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七話   決意

「魔法、魔法ねえ」


居候生活六日目、俺は朝目が覚めてから魔法のことについて考えていた。

それというのもある目標があったからなのだが。


「早く魔法を覚えて、この家とオサラバしないとな」


もともと、あまり長い間いるつもりはなかったが、結局もうすぐ一週間になろうかというところまで居座ってしまっている。

だからさっさと魔法を習得してこの家からでて旅をしようと決めた。

元の世界に帰るための旅に。

自分でもなんで帰ろうと思うのかはわからない、それでも帰らなきゃとは思うのだ。


「イメージ……、イメージ……」


自分が魔法を使っている様子を思い描いてみる。


「ダメだ、やっぱり思いつかない」


そもそも魔法がどんなものなのかよく分かっていないのだからイメージなんて出来るはずもない。


「あ、スティアさん。 おはようございます」


そうこうしているうちにスティアが起きてくる。


「失礼ね。 ずっと起きてたわよ」


「え? そう、だったのか?」


「ええ、貴方ずっと真剣そうに眼をつむってたからこっちも声かけづらかったし」


どうやら集中しすぎていたようだ。


「えっと、今どのくらいの時間だ?」


「もうお昼時よ、ご飯でもつくってくれないかしら」


こちらは居させてもらっている立場なので断れない、のでつくるしかない。


「て、あれ。 今日はスティアさん料理つくってくれないんですか?」


「たまにはつくってよ、できないわけじゃないでしょう?」


そう言われ、厨房に立つ。

今まで飯までお世話になっていたのかと思うと、自分の乞食っぷりに何とも言えない気持ちになる。


「よし、やるか」


気合を入れて腕まくりをする。

が、その時に初めて気づく。


「スティアさん、すいません」


「なんで謝るのよ」


「いえ、えっと、これ、どこで火をつければ」


火の元がない、その事実に、自分が現代の科学の進歩にまで助けられていたことも実感する。

自分では何一つしてなかったんだなあとしみじみ思う。


「そこに薪があるでしょ? それをかまどにいれて火をつけるだけじゃない」


「だからその火のつけ方がだな」


そこでスティアはようやくハッとしたような顔になる。


「そっか、魔法がつかえないものね。 ここには魔水晶もないし」


なにやら新しい単語が出てきたが聞くべきだろうか。

いや、後で聞くことにしよう、長引くと面倒だし。


「仕方ないわね、私が火をつけるわ」


「魔法でか? だったら、みてていいか?」


「ん、かまわないわ」


そういうとスティアは手際よく印を結んでいく。

そして、結びきると印は霧散し、そこから火が出現する。

その光景を目に焼き付ける。


「はい、できたわよ」


「ありがとう、すぐ用意するよ」


すぐさま料理にとりかかる。

三分クッキングもびっくりな早業、とまではいかないが、そこそこの速さで完成したその料理をみてスティアはすこし面食らった様子だった。


「料理、ちゃんと出来るのね。 それにうん、おいしい」


そこまで褒められると思っていなかったのでどう言葉を返そうか迷ってしまった。

結局その時出た言葉は、


「あ、ありがとう」


もっとうまい返しができないもんかなあと思いながら、自分で作った肉と野菜の炒めものを食べてみる。

うん、美味しい。

しかし、この肉は一体なんの肉だったのだろう。

料理するときにはすでにぶつ切りになっていたが……。

いや、考えないでおこう。

知らぬが仏という言葉もあるし。


――――――


「さて、剣の練習でもしますかね」


腹ごしらえもすませたし、食後の運動も兼ねて剣技に磨きをかけるとしよう。

といっても、実際に誰に習ったわけでもなく、かなり不恰好なのだが。


「よっ」


大きく振りかぶり下へと切り下げ、手首を返しつつ上に切り上げる。

剣の重量もあってか、これだけでもだいぶ疲れる。


「鍛えとけばよかったなあ」


過ぎた過去は戻らない。

過去を悔やんでもしょうがない。


「過去、か」


今の俺には、元の世界にいたことがあるという記憶はあるが、そこでどのような生活をしていたかという記憶がほとんど思い出せない。

自分に関する記憶しか残っていないのだ。

元の世界での常識めいたことや知識はあるようで、なんとかなっているし特に困ることはない。

元の世界での思い出がない状態、それに対してどう対処すればいいのかわからず歯がゆいのが悩みといえるかもしれない。

だけど、思い出のほとんどが抜け落ちてもここに来る前の記憶は残っている。


『ここから、消えたいんだね」


今思えば、俺はあそこで何をしようとしていたのだろう。

あの声の意味するところを考えるならば、


「俺は、死にたかった?」


そう言葉にしてみても実感がわかない。

その時の俺が死にたかったのだとしても、記憶がない俺にはそれを理解するのは不可能だからだ。


「でもまあ、今は死ぬ気がないっていうなら、精一杯生きられるじゃないか」


明るく、気を持ち直す。

心の奥深くで眠っているであろう、死への渇望を目覚めさせないために。


俺はまた小柄なファルシオンを振り上げた。

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