存在価値
「勝敗は戦術と技術でも決まる。無論、勢いも攻めも大切だ」
刃に重い衝撃が伝わる。気を抜いていたなら、今の一撃で剣が飛んだ。
黒い剣を持っている。オレゴンが闇でつくり出した。
攻撃を受け止めて凌ぐ。間合いを空けようとしてもすぐ詰められる。速い。
(ジェーン、攻めろ)
(言われなくても分かってる)
心中で伝え返して、斬り込んできた剣を軽く受け、他へ逸らす。
手の甲を柄で打とうとしたが、失敗に終わる。
守りから攻めに転ずる。素早く踏み込み、相手に休む暇を与えない。
打ち合いで鳴り響く金属音。ジェーンが力一杯やってもオレゴンの表情は平常である。
急所を狙うが近づく前に幾度も防がれた。
「一人で剣を振るっていた方が迷いはなかった。今の貴殿の剣筋は迷いに満ちている」
「……」
人を傷つけたくない一心で制限をかけてしまう。昔から自分はそうだ。
迷いは剣と本気で向き合えていないから。剣の魔術師である自分の存在意義に、ずっと疑問を持っていた。
ヤーハオは強くなる為だけに剣を振るえと言った。要は己の為だ。
エイラは誰かを守る為に剣を振るえと言った。それが真の強さに繋がると。
『いつかお前にも分かる時が来る』
耳の奥で聞こえた。
拒絶した剣を握ってもいいと、思えたきっかけをエイラが作った。
隙がなく先を読まれている。全て受け止めた。意図も容易く。
力で下に押さえつけられ、握る手と腕までも震えた。
負ける。終わりを明確に悟って、素早い突きが、喉元を貫く寸前に止まった。
「ルウファスの迷いは一体なんだ?」
「俺の迷いは…俺自身の存在だ……」
黒い刃を下げた。オレゴンには意味不明な言葉に聞こえたはずだろう。
「迷いを捨て去り、更に剣術を磨けばもっと強くなる。いつか本気のジェーン・ルウファスと戦いたい」
勝負をしてくれた謝意を表し男が一礼する。去ってしまった。
剣の形が揺らぎ、宙に浮かぶフィネメズは不服だ。
『真剣にやったオレゴンに失礼だぞ』
「そうだな」
彼は真剣だった。それに引き替え俺は――。
迷いを理由にして枷をつけ、力は抑制されている。
剣を振るう己の迷いより、根本的な原因は祝福されなかった己の存在にある。
存在価値に疑問を抱き、悩み続ける。
あの人は完全にジェーンを拒絶した。エイラも拒絶したかったはずだ。
ああ、何を考えてるんだ。俺は……。
フィネメズの心配そうな眼差し。苦く笑う少年の顔は、泣いているように見えた。
部屋に戻ってジェーンは浴槽にお湯を溜めた。
シャワーを浴び、髪と体も洗う。フィネメズの毛を泡立てた石鹸で洗ってあげた。
精霊でも綺麗好きである。湯に浸かり段々と熱さに慣れ気持ちいい。
白い湯気が上がっていた。広い浴槽を犬みたいに飽きず泳ぐ。
『進め、進め、進め~!フィズは強いぞ。世界一。ラララ~』
変な歌を陽気に歌い出した。
「お前は本当に元気だな」
『元気が一番だろ』
ジェーンは相棒の元気に幾度となく助けられた。大概やけに元気な声は此方を気遣っている。
「フィネメズのお陰で元気が出た」
『本当か!?次は二番を唄うぞ』
「唄うな」
変な脱力感を与える歌はもう聞きたくない。
『むぅー』
唄わせろ、唄わせろと近づき目が拗ねる。
「じゃあ、唄えよ」
『進め、進め、進め。フィズは可愛い世界一。ルルル~』
「……」
『さては、フィズの美声に聞き惚れた余り、感動してるんだな』




