テスペオに属する者
少年はすらりとした長躯。鮮紅色のローブを身に纏い、火色の毛は所々はねる。
優しげな目元、すっとした鼻梁。髪と瞳の瞳の色は違うが、琴爽夜にそっくりだ。背丈も顔立ちも全く同じ。
「やあ、陣。こんな場所で会うとは奇遇だね。この世界ではジェーンと呼んだ方がいいか」
「……」
「びっくりして言葉も出ない?」
鼓動が速い。頭は混乱せず、着実に悟り始めている。
「あんた、誰なの」
不審を露わに少女が言い放つ。
「キウラス・リンク。テスペオに属する者」
レンテとリノの間で緊張が走る。
「テスペオって何だ」
「レベイユ・セナードが統率する魔術師の組織だ」
鈍器で殴られたような重い衝撃を受け、どうしていいか分からなくなる。
フィネメズが『ジェーン』と呼ぶ。
彼との関係を知りたいのだ。でも、今は満足な説明をしてあげる暇もない。
「奇遇を装って俺の所に来るとはいい度胸だな。俺は爽夜の事をキウラスなんて呼ばない」
「俺も陣って呼ばせて貰うよ」
「ルウファス、彼奴は私達の敵。何をのんきに話してるのよ」
「敵と知り合いなのか」
「ああ、よく知りすぎている」
一歩一歩キウラスが近づく。
「今なら誰も傷つかない。約束する。お前の決断次第で誰かが、傷つく事になる可能性はあるけど」
嫌な間を持たせて口を開ける。
「俺と一緒にレベイユ様の元へ行こう」
無邪気な笑顔で手を差し出す。
ジェーンは静かに首を振った。
「それが陣の意思なんだ。もう一度聞いたら変わったりする?」
「何度聞いても結果は同じだ」
「そう、残念だな。とても残念だよ」
悲しげな表情になりやがて無となった。
「シャノオ・ネヨ・ホクツノ」
幾つも火の玉が燃えて宙に浮かぶ。
一つの炎がすっと動きリノを狙う。三つに分かれる。
すぐさま固まった彼女を庇い地に倒れた。炎は路面に焦げた跡を残す。
「痛いでしょ。助けるならもっと人を気遣いなさいよ」
「文句を言うな!」
こんな時でも文句を言うのはいかにも少女らしい。
光のバリアーを張ってレンテは攻撃を防ぎ、自分の身を守る。
フィネメズは身軽に避けていた。
「俺だけを狙えばいい」
「ひょっとしてもう忘れた。忠告したよな。お前の決断次第で誰かが、傷つく可能性があるって」
ぐっと拳を握る。俺の決断次第で誰かが傷つく?ふざけるな。
怒りが激しく暴れる。
「陣の意思は伝えたから、そろそろ爆発する頃だ」
刹那、爆音が轟く。城の方角からだ。もくもく煙が上がる。
煮え滾る感情に息が詰まった。
「リミュエールにやって来た魔術師は、俺以外にも存在する」
爆音を耳にした人々の恐怖と不安、慌てふためく声が届いた。
「城を爆発した人間を教えてあげようか。エイラ・シュラニフ。陣の父親だ」
『嘘をつくな。エイラはそんな事しない』
フィネメズがキウラスに疑心を向け睨む。
動揺を誘っているだけだ。エイラが壊すなんて有り得るのか……。
「ハレン、マカレル。城に戻れ」
「年下のくせに命令しないで。私とレンテはルウファスを守る為について来たの」
「オレゴンは不測の事態を予測して、僕達にお前の護衛を頼んだ。この意味が分かるか」
神力をレベイユの手に入れさせる事は、どのような手段を尽くしても避けたい。




