージだよ、イメージ。

察しろ!


雪姫だから雪ちゃんって呼んでる。

最初にそう呼んだら凄く驚いてた。

なんでだろ。


余談が間延びするが、俺の嫁さんこと雪ちゃんは具教の娘。

そして養父は具教の息子。

だから具教は義理の祖父。

雪ちゃんは養父の妹にして義祖父の娘。

すると俺は具教の娘婿ってことで…。

つまり、どういうことだってばよ?


まあ年齢から考えても、義理の祖父より義理の父の方がしっくりくる。

雪ちゃんの親父さんだしな。

と言う訳で、義父に決定。


話は戻って義父が剣豪と言う話。


剣術ってちょっと憧れない?

剣道とは違って、派手さのない朴訥な感じもいいよね。

これもイメージだけど。


と言う訳で、義父に手習いをお願いしてみた。


鼻で笑われて一蹴された。


笑止とか初めて言われたよ!


でもやけに似合ってて、あんまり悪感情とか抱かなかったな。

剣豪たるもの、ストイックな姿勢も大事な要素の一つってね。

…よーし、意地でも弟子入りするぞ~。


ちなみに養父は、その……結構なぽっちゃりさんだった。

何かと質素なこの時代では珍しいと思う。


とても剣術の嗜みがあるようには見えなかった。

いや、良い人なんだよ?

押し込み養子の俺にも気さくに話しかけてくれるし。

妹(雪ちゃん)には毛嫌いされてたが。


そんな養父の好物はモチ。

絶対食い過ぎだろうと思う。


養父と義父は疎遠気味…と言うか、互いに関知しない間柄に見える。

真っ当に家督継承は行われたと聞いたんだけど。

まあいいか。


さて、義父への弟子入りに向けて根回しを始めよう。

差し当たり、織田家との仲介の労を取ってくれた義理の叔父さんあたり。

雪ちゃんにも頼んでみよう。


並行して、北畠顕家についても聞き回る。


顕家は鎌倉時代の終わりから室町時代の初めに活躍した公卿武将。

歴とした公家でありながら、武将としても優秀という公式チートさんだ。

後醍醐天皇に属して各地を転戦、二十歳そこらで足利尊氏を何度も追い詰めたらしい。


実際に末裔なのかは知らんけど、同族の先祖だから皆知ってるはず!

あの英雄っぷり、素敵だよねー。


ただ憧れるけど、若くして戦死してるのは見習いたくないね。

その辺りのことも色々雪ちゃんと話したり聞いたりしてたら、気になったのか色んな大人たちが話に参加してきた。


結果。

ご先祖様の雄姿について、という議題を元に手習いすることになった。

弟子入りは却下されたけど、手習いの一環として剣術も教えてくれるそうです。


公式チート効果すげぇー!


こうして雪ちゃんと一緒に手習いを受ける小僧の姿が見られるようになった。

名門のお姫様然としてた雪ちゃんとも、解釈について討論を交わすようになって夫婦間の会話も多くなったぞ。

最初の頃は呼んでも冷たい感じだったのに、今では小さく笑ってくれる。

超かわええの。

俺って勝ち組!


冷たかった嫁さんが暖かくなってくれる……正に雪解け!

これを北畠効果と名付けよう。


お付きの織田掃部が微妙な顔してるけどな。

大丈夫だって。

緩く行こうぜ?

武士だって緩さも大事だと思うんだよ、うん。



* * *



義父の下で色々学ぶことしばし。

仲の良い義弟が出来たから紹介させて欲しい。


徳松と亀松だ。

いや、亀松はまだ赤ん坊だけど。

これがまた良く懐いてくれるんだよ。

実家の織田家では経験のないことだったから、ちょっと感動しちゃった。


あと織田本家から派遣されてきた津川義冬。

義冬は雪ちゃんのお姉さんと結婚してるから、俺の義兄になると思ってたら何故か義弟に。


位階がどうの、立場がどうのと家老の織田掃部が教えてくれた。

俺にとっての兄は勘九郎様ただお一人!だとか。

はぁ~、面倒だねぇ。

仕方ないか。


それはそうと、せっかくなんで格式ある北畠と偉大なるご先祖様についてさ。

みんなで一緒に習いましょうよ、そうしましょう。


掃部や、そう渋い顔しなさんな。


お前も北畠とは親戚だろう。

そうそう、多方面に知見のあるお前から見ての情勢とかどうよ。

義父殿とは別の視点から色々見えてるもの、あるんじゃないの?


いや、別に教育係じゃなくたっていいじゃん。

それにお目付役と言うなら、むしろ教育する側じゃないか。


なんだったら俺の小遣いから授業料を支払うから…。

あ、別にいらない?

分かった。

じゃあ頼むな!


当代の剣豪と名高い北畠具教。

そして織田信長に仕えて久しい織田掃部。


彼らに教えを請い、成長する我らが北畠党。

但し織田氏。

積極的に活用できるかは置いておいて、何かの役には立つだろう。


特に、交遊としては最高だもの。


剣術は武士として歓迎されるし、文学も格式を誇る周囲からは変な目では見られない。

馬鹿の背伸びと思われてる節は若干あるけどな。

間違ってないから別に何とも思わない。


大事なのは俺が楽しいかどうかだ。

ついでに人間関係も円滑になれば言うことなしさ。


へい雪ちゃーん。

今夜は何読んで……え、伊勢物語?

伊勢北畠だけに。


あ、うん。

なら徳松も呼んでから…あ、そうだね、もう夜だもんね。

徳松もまだ幼い。

夜更かしはダメだよね。


じゃあ……え、二人で?

いやいや、もちろんダメじゃないよ。

う、うん。

…よ、よっしゃバッチこーい!



拝啓、雪ちゃんとの仲は良好です。

必死に背伸びしてることは多分ばれてます、敬具。



* * *



当主と城主が板についてきた。

雪ちゃんからは三介様と呼ばれている、北畠三介がお送りします。


家老の皆が集まって何やら密談中。

俺の目の前で密談。


いや、密談するなら余所でやれや。

俺の前でするなら堂々とお願いしたい。

中途半端に聞こえてて、でも詳細は分からないからどうしようもない。


おーい、つーがーわー!


お前だよ、末席にいるオ・マ・エ。

実の兄から派遣されてきた、優秀な義弟。


ああ、派遣したのは実父か。

まあ優秀と評判の兄も俺の一つ上でしかない。

流石に人事権はないか。


ともかく、末席とは言え家老に連なる義弟の津川義冬。

この場面は何ですか、教えろ下さい。


え、密談?

それは分かってるよ。

密談ってこんなんだっけとは思うけど、それはいいから。


なに?

俺が北畠家中を掌握するための方策について、だと。

そんなんお前…。

時間をかけりゃどうにかなるだろう。


え、時間が無い?

実父殿が焦っておると。

何でまた。


北畠親成が暗躍してる、と。


あー、あいつか。

義父の養子で、反織田の急先鋒だとか。

ほとんど会ったことはないけど、前会った時は確かにすっげぇ敵意を感じたものだ。


元は土岐氏らしい。

どっちにしても名門ってことで、あれか。

貴様なんぞの下に立てるか、この愚民め!とか言う選民思想ってやつかねぇ。

ああ、やだやだ。


それで、親成を始めとした造反勢力を平らげようと。

なるほどなるほど。

で、他の勢力って?


長野具藤。

義父の次男で、急先鋒じゃないけど何やら情緒不安定。

離れで療養中だったはずだけど、例の親成と接近してるとの情報があったりなかったり。


坂内具義。

義父の娘婿で、反織田勢力の一党。

娘婿同士仲良くやりたいとこだが、何かと理由を付けて常に距離を置かれてる。


大河内具良。

義父の甥で、義父に習って剣の達人と呼ばれてる。

最近体調が優れないとかで、具藤とは別の離れで療養中。


他にも…って、もういいよ~。

いやいや、粛清計画って必要なの?


親成や具義はまあ分かるよ。

でも具藤と、特に具良はほぼ関係なくね?


え、ちょっと義冬。

その苦虫を噛み潰したような顔は何だ。

なんだよ、気になるじゃないか。

むしろ言えよ!


お耳を拝借?

うん……うん?

えっ

義父殿も対象?


………。


ちちうえの意向、か。


織田家の家臣としては信長の意向には逆らえんのだろう。

そりゃそうだ。


だって社長の意向に逆らえる社員なんて、基本的には存在しない。

理論上は可能だけどね、実際には無理だよ。

クビになるとかそういうんじゃなくてね、質量を伴ったかのようなプレッシャーがなー。


そんで、この時代だと文字通り自腹を切って、物理的にも首が飛びかねん。

まじパネェ。


俺の記憶にある実父は、極めて子煩悩な父親だったが。

苛烈だったって知識もあるしなぁ。


でもな、せっかく手習いを受けてるのに。

それに雪ちゃんのことも……。


…ぐぬぬっ!


ええいっ

下手の考え休むに似たり。

馬鹿でも一緒だ。


まずは動くぞ!


義冬、家老たちが勝手に動かないよう見張ってろ。

俺?

ちょっと雪ちゃんと…じゃなくて、義父殿に会って来る!


ふぉーっ止めるな掃部ッ

俺は風になる!


それなりに筋の通す事を良しとする義父殿と、子供に甘い実父に期待を込めて。


まずは雪ちゃんを伴って義父殿に面会。

そして実父と兄に手紙を。

さらに家老たちに指示して……。



俺は灰になった。




勢いで書いた。

とても楽しかった。

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