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根源の魔術師  作者: 蓮華
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終わらせるべき世界

「ずっと話せるタイミングを見計らっていた。オレゴンとナシャアに邪魔される事だけは避けたい。お前との貴重な時間だ」


 レベイユが近づく。危機を感じないから動かなかった。


「本当は私自らが来たかった。しかし、気づかれるリスクを伴う。故に残念ながら、今の私は幻魔術でつくられた偽者だ。お前をここまで瞬間移動させたが、ブイオまで攫う力はない。安心しろ」


 少年の髪を撫で精霊の耳にも触れた。


 目に映る景色と音は幻魔術でつくった偽者と共有可能だが、その他は感じられない。感触や冷たさ、温かさ、匂い、味、苦痛。


 その理由は簡単だ。本人ではなく偽りだから。


 本人が見ている為、感情は生じる。表情を作る事はできた。偽者と本体はリンクしており、本体が言葉を発すれば偽者も発する。


「何であんたは俺と話したかったんだ」


「話したいだけではダメか」


 本心を言っている。嘘なら自分の心はざわめかない。


「どうしてリーレを終わらせた」


「終わらせるべき世界だったんだ」


「レベイユはリーレにいて、幸せじゃなかったのか」


「幸せだった」


 何故?胸の内を占めるのは原因、理由について疑いを表す語。


 幸せを自ら壊す必要があったのか。


『以前からフィズはお前の憎しみに気づいていた。でも、ジェーンといる時だけは消えた。だから大丈夫だと思った。フィズの勘違いだった。お前は壊しても尚、世界を王を己も憎んでいる』


 フィネズが男の憎しみを感じていた事実を今知った。


 彼は答えを秘して口にせず沈黙を守る。


「未だに信じられない。いや、信じたくない。あんたがリーレを壊した事。悪い夢であって欲しい」


 甘い考えを抱く自分をジェーンは嘲笑う。否定を望んでいるのか。現実が立ちはだかるのに。


「私が望んだ事だ」


 絶望感に込み上げてくる。淡い期待をしても無意味である。


「お前に謝らなければならない。ずっと謝りたかった。私は傷つけた。苦しみを与えてしまった」


 何に対して謝っているのか瞬時に察した。


「俺が守らなかったらアクミスは死んでいた。レベイユが殺していただろう」


 フィネメズは驚かなかった。あの時、気配か魔力で正体を悟っていたのだろう。


「エイラを解放しろ。あんたには黒呪を発動させて、俺を殺せない理由がある。神力が欲しいんだろ」


 神力の器になった実感はなく、神力がどれ程の力を持つかは未知数である。使い方も不明だ。


「死なない程度なら発動できる。エイラはそれを王の死より、大切な我が子の苦しみを恐れる。来るべき時が来たら彼は返そう」


 澄み切った顔で微笑む。彼の考えが全く見えなかった。だから怖い。


「オレゴンが怪しみ始めている。残念だ。ジェーン。また会おう」


 額をぽんと押された。次の瞬間、光に目を細め、元いた通路に立っている。


 俺はレベイユにたくさん聞きたい事があったんだ。ぎゅっとフィネメズを抱き締めた。


『ジェーン?』


 心配そうに名前を呼ぶ。


「大丈夫だ」


 思考を停止させ、二階まで上った。


 ドアの銀プレートにはもう名前が刻まれ、開け閉めの役割となる紋様に手を置いた。


 がちゃっと音が鳴りドアを開ける。自動的に電気が点く。


 生活に必要な家具が揃い、十分すぎる程広く、この空間に落ち着くまで時間がかかりそうだ。綺麗なバスルーム、室外に張り出たバルコニーまである。


『ふかふかベッド!』


 少年の腕から抜けてベッドに着地し、飛び跳ねて遊ぶ。フィネメズは飽きるまでやり続ける主義だ。


 アーチ状の巨大な窓を開け、バルコニーに出た。裏庭は見下ろせ、気持ちいい風が吹く。


「服を返せ。女顔」


 右の方から声が聞こえてくる。同じバルコニーがあり、夜景を見ていた。


 レンテ・マカレルだ。


「先に俺の服と靴を返せよ」


 面倒くさげに睨み、呪文を唱えた。


 下に現世界の服と靴が現れる。


「魔術師なら瞬間移動を使って、元の場所にしっかり戻しておけ」


 上から物を言われると苛立つ。感情を抑えて部屋に入った。


 着替えて寒くない為、上着はソファーにかけた。お望み通り彼の部屋に元々あった所へ戻した。


 まだ精霊はスプリングの利いた、ベッドで夢中に遊んでいる。オレゴンが指定した時間まで余裕があった。

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