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根源の魔術師  作者: 蓮華
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変わってしまった魔術界

 溢れた光が目を襲う。地に足をつけ立っている感覚はあった。


 そっと薄目を開き光に慣らし完全に開けた。


「記憶にない景色だ……」


 暮らして発見した事だが、現世界と魔術界は流れる時の速さが少し違う。過ぎ去る時の速さがゆっくりなのだ。一年間が365日なのは同じである。


 六歳の頃、この世界から姿を消し現在は十六歳になった。


 十年は経過していた。忘れているのではなく、記憶が呼び覚まされる景色は一つもない。


 飽きる程街並みを眺め、様々な場所を歩き回ったはずなのに。


「ここは、リーレじゃないのか」


 困惑しつつも少年は足を踏み出す。寒さがなくなった為、ダウンジャケットを脱ぎ、袖を腰に巻きつける。


 空は晴れて風は暖かく、気温は程良い。


 余りにも変わりすぎている。


 煉瓦で舗装された道。赤茶色の煉瓦造りの建物。路地裏は整備が行き届いておらず、地面が剥き出しだ。そんな道をちらほら見つけた。


 リーレは皆が住みやすい国だ。整備が行き届いていない状況はおかしいと、一番自分がよく知る。上水道も下水道も完備されているか怪しい。


「リーレじゃなければ、ここはどこだ」


 首を捻り考えを巡らせても、答えまで導けず歩き続けた。


「結構、法魔陣って名前、気に入っていたんだけどな」


 少年は次なる言葉を舌に乗せた。


「ジェーン・ルウファス。またもう一度宜しくな」


 魔術師としての俺の名前――。


 十五分以上、歩みを進め人声が聞こえてきた。大通りは売り買いする人々で賑わう。


 ジェーンの中で安堵に似た気持ちが生まれた。魔術界で初めて人を見たからだ。


 立ち尽くす少年に気づき、驚きと奇異、不審が交ざった視線を露骨に向けてくる。


 最初は玉虫色の瞳、服装の所為かと思ったが、どうやらそれだけではなさそうだ。


 直感的に何かを感じて、一旦建物の裏に身を隠し唱える。


「レワ・ノスタ・ケセガ」


 姿が薄くなり、次第に消えていく。景色ヘ溶け込み完璧に可視できなくなった。


 人はジェーンの姿には気づかないで通り過ぎる。


 姿消しは気を散らす種々の余計な思考を払い、精神を集中させた上で自分にかける。


 台の上に物品が並べられ、果物と野菜を売る。食べ物の焼きあがったいい香りが風に運ばれてきた。


 人々は気楽に雑談をしながら時を過ごしている。ジェーンは聞き耳を立て、二人の男が話す内容に瞬きを止めた。


「世界が一つから三つに分離して、もう十年くらい経つな」


「国をいちからつくり、ここまでブイオを盛んな状態にできたのは、決断力ある有能な我が王と優れた才知を持つセナード様の御陰だな」


 声を出さないでフリーズしそうな頭を働かせる。


 魔術界は1600年以上もリーレと呼ばれ一つだった。


 ジェーンがいた時は分かれていなかった。


 歴史書にはどのような過程を経て、リーレが誕生したのか残され、簡単に思い出すとこうだ。


 魔術界が一つになる以前、三つの国が存在した。


 リミュエール、オスクリダ、ブイオ。


 リミュエールを治める王、ウィザー・シャナ・ムーランが争いなく世界を一つにした。新たにリーレをつくってしまった。


 あれだけ平穏なリーレが三つに分離……。理由は何だ。


 隠された真実がある。今少年が欲しているものは確かな情報。


 クラウが呪文で言ったブイオは、国の名前でここはその国みたいだ。


 国が三つに分かれ、十年も経過しているらしい。

 リーレは無くなったが場所はあるだろう。リミュエールとして。


「分かれてしまったら、戻れないな」


 男の声は明るい希望を諦め、暗い絶望に満ちていた。


「いいんじゃないか。国が三つになっても平和なら」


「そうだな」


 男達は国の情勢に話題を変える。


 元からリーレには三人の王がいた。


 リュミエールを治めた初代王、ウィザー・シャナ・ムーラン。その後裔、ユール・シャナ・ムーラン。


 オスクリダを治めた初代王、ギバ・イート・ライア。その後裔、シュリン・イート・ライア。


 ブイオを治めた初代王、グラニト・クエス・シャロア。その後裔、セオド・クエス・シャロア。

 ユールが《リュヌ》の役割を持ち、シュリンとセオドは《ソーレ》の役割を持つ。

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