炎形操
「無理だ」
「交渉決裂だな」
赤い渦がまた建物を燃やす。
「関係ない人々を巻き込むな!」
「これは全て陣の所為だ。お前が抵抗し続けるから、関係のない人々まで苦しむ事になった」
(ジェーンの所為にするな。お前がやった事だ)
キウラスとジェーンの脳裏にフィネメズの声が響く。
「陣の精霊はとてもお前思いだ」
これ以上、火の手を広げたら更なる困難を招いてしまう。
何とかしなければ……。
「属性は水となれ」
氷から属性を水に変えた。不透明の水晶が青色になる。
「ヨスヒ・イウリュ・ショウ・カヨセ」
精霊剣を掲げ、二体の美しい水龍が生まれ、互いに体をうねらせる。それぞれ空を走った。
燃え立つ炎は水龍によって消化された。白い煙が上がり、辺りの空気はまだ暑く、建物が焦げている。被害を最小限に止めた。
「怖い目で俺を見つめるな。まぁ、それは仕方ないか。お前は怒っているから」
「爽夜の行いでもし人が怪我をしたら、もし死んだら。怪我は治せばいい。なくなった命の責任をとれるか。誰かが死ねば悲しむ人達がいるんだぞ」
「言葉は確かに正論だ。世の中にはそれに当て嵌まらない、人間も存在する」
瞳の奥底に闇がある。きっと過去が関係しており、冷えた表情だった。
「レワ・エニエ・タ・コノコ・チタカセナ」
赤い複雑紋様が地に浮かび上がる。円形内を沿うように呪字が並び、二重三角形の天辺と左右に小さい円で、囲まれた炎の紋様がある。
三つの炎が高さを増し、やがて人形をとった。ゆっくりした歩みで此方に近づく。
「炎形操。炎に形を与えて俺の意思で操れる」
精霊剣を構え、ジェーンは脳裏で水をイメージする。剣が水を纏う。水が渦巻き人形の炎に命中した。
蒸発して水蒸気が出る。火の蛇の時と同じで弱点対策はばっちりだ。
「意地でも消したくなる」
(お前は魔術が関わると意地になる)
少し咎める響き、楽しむ響きが混ざり合う。
「できない事よりできる事を増やしたいからな」
魔術は一つの魔術を極める場合が多い。それはそれでいいと思うが、ジェーンにはつまらない事だ。
限界があってもより多くの魔術を知り、実際に使ってみたい。魔術は人に使われてこそ意味を持ったものとなる。
試しに人形の炎を切ってみた。手応えなく擦り抜ける。次も結果は同様だった。
「炎が形を成しているだけだから無駄だ」
仕掛けてくる気配はなく、キウラスは静観していた。
至近距離で火の玉を放たれ回避は困難だ。
水のバリアーに守られた。
(気を抜くな。必ずフィズが守れるとは限らないぞ)
三体同時に手から火の玉をつくり出す。迷惑な一斉攻撃だ。
後退って避けた。距離を空けても詰められる。
危険な火炎放射が横を通過する。ローブの袖が焼けた。
炎形操について何か忘れている事がある。頭の中は靄がかりもどかしい。
思い出せ、思い出せ。
自分を急き立てる。集中的な攻撃にバランスを崩す。精霊剣を翳し、水壁ができ火炎放射を阻む。
安堵して起き上がる。魔道書で読んだはずだ。絶対記憶にある。
一つの火の玉から分裂して二つに増えた。
大きさが元に戻る。分裂を繰り返し段々数が増え、あっという間に周囲を火の玉に囲まれ、しかもぱっと弾けた。
炎の雨が降り注ぐ。とっさの判断で瞬間移動し逃れた。
当たったら酷い火傷を負ってしまう。彼はあれ程の魔術を扱える。もっと本気を出せば、此方を追いつめられるにも拘わらず、その手段には移さない。
理由はためらい。傷つけるのを恐れつつレベイユの命に従おうとする。役目を果たす為に攻撃を加える。
やっぱりお前は俺が知る琴爽夜だ。
あともう少しで霞みが晴れそうだ。荒れ狂う水を的確に操り、火の玉を消し去る。
深呼吸して落ち着き、漸く思い出せた。
「炎が形を保っていられる訳はコアのお陰だ。コアを壊せば形が保てず、自然に消滅する」




