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一一 黒髪姫騎士団長キス

 その部屋には、ピカピカに輝く鎧や剣を誇らしげに見せ付ける騎士がいると思えば、長らく戦場を這いずり回ってきたと思しき傷だらけの鎧の傭兵や、貧弱な体つきの戦とは無縁に見える少女までいる。その数およそ20名。

 彼らは部屋に入ってきたユーサーとキスに注目する。まあ、普通、部屋で1時間以上も人を待っていれば、突然、ドアが開いてそれらしい人間が入ってくれば注目するのも当たり前というものだ。

 自分に向けられたいくつもの好奇の視線にキスは顔を伏せる。私を見るなと思いっきり叫びたかった。

「諸君、お待たせした。彼女こそが君たちを率いるこの騎士団の団長様であるキスちゃんだ」

 その上、ユーサーがこんなことを言い出すものだから、余計に視線が自分へと向かってきたものだから、キスは危うく自分の身を隠す為の穴をその場に掘るところだった。

「えーとだね。ここにいるのは私が色々と手を尽くして集めた精鋭の士たちだ。まず、帝都に在駐していたカロン人騎士及び従士合わせて11人。あとはラクリア人傭兵が5人とフェリス人傭兵が3人。あとキレーが寄越してきたムールド人傭兵が1人。合わせて20人ちょうど」

 ユーサーは何だかとっても楽しげに騎士団の構成をキスに紹介した。

 カロン人はキスとユーサーの生まれ故郷であるカロン島の民で、彼らの数世代は前は今の帝国に住んでいた為、帝国人と人種的な違いは全く見受けられない。ただ、何となく島に住んでいる人間をカロン人と呼んでいるに過ぎない。

 しかし、この場にいる他の3人種は帝国人やカロン人とは人種的違いが大きい。

 ラクリア人は帝国北西部の辺境山岳地帯に住む少数民族で、彼らは長らく小国家に分かれて内輪で戦乱していた。そこを帝国に丸呑みされてしまったものの、併合されてからもかなりの間、反抗を続けてきた戦闘的な民だ。そんな経緯の為、戦い慣れしており傭兵となる者が多く、今ではラクリア人傭兵といえば精鋭と名高い。

 フェリス人は帝国西部平原地帯フェリス公領の遊牧民で、帝国内の少数民族だが、こっちは帝国の支配と西方教会を許容し大人しく従属している。ただ、極西の異教徒の侵入を受け、戦わざるを得ず、その経緯によって前述のラクリア人同様傭兵になる者が多い。

 ムールド人は大陸極南の砂漠の民で、未だ帝国に従属してはおらず、南の砂漠で帝国南方軍と血みどろの戦いを繰り広げている。当然のことながら帝国内で見受けることは少ない。

 しかし、前述の全ての知識をキスは持っていなかった。持っている知識は教会の基本的な教えと野菜の育て方だけだ。あと余計なのが色々。

 よって、キスはその騎士やら傭兵やらを見て何て思えばいいのか分からないのだ。強いのか弱いのか、危険なのか安全なのか、味方なのか敵なのか分からなかったら思いっきり馬鹿であり彼女はそこまで馬鹿ではない。だって、ユーサーが言っていたじゃないか。

「て、待って下さい。待って下さい」

 キスははっとした顔で2度言った。

「何かね?」

 基本的無表情少し眠たそうないつも通りの顔で首を傾げるユーサー。

「何かねじゃありません。何で私がそんな騎士団長なんて大層なことをしなければいけないんですかっ!?」

 キスにしては珍しく怒ったような困ったような顔で叫んだ。怒鳴ったかもしれない。まあ、自分の意思を無視してこんな事態に至っては怒鳴りたくもなるというものだ。しかも、その内容が自分が幾人かの兵士を率いて戦争に行くなんてことなのだから。

「ほう。君は戦に行きたくないのかね?」

「行きたくないですよ。もしかしたら死んじゃうかもしれないんですよ? しかも、私、戦う義務も意味もないですし」

 そりゃそうだ。キスは帝国軍人ではないし、貴族でもないし、ましてや帝国臣民ですらなのだ。友好国から預けられている姫様に過ぎないのだ。戦う義務も意味もない。騎士局で何か脅されてそのまま流されてきたものの、このままじゃ本気で戦場に立たされかねない。

 キスが言った尤もな台詞に、ユーサーは目を細めて意地悪そうにニヤついた。

「君は何を言っているのかね?」

「は?」

「君はもう帝国騎士だろう?」

 その言葉にキスははっとした。そーいえば、彼女は何だかんだ云々のうちにいつの間にか帝国騎士名簿に登録されていたのだ。

「帝国騎士規約曰く帝国騎士は帝国と皇帝陛下に従属し、それが為に命をかけて仕え、それが為に戦い死すべし」

 キス沈黙。だから、わざわざ騎士登録に長々と時間をかけてまで頑張っていたのか。と、今更ながら納得。

「これに違反したものの罰則は、勿論、死以外にはあるものか」

 キスの逃げ場はなくなっていた。


「え、えーっと、騎士団長のキスレーヌ・レギアンです。宜しくお願いします」

 暗い表情でへこっと頭を下げるキス。やる気の微塵も感じさせない。

 騎士と傭兵たちはおいおい大丈夫かよという表情を浮かべる。

「殿下殿下、これ大丈夫なのですか?」

 その部屋にいる騎士の1名であったクリステン卿がかなり不安そうな顔でユーサーに尋ねる。

 ユーサーはいつも通りの眠そうな顔で答えた。

「たぶん、何とかなる、と、いいなー」

「何ですかそれはーっ!?」

 拳骨を食らったユーサーは声もなく上等な絨毯の上に沈んだ。

 そして、2人の言葉はその場にいた全ての者に聞こえており、彼らの不安を大いに刺激したことは言うまでもない。


戦に近付いてきました。

二〇までには戦に入ると思います。

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