主役
「デザートにジェーンの血を頂こうか」
拒絶の意味を一杯込め、睨みつけて席に戻った。
ラズカは睨みなんて何のその甘く笑んでいた。男には微笑まないんじゃなかったのか……。
髪を掻き上げ、少女達の肩に触れた。艶っぽい声音を作る。
「我を呼びに来てくれたのに、ろくな反応ができなかった。不愉快な思いをさせてしまった」
「うるさい」
「いえ、全然平気です」
「相変わらずリノは冷たい。それに引き替え、フィモは優しい」
「早く席に座って」
口調はきつい。手で猫を追い払うような仕草をする。
「分かった」
二人の髪を撫でてから少年が椅子に腰掛けた。
ちゃっかりした行動にげんなりして、ジェーンは深く凭れる。
『疲れたのか』
「色々とな」
フィネメズが心配そうに前足を手の甲へ置いた。感触は柔らかくほんのり温かい。
小息を漏らす。
「ラズカが甚く男を気に入るなんて、初めて見た。お前は人から好かれるな」
「俺は好かれていない」
暗い顔つきで答えてしまった。生まれた瞬間から忌み嫌われる存在だった。
感情の微かなうねりを相棒が感知して、瞳に視線を注ぐ。
ナシャアの声がユールにより遮られ安堵する。それ以上の追及を回避できた。
過去が絡むと平常心でいる自信を失う。後ろを振り向き続ける自分には、ほとほと嫌気が差した。
「漸く皆が揃ったな。これから晩餐会を始める」
皆の視線が王に集まった。
「主役はジェーン・ルウファスだ。シヴェルティアの魔術師として、改めてこの場で歓迎しよう」
手を叩いた。彼はまっすぐ此方に穏やかな眼差しを送り伝えてくる。ジェーンが必要だと――。
拍手は徐々に大きくなりやる人数が増えた。
無表情で固まるオルターだけが拍手をしなかった。好意的とは程遠い悪意を抱く存在。
歓迎は素直に嬉しい。有り難う。感謝の気持ちを心中で告げる。
「嬉しいのは分かるが泣くな。ジェーン」
「あんたの目は曇っているだろ」
「からかいも限度を越えると嫌われる因だ」
ナシャアのからかいに痛烈な指摘をした。オレゴンは真顔だった。
「今日は盛り上がりよき、晩餐会にしよう。天と地の恵みの神に祝福を」
「天と地の恵みの神に祝福を」
全員繰り返す。食事を食べ始める前に言う挨拶だ。現世界の「頂きます」とは全然違う。
魚と肉の料理、スープは共通して皆あり、あとの料理は大皿に取り分けて食べる形式だ。
料理は冷めにくくする為、熱魔術に部類される保温がかけてあった。
「フィズも食べていいか」
「何が食べたいんだ」
精霊は己の魔力を持ち、人と同様に使えば消耗し休めば回復する。
食物を必要としない。摂取して魔力に変えるもの、大半が嗜好目的で得る。
浮き上がって肩に乗った。左右を見回す。
「果物とケーキが食べたい」
「はいはい」
大皿を持って立ち上がった。既にソリクがケーキを食べている。デザートは食後という概念を覆した行為だ。
「仲間がいたな」
言葉が少なくてもフィネメズは理解した。離れ離れだったが心は通じ合う。
『あんな奴と同類にするな。何で彼奴は仮面をちょっと外しながら食べる?全部外せば済むだろ。そもそも何で仮面をつけているんだ?』
「うるさいぞ。耳長」
『フィズの事を耳長って言った。自慢の耳なのに』
不機嫌な空気を放つ。
「ジェーンくん。その生き物は悪魔さんですかぁ。可愛いですぅ」




