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五 思案する老獪な人々


「大変だってことは分かりました」

 キスは結構落ち着いた様子で頷きながら言った。ユーサーとキレニアが顔を向ける。

「それで、どーするんですか? あのクリステン卿が仰っていたように早く逃げた方が良いのではないですか?」

 帝国貴族であるキレニアは別として、キスとユーサーは帝国人ではなく銀猫王国人なので、短絡的に言ってしまえば帝国が滅びてしまっても、色々と諸問題はあるものの、生きることとかにはあんまり関係ないのだ。暫くは銀猫王国に帰れば何とかはなる。帝国議会を訪れる必要はないのだ。

「ふふん。ちゃーんと私たちには思惑があるのですよ」

 キレニアがにやりと意地悪そうに笑って言った。

「さよう。君にも少し協力してもらうよ」

 ユーサーもにんまり意地悪そうに笑って言った。

「「ふっふっふっふっふっふ……」」

 2人して怪しく笑い出す兄とその友人をキスは心底気持ち悪そうに見ていた。


「何ぞ企んでおるな」

 その人は不機嫌そうな低い声を出した。

「え? 私がですか?」

 隣にいた若い女がちょっと驚いたように目を丸くする。

「違う。お前じゃない。あいつらだ」

 その人が指す方にいるのはユーサー、キス兄妹にキレニア。

「あー。あれは銀猫の殿下方とレイクフューラー辺境伯殿ですね」

 若い女が答える。緑色の長い髪に緑の大きな瞳。白い法衣を身に纏った女だ。

 その人―50代くらいで鬼のような厳つい顔をした恰幅の良い、やはり白い法衣の男が頷き、苦々しげに毒づく。

「ガキどもが悪知恵を働かせておる」

「まあ、ガキはガキなりに色々と考えているのでしょう。まあ、この場で何も考えてない人なんていないでしょうね。皆皆、腹の奥じゃあ何を思っていることやら?」

 若い女は何だか楽しげに言った。厳つい男は不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「ったく……! 阿呆どもが」

 1つの議席に座る中年の痩せた結構男前の男がこめかみの青筋をぴくぴくさせながら吐き捨てるように言った。

 その視線の先にはもう1時間以上も徹底抗戦か戦略的撤退かを論争する貴族たちの姿がある。

「あの馬糞野郎どもめ。連中に比べたら商人どもの方がいくらもマシだ。まだ時間が分かるからな。連中は分かってるのか? 今にも反乱を起こした糞虫どもが迫ってきておるというに」

 男はぶつぶつと不機嫌そうにイライラと悪態を吐き続ける。ちなみに、商人という職業は金を扱い利益を求める仕事ゆえ豊かではあるが、いや、豊かである為、余計に貴族や聖職者からは蔑視されることが多い。金儲けは宗教的に悪と見られるのだ。

「まあまあ、落ち着きなされよ」

 隣に座る頭の禿げた初老の貴族が宥めるように声をかける。

「我輩は落ち着いている! 冷静な判断ができていないのはあいつらだろう!」

 痩せた男は激昂する。その時点で落ち着いてないじゃんというツッコミを入れる者はない。


 ある軍人は激しく論争をしながら黙っている連中のことを苦々しく思っていた。

「議論してこそ良い案も出るというものであろう。黙って座っているだけでは何の意味もあるまい!」


 ある商人は黙って考えていた。戦争となると大量の武具、弾薬、食料その他諸々、それらを揃えて売ればどれほどの利益になるだろうか。戦争は大商業活動だ。商人にとっては絶好の商売機会である。災い転じて福と為す。


 ある司教は逃げる際に、聖堂から持ち出す宝と財産を皮算用し、ある貴族は声高に徹底抗戦を主張しつつも退去する計画を腹の中で勘案し、ある者は真剣に兵を集める計画を練り、ある者は反乱軍に味方した場合の利益を考え。

 彼らの心うちを見れば、どんな人でも一瞬で人間不信になること間違いなしだ。老獪な人々は色々と思案するのだ。


「あうあう……。み、皆さーん! 落ち着いてー! 静粛にー!」

 副議長席に座った金髪の可愛らしい少女が必死な表情で叫ぶ。これでも貴族の最高位である公の大貴族だ。ただ御存知の通り貴族は世襲制であり、副議長の役職は公の位に相応な役職として飾りとして就いているに過ぎない。

 そもそも、帝国議会は形上は帝国行政の最高機関ではあるが、平時は殆ど承認の為の採決しかしない形式機関なのだ。法案や審議事項は議会に上がる前に役人や貴族たちの間で十分に審議され修正され、議会に上がった頃には既に決定済みも当然なのだ。よって、正副議長職というのは形だけのものなのだ。だから、よぼよぼの爺様や大貴族だけど何の経験もない少女が席に座っていたりするのだ。

「皆さーん! 静粛に! 静粛にー! あうー! もう、泣いちゃいますよー!?」

 少女副議長は泣きそうな顔で叫ぶ。

「こりゃダメだな」

 ほぼ全員の議員が呆れた表情で副議長を見ていた。

「もー! 静かにー! 静かにしてくださいー! うぅっ! うわーんっ!」

 色々と思案する老獪な人々を前にして少女は悲痛に泣き叫んでいた。

ちょいと短いです。

後で加筆するやもしれません。

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