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Remain -旅の遺稿-  作者: フネコー
一章 始まりは唄から
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九話   舟唄

スティアと別れを告げた俺は森を抜け、海岸沿いを歩いていた。


「いやあ、いい景色だなあ」


ずっと森の中にいたせいか、開けた場所の景色は新鮮味があってかなり気持ちがいい。


綺麗な海、青い空。

何にもとらわれないこの風景に溜息すらこぼれる。

そうして歩いていると、看板を発見する。

この世界の文字で書かれているので読めない。

そういえば、何故この世界でも日本語が通じるのだろう。

まあ、御都合主義というやつだろう。

過ごしやすいし、こちらとしては問題無しだ。


「でも魔導書を読むのに必要だしなあ」


どうにかしてこの世界の言語の勉強の方法を見つけないといけない。


「さて、もう一踏ん張り歩きますかね」


看板から視線をはずし、再び歩きだす。


――――――


しばらくすると、海岸線が終わり、かなりの高さの崖が目の前に佇んでいた。


「どうやったらこんな地形になるんだ……」


海の景色を眺めていたせいで、反対側の地形の変化に気づかなかった。

ここまで緩やかに坂になっていたのか、周りも崖に遮られ、この先には進めそうにない。

戻るか、海を泳ぐかどちらかしかなさそうだ。


「しょうがない、戻るか……」


ここまでかなりの距離があったのでまた戻るのかと思うとゲンナリする。


「ん、なんだ? この音」


何処かから、透き通るような音が聞こえる。

心の底に響くような――

これは、


「唄、なのか?」


すると遠くから続いて声が聞こえてきた。


「どうなさったんですかー‼︎」


一体何処から? 周りを見回してみると、その音の発信源がわかった。

海に一隻の小舟があった。

どうやらそこに乗っている者たちの声だったようだ。

そうして待っていると舟は砂浜へと着き、乗っていた者が何なのかを確認することができた。

男と女、それと子供? まだ幼く、女に抱かれ、スヤスヤと眠っている。

男の方が舟から降りてきて、こちらへとやってくる。


「どうしたんですか、こんなところで」


「ちょっと道を間違ってしまって」


「そうだったんですか。 みたところこちらではあまり見かけない服装ですし、旅のお方ですか?」


よく相手を見ている人だなと思いながら、答える。


「はい、特にこれといった目的は無いんですけど」


「へえーそうなんですか」


「あなたたちはどうしてここに?」


「僕達ですか? 僕達はこの辺で暮らしているんです。 今は漁にでていました、そんなに量は取れてはいませんが」


笑顔が眩しい。

俺もこんな爽やかな青年に成りたかったななどと考えていると、


「ここから戻るおつもりでしたか?」


「ああ、そのつもりだったんだけど」


「それは大変でしょう。 この崖の先まで行けば道も開けます。 もし良ければ少しの間ですが、舟に乗っていかれませんか?」


なんだこの爽やか青年は。

爽やかな上に親切ときた。

これは惚れる。


「じゃあ遠慮なく」


「わかりました、こちらへどうぞ」


俺は青年に導かれ、舟へと乗り込んだ。


――――――


「この辺に住んでいると言ったが、この辺りには村でもあるのか?」


そういったところがあるなら是非とも寄って行きたい。

色々と情報なども得られそうだし。


「村、ですか。 あるにはあるんですが」


「村は、僕達の家からは、すこし離れたところにあるんです」


青年の後に続くように聞こえてきたのは女の声。

頭からスッポリと覆うローブのようなモノをつけているのが印象的だった。


「そうなんです、とある事情があって……」


「とある事情? それはなんなんだ?」


「えっと、それは……」


「ああいや、答えにくいなら答えなくてもいい」


どうやら見ず知らずの俺には話せなさそうな問題のようだ。

まあ、当たり前か。

すると女はこちらへと視線を向ける。


「ところで、話を変えてしまって申し訳ないのですが、旅人さんはどちらからいらしたのですか?」


恐らくこの質問はどこ出身だとかそういうことを聞いているのだろう。

だがあいにく、この世界のことは何も知らない。

ありのまま来たところを答えるのが無難だな。


「んっと、あっちの森から抜けてきたんだ。 あまりこっち側には来たことがなくて、色々教えてくれると助かるんだが……」


よし、この返答は完璧だ。

あわよくばこの世界の事を聞けるかもしれない。


「まさか、あの森を?!」


ところが男の方が驚いた様子でこちらに身を乗り出してきた。


「あ、ああ」


ストンと音がするぐらい力が抜けたように座り込む男。

そんなに驚くことなのだろうか?


「あの、失礼ですが、あなたのお名前を聞いても?」


「ん、光之だ。 そうだなせっかくだしそちらの名前も」


「ミツユキさん」


男が先程よりも俺の近くまで乗り出してくる。


「は、はい」


「是非、僕達の家に寄ってくださいませんか?」


「え?」


願ってもない事だが……。


「いいのか?」


「あの森を抜けて来られたというミツユキさんになら、僕達の問題も解決できるかもしれない」


「僕達の、問題?」


どうやら森から出てきて早々、厄介ごとに巻き込まれそうだった。

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