三話 誤導
魔法。
そんなのはマジシャン達や悪徳商法をやってる人達が良く使いそうな便利な言葉、それこそ魔法の言葉というように使われる程度のものだと思っていた。
「どう? これでわかったでしょう、ここが貴方の今までいたであろう世界と違う事が」
唖然を通り越し愕然とする。
魔法が、ここには存在している。
その事実が頭の中を侵食していく。
「あ、あぁ。 悪かったスティア……さん、あんたはどうやら本物のようだ」
「本物っていうのが何をさして本物と言っているのかはよくわからないけど、分かってくれたようで良かったわ、召喚者さん」
まただ、また出てきた。
ショウカンシャという単語。
「わかった、ここが例え夢であろうと現実であろうと、今この魔法が使える世界が存在しているという事実は認める。」
「夢なんかじゃないわよ?」
「例えだ、あんまり気にしないでくれ。 それよりもだ」
「その召喚者ってのは、何なんだ」
他にも疑問はたくさんあったが、今スティアは明らかに俺の事をさした言葉を言った。
召喚者という単語を。
彼女はきっと何かを知っている。
「そうね、どう説明したらいいのかしら」
スティアはしばし考え込むように腕を組んだが、すぐさま何かを思いついた様子で先程魔法で産み出した水球を俺の顔近くまで持ってくる。
「これを鏡代わりに使って顔を見てちょうだい」
「顔? 一体何があるっていうんだ……」
そこには朧げながらも、確かに俺と分かる顔があり、何一つ変わりは……
変わりは……?
「なんだ、この顔についてるマーク……」
ちょうど左目の下辺りに円が縦で半分になってずれた様なマークがあった。
なんだこれ、落書きか? いつの間に……
「それは、召紋よ」
「しょ、しょーもん??」
また何か変な単語が出てきてしまった。
そろそろ覚えているのもキツくなりそうだ。
「簡単に言えば、誰かの魔法によって召喚されたものにつく証みたいなものかしら」
なんだそれは。
「じゃ、じゃあなんだ? 俺は誰かに無理やり呼び出されたっていうことか?!」
少しどころかかなり理不尽ではないだろうか。
「いえ、基本的に召喚はお互いの了承が無ければ出来ないはずよ」
「俺はそんなもんに了承した覚えはないし、そもそも俺はここに来る前にここの世界の奴らとは会ってもいないんだぞ……?」
本当に?
「もしかして……」
「どうしたの? 何か心当たりでも?」
「ここに来る直前、誰かの声が聴こえたんだ」
――ここから、消えたいんだね。
あの声が、もしかしたら。
「なあ、ここではない世界にこの世界の奴らが行くってことは可能なのか?」
「……え?」
「え? じゃなくてさ、どうなんだ」
「いえその、貴方何を言い出したの?」
「は?」
何かお互い思い違いをしているような……
いや、そんなはずは。
「俺がこの世界の住人ではないことをスティアさん、あんたは分かっているのか?」
「当たり前じゃない、貴方は人間でしょ? 魔族の世界の住人では無いのは火を見るよりも明らかじゃない」
やはり、何かズレている気がする。
その理由は、何なのか。
「貴方たち人間は魔法を扱う事に対して厳しいのは聞いているわ。 だからこうして、私のような魔族のいる森に召喚されてしまった貴方に本当の魔法を見せてあげたのよ」
OKわかった。
どうやら、俺の言っている世界とスティアの言っている世界にはかなり違いがあったようだ。
でも、それをどう彼女に説明すればいいのか……