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来迎
風が、心地よく彼の体をすべっていく。
夜の闇が、街の光で照らされている。
地上から高さ30m程の高さ、およそ10階くらいのところ、彼はビルの屋上に立っていた。
「こっからなら、いなくなれるか?」
ぽつりと、呟く。
自らに言い聞かせるように静かに。
「……」
そして、今日も彼はできない。
彼に死ぬ勇気など残ってはいなかった。
「まったく、嫌になるよな」
やることが無いのならこんな所にいる必要などない。
彼は足早にその場を去ろうとした。
しかし、その先には見慣れない人影があった。
――小柄な影、闇が深く姿はよく見えない。
だがその声は、しっかりと聞こえた。
『ここから、消えたいんだね』
「は? お前何言って――」
言い切れぬまま、彼は謎の光に包まれて、この世界から消えたのだった。