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一話   夜明け

ユラユラ、ユラユラ

揺れている、揺れている

揺り籠のように、ユラユラと


其処に主体は無く、全ては渾然一体だった


・・

・・・


目を覚ますと、木々の匂いが強く嗅覚を刺激した。

今の今まで街の中の排気ガスなどの刺激臭の中にいたためか、突然の自然の匂いに慣れずにいた。


「そうだ、ここは一体……どこなんだ?」


見慣れない場所に放り出された、その恐怖が今更ながらに訪れる。


「深い森だな」


周囲は木に囲まれ、視界は良好とは言えない、上へと視線を向けると、青々とした空が雲ひとつ無く広がっている。


「まったく、なんのイタズラなんだよ」


俺はこの状況を理解出来なかった、正確に言えば理解しようと思わなかった。

思い浮かんだ推測はどれもトンデモなものだったからだ。


「とりあえずこんなところで野宿はしたくないなあ」


そこで、今の自分が冷静なことにひどく驚く。

まるで、こうなることを望んでいたかのような。


「……馬鹿じゃねーの」


陰鬱としてきた思考を振り払うように足を動かし、その場を後にする。


――――――


「どうなってるんだこの森は」


歩けど歩けど出口が見えない。

まるで富士の樹海のようだった。


「行ったことはないけど、こんなんだろ多分」


と冗談めかして言葉を吐いてみたはいいものの、


「いや、本当に出口が見つからなかったらマズイぞ」


内心は焦りで一杯だった。


「どうにかして外に出て状況を確認しないと」


気を持ち直し、再び出口を探そうとしたその時。


「……物音?」


どこかからガサガサという草を掻き分けているような音が聞こえ、思わず足を止めてしまう。

――風? それにしては不自然な音だった。

導き出される答えは、


「何かいる……?」


何かわからない以上、下手な行動はできない。

しばらく様子をみてみることにする。


「こっちは早く家に帰りたいだけなんだがなあ」


愚痴をこぼしてもしょうがないのはわかっていてもついでてしまう。



「貴方、何してるの?」


唐突に背後から声が聞こえたが、あまりにも唐突すぎて反応すらできなかった。


「お、おど、脅かすなよなあ……?」


やっと人の声が聞こえ安堵したのもつかの間、俺は絶句した。

なぜなら、


「なあに、そんなポカンとした顔しちゃって」


背後には角を生やした女が立っていたのだから。


――――――


「お、お邪魔します」


角女に連れられ、俺は小さな家のような場所へと案内された。

恐らくだが、彼女の住んでいる場所なのだろう。


「で、貴方はこの森の中でどうするつもりだったの」


家に入るなり鋭い眼光と共に牽制される。


「いや、何をどうするったって……、俺は何も分からないんだ」


そうなのだ。

何を聞かれた所で、俺に話せるのは、しがない一会社員であることと俺の名前が赤石光之(あかいしみつゆき)というものであること、それと……


「あ、あれ?」


それと?

他は、なんだ?

これはまさか……


「記憶が抜けてる……?」


「ちょっと、一人でぶつくさ言ってないで何か答えて頂戴な」


彼女の視線がさらに厳しくなる。

マズイ、このままだと不審者扱いされて信用が得られなくなってしまう。


「すまない、俺は本当に何も分からないんだ! 気づいたら、この森の中にいて」


俺は必死さを前面にだし、自らの潔白を証明しようと試みる。


「……貴方、もしかして」


彼女は一瞬、こちらを見定めるように目を薄める。

そして警戒が解けたのか、目つきが柔らかなものへと変わり、俺も多少安堵する。


「こっちで話しましょう、飲み物ならすぐ用意できるけど、いるかしら?」


その彼女の申し出に戸惑ったものの、了承の意を告げ、ありがたく飲み物をいただくことにした。

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