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根源の魔術師  作者: 蓮華
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時空の扉

「今日はたっぷり陣を襲っちゃうぞ」


 わざわざ恥ずかしげに頬を赤らめる、演技をして駆け出した。


 とっさに左側へ走り、後ろを確かめなくても、音で追われているのが分かった。


 無秩序に動き回って逃げた。


 公園が少年達の足跡に埋め尽くされるのは時間の問題だ。


 引き離してもしつこく追って来る。ベンチを間に挟み、互いに呼吸を整えていた。


「そろそろ諦めろよ」


 五分くらい動かせば大分温かくなった。様子を窺う。


 行き成り爽夜がベンチに跳び乗り、肩に触れようとした。


 危な!


 身を反らして陣は避け、素早く鉄棒の方へ向かい潜り抜けた。


 数秒差で奴も潜り抜ける。絶妙な距離を保ち、彼を翻弄して走った。


 冷たい雪が靴の中に入って湿った感じがある。


「もう…無理。ギブアップ」


 肩を上下させ、荒い息を吐く爽夜がその場にしゃがみ込む。


 絶対服従という危機が去り、陣は安堵して雪が積もる地へ寝転んだ。


 この年になって真剣に鬼ごっこをやるとは思わなかった。


 無数の白いものが下へ下へ落ちてくる。


 雲中の水蒸気が冷え、凝結し細かな結晶となり地上へ降っているのだ。


 古来から月と花と共に代表的な景物とされる。


 世界は違っても綺麗なもの、美しいものは同じだな……。


 暫く経ち隣に少年が来て横になる。


「いつまで絶対服従して欲しい?何なら、ずっとでも」


「気色悪い事を言うのが得意だよな。絶対服従の代わりに今後一切、俺を遊びに誘わない。これでどうだ」


「そんなの死ねって、言ってるようものだ。お前と遊べない人生なんかつまらない」


「爽夜と遊ばなくて、いい人生は最高だな」


「絶対嫌だ。嫌だ。嫌だ。絶対」


 駄々っ子みたいに顔を歪め、纏わりつかれる前に上体を起こし離れた。


 雪を払い、体はもう冷えてしまった。


「冗談を真に受けるなよ。本気に決まってるだろ」


「そこは本気じゃなくて嘘だよね」


 寝転んだままで、真相を突き止めるべく視線を突き刺す。嘘だと言って欲しいのだ。


 俄に異常なまでに荒れ狂った、奇妙な風が吹く。


 陣はふっと苦笑して背を向けた。


「悪い。俺、急用を思い出したから帰る」


「えっ?帰るなら、一緒に……」


「じゃあ、また明日」


「待てよ!」


 困惑する爽夜の制止を振り切った。振り返らず駆ける。


 なるべく凍っていない道路の端を選び、追って来る気配はなかった。彼を巻き込む訳にはいかない。


 速度を緩め早足で進む。


 自分の間違いでなければ、先刻魔力を感知した。


 数は恐らく三人――。故意あって流された。


 陣を誘っているようで自ら捜すより賢いやり方だ。


 世界は四つ存在する。天界、現世界、魔術界、地界。


 天界には気高く偉大な血を持つものが住まい、現世界には非力な者が住まう。魔術界には魔術師と呼ばれる者が住まい、地界には奇妙な異形のものが住まう。


 それらは次元の異なる空間にある為、時空を越える術か、何かしらの力がなくては干渉不能だ。


 ここは現世界で魔力の片鱗さえ持たない人類が繁栄した。魔術が存在しない代わりに科学技術が進歩し、日々発達している。


 法魔陣という人間は現世界に本当は存在しない。十年前まで自分は魔術界にいた。


「時空の扉が遂に開けられたか。何者かによって……」


 異常なまでに荒れ狂った奇妙な風は、封印が破れた影響で生じた。これだけは確かだ。


 訳あって現世界に逃れその時、ある魔術師により時空の扉は数十年間、開く事を阻む封印魔術が施された。


 魔術界の人間は、ジェーン・ルウファスを放っておいてはくれないだろう。


「せめても…この地に足がある時は法魔陣でいたい」

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