第一章 二部-2
「そういえば、今日から新しい寮だよね。荷物の準備は終わった?」
帰り仕度をしていると、桜がそう言う。
「当然。といっても、もともとそんなに荷物はない方だしな。家具は備え付けだから、基本的に動かす必要ないしな」
「俺も終わっている。しかし一年から二年に上がるとき、寮移動あるとか面倒だよな、なんでこんな制度あるんだかね?」
たしかに、慶太の言うこともっともだ。
この皐月学園は、調布飛行場とその付近の以前大学があった敷地、さらに付近の公園などを取得し、それらを整備して造られた東京三鷹基地。この内に校舎を併設しているため、当然そこに寮も併設してある。
そして、その一年の最初の三ヶ月間は、だだっ広い部屋に二段ベットで40床ほどがあるだけの、新兵訓練用の宿舎に入れられる。
その後は二人部屋が割り当てられ、僕は慶太と一緒に住んでいた。恐らく、何か目的があるからわざわざ寮を移動させるのだろうが、面倒なことこの上ない。
「まあ、学園の方 針ならしかたないか…… ちなみに、お前たちはどこの寮が割り当てられた? 俺はBlue地区1024号だ」
「慶太もなのか、僕も同じ所だ。またよろしくな」
「ああ、こちらこそ。しかし同じメンバーなら、それこそ移動する意味ないだろ」
「だよなぁ……うん? 桜、どうした? そんな顔をして」
桜は引きつったような、しかし少し嬉しそうでもある顔をしていた。
「わ、私も同じ寮なんだけど……」
「「……は?」」
わけがわからないでいる僕と慶太に、桜が携帯端末で、自分の寮の割り当て通知を見せてくる。
確かに、そこには僕達と同じ寮が書かれていた
「えーと……これはつまり、そういうことか?」
「だろうな、とりあえず現地に行ってみるか」
慶太に返事をして、僕たちは移動を開始する。
「ああ、移動させる理由って……」
桜も状況が把握出来たみたいだ。
そして五分ほど歩き、割り当てられた寮に着く。
そこには2階建てのコンクリート打ちっ放し造りで、かなり広めに見える建物があった。しかも、表札を見ると1024号となっている、ここで間違いはないようだ。
「全く、こんなサプライズを用意しているとはな」
そう言いながら、僕は自分の端末を入り口のドアにかざし、キーロックを解除して中に入る。
寮の内はモダンな造りになっており、入ってすぐ有る掲示板には、寮の見取り図が貼ってある。
どうやら、一階部分はリビング、キッチン、風呂、トレーニングルームなどの共有空間。二階は個室などの、個人空間になっているようである。
「個室の部屋割りは決まってないみたいだぞ、どうする?」
慶太がそう言うと、桜が答える。
「まず、部屋を見てから考えようよ。それに、私達だけで決められるものではないし」
確かに、個室は5つあるし、きっとあの2人も直にここに来るだろう。
部屋割りを決めるのは、それからにすべきだ。
「じゃあ、とりあえず一回りするか」
そう僕は言い、皆で、寮の中を探索し始める。
「しっかりとしたキッチンだね、これなら美味しいごはんが作れそうだね!」
「桜の飯はうまいからな、それよりもこのメンテナンスルームすごいぞ、最新の工具が揃ってるじゃないか!リローディングマシンまであるし!」
リローディングマシンとは、弾丸、薬莢、発射薬、雷管を組み合わせ、弾薬にする時に使う道具である。使用済みの薬莢を使えば、安い弾薬を作ることもできるし、特殊な火薬量のものを、ハンドメイドで作ることもできる。
専門分野なこともあり、慶太が興奮するのも無理は無い。これらの装備は、一般の部隊なら、普通置かれるものでもない。 部隊で共有される物があったとしても、いつも使えるとは限らない。
それと比べて、この寮でなら使い放題だろう。
その後回ったトレーニングルームにも、最新のトレーニング機器が揃えられ、個室にも高性能のPC、大きい個人用ウェポンロッカーなどが備え付けられていた。
僕達に対する期待が、どれほど大きな物だか否が応でも感じさせられる。
「あら、結構広いのね。それに思ったより綺麗だわ、寮というから、古い建物を想像していたのだけど」
「そうですね。気合を入れて、掃除をしなくてはと思っていたのですが、その必要はなさそうです」
例の新しい住人が来たのか、玄関の方から声が聞こえてくる。
「やっぱりな」
「やっぱりだね」
予想通りとでも言いたげに、桜と慶太がそう言う。
確かに、僕にとっても予想通りの展開だ。男女一緒に同じ寮の理由なんて、これ以外考えられない。
「やっぱりか、皐月、結さん」
「個室が5つあるのでもしかしたら、と思っていましたが、やはりあなた達も一緒の寮ですのね……」
「よろしくお願いいたします、新堂様、結城様、深瀬様」
そう言う2人に挨拶をする。
「しかし、そんなに嫌がらないんだな。『なんでこんなのと一緒なんだ!』とか、言うと思ってたんだが」
僕がそう言うと、皐月が答える。
「どこの班も同じ環境なのでしょう? それならば、許容いたしますわ。これも訓練の内なのでしょうし、これ以上、たんこぶを作りたくもくもありませんしね」
昼間の瀬川先生の件が効いているようで、最後の方は痛そうな顔で言う。
「それじゃあ、個室の割り当てはどうする?」
「それなら、私に案がありますわ」
そう僕の質問に皐月が答えると、玄関に設置してある大きめの電子ボードに、部屋割りを記入していく。
その案に反対する所もなく、コの字型に配置された個室の端から、時計回りで慶太、桜、僕、皐月、結さんとなった。
僕だけ角部屋ではないから、少し損かと思ったが、代わりに部屋がちょっと広いようだ。
部屋も決まり、それぞれ自分の引っ越しに取り掛かり始める。
とは言っても、普通の荷物は皆少なく、一番多い慶太でもせいぜいダンボール3箱程度だった。
この後、普通じゃない、つまり銃とか装備類とかの移動があるが、それは専門の部隊が行う。
保管場所移転の手続きなど、同時にする必要があるために、このような手法を取っているらしいが、正直助かる。
装備、武器の類は、皆それなりの量を持っている。下手したらトン単位になるため、一人で移動するとなれば大変だ。
そんなこんなで、自分の荷物を寮まで運び終えると、寮の前に中型のトラックが止まっていた。




