仕組まれた必然
「分かっている。今日、出会ったばかりの奴を信用するのは難しい。それは百も承知だ。でも、ここは信用して任せて欲しい」
思いを伝えた。自分なりの下手くそな言葉で――。もっと上手に言えたらよかった。
『フィズからもお前達にお願いする。ジェーンを信じてやれ』
相棒がいつになく真剣な態度である。
暫し沈黙が流れた。
「少しは信用してやる」
「もし捕まったら、一発殴るから」
レンテとリノが駆け出す。あっという間に姿を消した。二人は信じると決めたのだ。
「邪魔者を減らしてくれて有り難う。まだ邪魔者がいる」
『フィズを邪魔者扱いするな』
「爽夜には聞きたい事がある」
「いいよ。何でも聞いて」
微笑む。ただ微笑む。
「時空の扉は完璧に封印されていた。どうして現世界にお前が来れた」
「時空の扉はもう一つあるんだ。レベイユ様が秘密裏に開けて、俺を現世界に送り込んだ。陣の監視目的でね」
時空の扉が二つ存在するという事実をレベイユは知っていた。誰も知る由もない事を。
「何ですぐ俺を連れ去らず、十年間も放っておいた」
「お前が魔術界にいたら、どんな方法で隠しても、エイラが気づくだろうとレベイユ様は仰られた。それに受け継ぎの儀が失敗して我を見失った、ユール・シャナ・ムーランが、陣を殺害する恐れがあった。神力が王族に受け継がれなかったなんて、前代未聞だから。お前を亡き者にし、真相を闇に隠す事を平然と行ったはずだ。魔術界より現世界の方が安全だった。手出しできない振りして、歳月の経過を待った」
ジェーンは話を理解し、整理しながら聞く。
「全ての神力が遺憾なく発揮できるのは、十六歳からなんだ。陣の成長を待つ必要もあった」
「どうしてレベイユは、そんな事まで知っている」
「本人に聞けば分かる」
距離を詰められ後退る。
「俺の運命は神の悪意じゃなくて、最初から仕組まれていたんだな」
現世界に琴爽夜は生まれていなかった。彼は魔術界で生まれた。
「陣と俺の出会いは仕組まれた必然。仲良くなるのも仕組まれた必然。共にいたのも仕組まれた必然。陣と爽夜は仕組まれた必然で繋がる存在だ」
急に目前からいなくなった。
「完全に魔力を断ち切れるんだ。だから、君は気づけなかった。凄いだろ。十年間もだまし続けるなんて」
ジェーンの背中に少年の手が触れた。
「ねえ、俺の事をまだ友達だと思う?」
『ジェーンに触れるな!』
髪と服が揺れた。精霊は呪文を用いず、現象を引き起こせる。
「やめろ」
強い口調で言い放ち、銀色の双眸を見つめて行動を抑制した。
「俺は友達だと思っている」
「琴爽夜を演じていただけだとしても」
「ああ」
「偽りの友情だとしても」
「ああ」
キウラスが乾いた笑声を漏らす。
「嘘、嘘、嘘、嘘……」
虚ろな目で視線を注ぐ。
「友達なら証明しろよ。大人しく従えるよな。俺の手を取ってレベイユ様の元へ行こう」
「それはできない」
期待を打ち砕かれ、どこか残念そうで納得している。
先程と同じ呪文を唱えた。
火の玉が出現する。此方に飛んできた。躱して次も躱す。
「そこの精霊、君の相棒だろ。精霊剣を使って戦えばいい」
今度の火の玉はジェーンの動きに合わせて動く。執拗に対象を狙う。
フィネメズが強い風を起こし、見事火を消し去った。
『躱しているだけじゃダメだぞ。彼奴と戦うんだ』
「俺に爽夜を傷つけろって言うのか。そんな事できない」
生涯剣と共にあれ。王族に徒なす者から守れ。
ジェーンは剣の魔術師として生まれたくなかった。




