肩を叩く者
「お前、真似すんな」
「お前が真似するな」
睨み合いが馬鹿馬鹿しくなって、自分から視線を逸らす。
「オレゴン、ナシャア。聞いてくれ」
真顔でしっかり二人の目を確認する。
「迷惑はかけない。これだけ言えば察しただろ」
意味を悟った彼等は視線を交わした。
エイラを助けに行って捕まれば余分な心配をかけ、ブイオまでサロフとリノが助けに来た行為が無駄となる。
助けに行きたい気持ちを抑えた。言葉約束を信じるかは彼等次第だ。
「フィネメズ」
『メロ、ンの…食べ途中に何だ』
むしゃむしゃ音を立てながら噛む。
一呼吸おいて囁き声で告げる。
「レベイユはリーレを終わらせた。恐らく望んで。疾うにいない事実には気づいていたはずだ」
『ジェーンが現世界に行ってしまった後、実はエイラからレベイユの事を聞いて眠りについた』
男はフィネメズを可愛がった。今でもあの優しい彼が、世界を壊しただなんて信じたくない。
何か理由があったのだと思おうとした。
物思いに耽けて料理もろくに味わえず、気づけばおなかが一杯だった。
手を合わせて礼をする。これは料理を作ってくれた人に感謝を表す動作だ。現世界で言う「ごちそうさま」と同じ意味である。
「もっと食べないのか」
「十分食べた」
「本当に男か疑いたくなる食の細さだな」
「俺は心が狭いから、冗談を笑って聞き流せない」
ジェーンは怖い目つきでアクミスを見遣り、やがて同時に吹き出す。
まだ皆はゆっくりと食事を続けている。
『フィズは満足した。抱いてくれ』
満腹になって飛ぶのが面倒な時に頼む。
「重い……」
『失礼だぞ』
怒って尻尾をぶんぶん振り回し、地味に当ててくるから痛い。
「ユールのお陰で楽しい晩餐会だった」
「皮肉に聞こえるのは気の所為か」
渋い顔のユールに笑って、アクミスに手を振る。
「またな」
「ああ、またな」
微笑んでくれた。
「ナイシエ、伝えておく。お前の役目は終わった」
「ええー。ちょっと残念だな」
身勝手な行動はしない約束をした。監視役だったサロフの仕事は自動的に消えた。
「ルウファス」
少年を呼び止めた者は意外な人物だった。
「勝手ながら貴殿と剣を交えた勝負がしたい。八時頃に裏庭で待っている」
水を打ったように静まり返り、オレゴンが真剣な眼差しで貫く。
「俺の鈍った腕に期待するなよ」
そそくさと集いの間を出て息を吐き、妙な緊張から解放される。
勝負を提案してきた、男の真意は考えても不明瞭だ。
『よかったのか。承諾して』
相棒は剣を嫌がる、ジェーンの気持ちを汲み取って尋ねた。
「俺に拒否権はなかった」
彼の目は勝負を望む本気の目だった。
剣の戦いは気が進まず、憂鬱だが受けたからにはやる。
掃除が行き届いたぴかぴかの通路を歩む。足音も気配もしなかったのに肩を二回叩かれた。
誰だと思う前に瞬きの間に景色が変わる。西の空から紅は去り周囲が暗い。
離れた所にブローズ城はそびえ立つ。門灯が光を発していた。城門は閉ざされている。
『気をつけろ。ジェーン』
フィネメズが身を強張らす。
闇に何が潜むかを確かめようとした。が、ダメだった。どこにいるかまるで掴めない。
再び肩をとんとん叩く者がいた。深く考えず振り返って、声が出てこなかった。
銀色の髪。知的で神秘的な水色の瞳。整った顔立ちは優美だ。
白いローブはこの男にこそふさわしい。闇に染まっても輝いて見えた。警戒して後退ると、傷ついた悲しげな表情になる。
「久々だな。ジェーン。あれから大きくなった。フィネメズ、元気だったか」
姿も微笑みも記憶にあるものと同じだ。




