四話 居場所
俺とスティアの言っている"世界"。
そこには大きな違いがあり、そのせいというかおかげというか、話は円滑に進んでいるように見えた。
でもこのままだと有益な情報を得ることは難しいだろうと思い、俺は質問の方向をシフトさせることにした。
「さっきの質問は置いておくとして、俺のこれからの事についての話をしたい」
「どんなお話かしら」
俺はこの世界について何も分かっていない。
そんな状況ではまず身動きはとれない。
それに、この俺が本当はここではないどこか違う世界から来たんだーと言っても誰にも信用されないだろうし、そんな事をすれば気違い扱いをされるのがオチだ。
それならば、
「俺を、ここに住まさせてはもらえないだろうか?」
スティアは確かに何か思い違いをしている。
ならばそれに甘えてここにしばらくいさせてもらって、この世界について色々知った上で行動を開始した方が得策だと思えた。
「貴方、それ本気なの?」
だが、予想外にも彼女の方から不安げな声が聞こえてきたのですこしこちらも不安になってしまう。
「ほ、本気なんだけど」
「貴方は魔族が怖くはないの?」
魔族? 怖い??
一体何の話だろう。
「……そういやさっきも魔族と人間がどうたらこうたら言っていたけど」
「貴方は人間でしょう? 魔族に対してこんな接し方普通はあり得ないわ」
その言い方に妙に引っかかりを感じる。
まるで、自分のことを人間ではないと言っているかのような。
「あんたは、人間じゃない、のか?」
「……呆れた。 人間だと思っていたの?」
「いやだって、見た目とか完全に人じゃあないか!」
「それは……」
俺と彼女との違いは頭に生えている角、その一点。
もしそれが人間と魔族とやらの違いと言うなら、それは違いに含まれるのだろうか。
「貴方、やっぱり何かおかしいわ。 普通じゃないもの。 本当にタダの人間なのかしら?」
さっきまでと打って変わって、会った時同様の警戒心が剥き出しの状態になるスティア。
「す、すまん。 俺は魔族というものにあまり接したことが無くて怖いとかそういう感覚がよくわからないだけなんだ」
とっさに言葉を捻りだす。
ここで下手に疑われて家から締め出されてしまえば、俺は路頭に迷うことになってしまう。
それだけは阻止せねばと今の俺は必死だった。
「嘘、ではないのね?」
「本当の本当に、嘘じゃない」
ここで躊躇ったり言い淀んだりすれば嘘だ。
でも俺には嘘を吐く道理がない。
「そう、わかったわ。 しばらくの間ここに泊まっていくといいわ」
「本当か!?」
「ただし、手伝いとかはしっかりしてもらうわよ」
「わかってるさ」
何とか寝食する場所が出来てホッと胸を撫で下ろす。
それにしても、
「手伝いって何をすればいいんだ?」
「そうね、食糧調達とかどう?」
「なるほど食糧か。 任せろ、買い出しならちょちょいのちょいだぜ」
「買い出し? 何を言っているの」
「へ?」
「食糧なら森にいくらでも転がってるわよ」
「森に、ってまさか」
「狩ってくるのよ」
この世界で生きる術をまずは教えて貰おう、そう思わずにはいられない俺だった。