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三〇 メイドは密書を……


「私は何故このように監禁されているのでしょうか?」

 灰色橋砦の狭苦しい一室には黒髪姫騎士団の面々とキス、ロッソ卿、ワークノート卿が戦場跡で出会ったメイドが押し込まれていた。既に日は暮れているので、部屋には明かりの為に、いくつかの蝋燭が置かれている。

「そんなにも警戒される理由が分かりません」

 そのメイドは生きてるんだか死んでるんだか分からないような目で、ぱくぱく口を開け閉めして喋る。何だか生身な気がしない人形めいた少女だ。肌は白い磁器のようで、目は硝子球、白い髪の毛は乳児の人毛(最高級の人形の髪の毛は乳児の人毛だったらしい)みたい。まるで生気を感じない少女だ。

 メイドは椅子に座らせられ、騎士団の面子は彼女を警戒するように数歩離れていて、キスやオブコット卿、クリステン卿ら騎士団幹部やワークノート卿やオブコット娘卿、モンなんかの女の子にくっついたりするのははばかられるし、蝋燭に近付きすぎて燃えちゃうのも嫌なので、後ろの方は騎士団の男どもでぎゅうぎゅうだった。

「おい! ちょっとくっつくな! 汗臭い!」

「貴様こそ息が臭いぞ! 歯は磨いてるのか!?」

「だぁっ!? 俺の足を踏んだのは何処のどいつだ!?」

「お前! 馬鹿! こんなとこで剣を抜く奴があるかっ!」

 すぐに後ろでばたばたし始めた。騎士も傭兵も気が荒いのだ。

「貴様らぁ! 静かにせんかぁっ!」

 クリステン卿に怒鳴られ、ぱたっと静かになる。

「さて」

 静かになったところでオブコット卿はメイドを見る。

「君はユーサー殿下のメイドであるらしいが、それは真か?」

「ええ、勿論です」

 メイドはこっくりと頷くが、彼女を前にした面々は誰も彼も疑わしげな目をしている。

 つまり、彼らはこのメイドが、実は敵の間諜や暗殺者だったりしないかと疑っているのだ。

「エド。もしも、あのメイドがナイフ振りかざして姫さんに向かってきたら、君は盾になるんだよ?」

「勿論そのつもりだけど」

「…………………………」

 ロッソ卿が即答するとワークノート卿は一瞬きょとんとしてから、眉根を寄せ、それから不満そうな顔で彼を睨みつける。

「な、何? 何で、そんな睨むの?」

「けっ。乙女の心は複雑なんだよ!」

「な、何で、怒られたの?」

 乙女の心は複雑なのだ。

 何やらやんややんややっている2人の横でキスは首を傾げる。ユーサーは彼女の兄であるが、彼がメイドを連れているのは見たことがなかった。そして、キスよりもユーサーに近いところにいたクリステン卿やオブコット卿も見たことのない奴であった。

 不審に思われるのも当然である。

「怪しまれるのも致し方ありません。私はつい先日雇われたばかりなのです」

 メイドは相変わらず生きてるんだか死んでるんだかわかんないような様子で話す。

「つい先日雇ったばっかのメイドに伝言を頼むか?」

「いや、分からんぞ。あの人、抜けてるからな」

 騎士たちがぼそぼそと言葉を交わす。狭い部屋なので殆ど全員の耳に聞き取れたが。

「ごほん。とにかく、その言伝とやらを聞こうではないか」

 彼女の言葉を信じるも信じないも、まずは、そこからだ。そーしないと話が進まない。

「殿下からは文書を預かっておりますが」

「なんだ。なら、それを早く出せばよかろう」

 騎士たちがうんうんと頷く。文書ならば、ユーサーの筆跡で本人かどうかが判別できる為、このメイドの素性の問題なんかはすぐに解決するのだ。ここにいる騎士の多くはユーサーの字を目にしたことがあることだし。

「じゃあ、出します」

 そう言ってメイドはスカートの中に両手を突っ込んだ。

「貴様、何をやっておるかっ!?」

 オブコット卿が真っ赤な顔で怒鳴った。

「何って別に武器とか取り出すわけじゃあないですよ?」

 そう言ってメイドはスカートをぺろんと捲り上げた。白いパンティーが眩しかったそうな〜。

「うわー! 何をやっとるんだー!?」

「変態かっ!? 露出狂か!? 痴女かっ!?」

「パンツだ! ねえ! パンツ!」

「モンうるさい! パンツパンツ言うな!」

 混乱に包まれる黒髪騎士団。意外と純真というか照れ屋な人が多いようだ。

「別に、私は変態とか露出狂とか痴女とかじゃあありません」

 混乱する騎士団を前に、メイドは相変わらずの生きてるんだか死んでるんだかわかんないような顔で平然とのたまった。スカートをぺろんしたまんまで。

 ワークノート卿が飛び出して、スカートを下げさせた。

「あんた! 何やってんのさ!? 実はお馬鹿? それとも、その文書ってのはパンツの中にでもあるっての?」

「そうです」

 ワークノート卿の言葉に彼女はこっくりと頷いた。

「は?」

「ですから、文書はパンツが中にあるのです」

「「「何でそんなとこにあるねん!?」」」

 何人かが一斉にツッコミを入れた。

「それは読めば分かります」

 そう言って彼女はパンツに手をかけた。

「うあわぁぁーっ! ちょっと待った! ちょぉっと待ぁったぁっ!」

 ワークノート卿はそう言って、メイドの手を押さえながら、振り向く。

「パンツ脱がないと出せないの!?」

「ええ」

 彼女の問い掛けにメイドはこっくりと頷いた。

「男どもは外へ!」

「だ、だけど、もし、その子が敵とかだったら……」

 キスの護衛役であるロッソ卿が顔を赤らめながら言う。蝋燭の火で赤いわけじゃあない。

「うるさい! 姫さんは私が守ってるし、クレディアもモンもいるから大丈夫! それに、あんたらが廊下にいればすぐ対応できるでしょ! 出てけっ!」

 ワークノート卿の気迫に殆どの野郎がさっさと部屋の外に退避した。ただ、オブコット卿とクリステン卿他何人かの騎士が尚もキスの身を心配して外へ出るのを躊躇していた。決してメイドの白いパンツとかその下にある女の子の大事なとこが見たいわけではないのだ。たぶんね。

「クリステン卿とオブコット卿はパンツの中身が気になると?」

 ワークノート卿は軽蔑するような目で残った騎士たちを睨みつける。

「いや! そーいうわけではない! 決して違う!」

 オブコット卿は真っ赤な顔で弁解するが、

「父上! いいから出て行って下さいっ! 恥ずかしいです!」

 娘にこんなふうに言われては立つ瀬がない。大人しく廊下に退避した。クリステン卿や他の者も外へ出て、ドアが閉められた。

「よし。これで大丈夫」

 部屋の中にいるのは女だけとなった。とすれば、残ったのはたったの数人だった。キスとワークノート卿、オブコット娘卿、モン。そして、何故だか、例の正体不明のムールド人傭兵もいた。布で頭の先から足元まですっぽりと覆っているので男だか女だか何歳だかも分からない。

「あんた、女なの?」

 ワークノート卿が尋ねるとこっくりと頷いた。

 それだけじゃ本当かどうか分からんので、彼女は股間辺りを足でぽんぽんと軽く叩いてみた。

「んー。ない。よし。女だ」

 簡単な確認作業の結果、このムールド人傭兵は女だと判明した。

「よし、これで大丈夫。パンツ脱げ」

「パンツ脱げって……」

 ワークノート卿の言葉にキスが呆れて呟く。それをもっと強く言えればツッコミを習得できるだろう。

 メイドはあっさりとパンツを脱いだ。

「そっちの毛も白いのか」

 ワークノート卿は言わんでもいいことを言いながら脱ぎたてパンツを手に取った。

「んー? 文書ってのは何処さ? パンツにも何も書かれてないしね」

 そう言って、彼女は何故だかパンツをモンの頭にかぶせた。

「うあー。何をするー!」

 モンは無邪気にきゃぴきゃぴと騒いだ。

「文書はこっちにあるのです」

 そう言って、メイドは指を自分の口の中に入れ、唾液で濡らした。

「何だか、いやーな予感がしますよ?」

 オブコット娘卿の言葉にキスとワークノート卿が無言で頷く。

 そして、メイドはおもむろに指を女の子の大事なとこに入れたのであった。何処かは詳細に描写せずとも分かると思うので割愛する。

 全員がいくらなんでも恥ずかしいので、視線をずらす。

「何でそんなとこに入れてるのさ?」

「ここなら、絶対に身体検査でも見つかりませんから」

「パンツの中でも見つからないと思うけど……」

「念には念を入れてです」

 念を入れ過ぎてそんなとこに入れてしまったと。座布団貰えますか?

「はい、取り出しました」

 その油紙を誰が受け取るかっていう水面下の争いの後、何でかキスが受け取る羽目になり、キスはそのちょっと色んなもので濡れた密書を手に入れたのだった。何だかなー。


とにかく、ごめんなさい。

でも、そこが一番いい隠し場所だと思いませんか?

それでも、ごめんなさい。

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