闇の語り部
蔵書室の前でしゃがみ込む。走ったみたいに荒い呼吸を吐き出す。
『体力が落ちたな』
「誰の所為で疲れたかを考えろ」
「ふがいないジェーンの所為だ」
「お前の所為だ!」
呼吸を整え、立ち上がる。扉を押すと開いた。
人の気配が感知できた。蔵書室に来た訳は魔道書を読む暇潰しの為だ。
静けさは一層足音を響かせ、書見台で本を読む男がいる。
「お早う。シュノール」
「お早う御座います。ルウファスくんと……」
「フィネメズの人形だ」
「普通の人間と見分けがつきませんね」
興味深そうにブルームは顔を眺めた。
『フィズの姿を見て何を思う?』
「美しい、でしょうか」
『もう一回』
「美しい」
『ふふ。そんなに美しいか』
満足感に浸り自惚れる。
「お前が言わせたんだろ」
呆れつつ横目で見遣り椅子に座る。
「ルウファスくんは、早いお目覚めですね」
「偶然早く目が覚めたんだ。普段の俺ならまずこんな時間帯は寝ている。シュノールの方が早いだろ」
「私はいつも四時ぐらいに朝読書を行う事が日課なのです。ここはとても落ち着きます」
「俺もここにいると落ち着く。その本は何だ?」
結構厚い。紐の栞がページ半分の位置にある。
「人とドラゴンが共存する話です。少年と友情が芽生え、心を通わし互いに成長していく」
ドラゴンは数千年前に絶滅したとされ、伝説では悪の象徴、泉や宝物を守護する。
『作り話なんか呼んで面白いのか』
フィネメズの純粋な疑問である。
「はい、面白いです。昔から私は本の虫でした」
『お前、昔は人じゃなかったのか!?』
「虫はある事に熱中する人って意味だ」
とぼけた返答をした精霊に少年が教えてあげた。
「神力について記された書物はあるのか」
「ウィザー・シャナ・ムーランは、神力に関する事を一族と闇の語り部との秘密にしました。代々闇の語り部である者達へ、記憶だけに記録されていきます。ウィザー王は書物に残す行為を禁じ、未知の力とする為、公で神力を使い、畏敬の念を植えつけ神化を計った」
「全然書物に残されていないのか」
「異説によれば闇の語り部が保管しているらしいです」
闇に包まれた謎多き氏族。神話や伝説を語り伝える事を職とした。ウィザーの近くに仕えていたとされる。彼の死後、姿を眩ましてしまった。
「闇の語り部は生きているのか」
ブルームは「分かりません」と首を振った。
一番ユールが神力を知っている。聞いて口を割るかどうか確証はない。
「知りたいと望めば、自ずと真実は貴方の元にやってきますよ」
「そうだといいな」
男に心中を読まれた気がして眉根を狭める。
書物がなければ神力について詳しく知れない。
「今から魔道書を読む」
『ダメだ。フィズと遊ぼう』
懇願する眼差しを取り合わず、魔道書の所へ行った。
記憶が確かならジェーンは5679巻まで目を通した。5680巻から読もう。
書見台に戻って来た少年の髪を膨れっ面が引っ張る。地味に痛い。
「引っ張るな」
『やめて欲しければ遊べ』
「俺は魔道書を読む。いつか遊んでやる」
『今がいい。ジェーンの阿呆、馬鹿』
瞳を潤ませる。ふてくされて外方を向く。
「ちょっとだけだぞ」




