純血か混血か
「そういう事にしといてやるか」
勝手に三番を唄い出したので聞き流す。静かにして欲しい。
『疲れたから足場を作れ』
「頼む時は作って下さい」
手の平を水面に広げて足場を作った。精霊がちょこんとのる。
毛は水を含み、体にひっつき、濡れた所為で通常より小さく見えた。
まじまじと顔をフィネメズが観察する。
『水も滴るいい女顔だな』
ぼとんと音を立てて水中に沈む。訳は足場を崩したからだ。
勢いよく水中から飛び出し宙に漂う。ぽとぽと滴が落ちた。
『殺す気か!水を飲んだぞ』
「お前がふざけた事を言うから悪い」
『事実は受け入れるべし』
「受け入れたくない」
水面に映る自分の顔を睨む。浴槽に凭れ掛かり、よく温まってから風呂を出た。
バスタオルでフィネメズを拭いた後に、身体を拭き同じ服を着た。着替えがないから仕方なくだ。
乾燥魔術で髪を乾かし、同時に精霊の毛も乾燥した。
ソファーに座る。体に温かみが残ってぽかぽかである。
当然のように膝へ上がってきた。
「隣が空いているだろ」
『ここがいい』
仰向けになって転がり始めた。
『ころころ、ころころ』
「落ちても知らないぞ」
言ったすぐに落下する。うぎゃと呻き声が聞こえた。
「調子に乗って遊ぶからだ。大丈夫か」
半眼して尋ねる。
『痛い。絶対骨が折れた』
「そんな衝撃で折れるか」
精霊を持って膝に戻す。背中を摩った。
「俺の話を聞いてくれるか」
『急にどうしたんだ』
それには答えず口を開く。
「俺は未だに自分の存在が、望まれない存在だと思ってる。あの人は最後の最後まで俺を呪った」
ディア・キノン。ジェーンが〝あの人〟と呼ぶ。母親に当たる人物。
記憶に残る姿は黒髪で玉虫色の瞳。美しい容貌。全く楽しそうに笑わなかった。
エイラとの共通点は純血だ。その血であるが故、二人の運命は狂った。
現在では圧倒的に混血が大半を占め、純血は少数だ。
異種の血が混じらぬ純粋な血統を絶やしてはならない。それが昔から決められた剣の魔術師の掟だった。
エイラには好きな女性がいた。同じくディアにも好きな男性がいた。
幸せに結ばれていたならば、ジェーン・ルウファスは生まれてこなかった。
どちらも愛した相手は混血だった。
ヤーハオは純血の中でも飛び抜けて強かった。劣る者達を嫌った。
異種が混ざる血が一族にいる事さえ認めていない程だ。
そんな祖父がエイラの結婚を許すはずがなく、残酷にも仲は引き裂かれた。
ディアも好きな相手と夫婦になる事が叶わなかった。身内に無理やり離されてしまった。
純血を理由に二人の意思を度外視して、周りが強引に婚姻させた。
エイラとディアは顔を知る仲だったが所詮その程度だ。互いに好きになれず、愛し合えず、純血の子を求められ、生まれてきた。それが、ジェーン。
我が子に向ける彼女の視線は他人を見るようだった。
周囲が言い続けた『純血を絶やすな』という言葉に縛られた。その言葉がなかったら、育児を放棄していただろう。
少なくともエイラは愛する努力をした。が、ディアは拒み好きな男だけを思った。
何度もあの人が首を絞めた。
『お前が悪いのよ。お前が悪いのよ』
結局殺せず、涙を流して泣く。




