歓迎と悪意
食事場所は集いの間と呼ばれ、広さは楽々と百人以上入る。
エイラがシヴェルティアの面々と朝、昼、晩、食事を共にしていたのは知っていた。
ジェーンは人の集まる所が嫌で落ち着けず、大抵の日、わがままでも給仕係にお願いし、時には自ら運び、食事を自室で食べていた。
その所為でいつしかアクミスもつき合うようになり、たわいない会話を交わした。
楽しかった思い出だ。セシェムもよく食事を共にしてくれた。
集いの間で食べた事は五回もあるか、ないかくらいだった。ユールとエイラ、ナシャアも一緒に食べたがっていた。
リノは赤茶色の扉を開け、続いてフィモが中へ入る。
足を止めたジェーンにサロフは「どうかした?」と問う。
「俺、誰かと一緒に食べる温かみを分かっているつもりだけど、こういう集まりの場が苦手で嫌いだ」
自分はどちらかと言えば、多数より少数と関わってきた。心の底で静寂と孤独を好む傾向にある。
幸せを感じていても本当に喜べない。理由は生を受けてから既に決まった境遇だろう。
幸せになれない。なってはいけないと思って阿呆らしくも虚しくなる。
「大丈夫。僕がついているよ。安心して」
「それ初対面の奴に言う言葉か?」
「君はやたら初対面にこだわるんだね。早く僕を名前で呼んで、親友から大親友に繰り上げて欲しいな」
「いつお前が俺の親友になったんだ」
「目と目が合った瞬間だよ」
さも当たり前のように話した。呆れて物が言えず、口を閉じたままでいた。
「何、二人して扉の前で突っ立っているの。早く入りなさい」
腕を組んだ仁王立ちのリノが促す。これ以上待たせると、彼女の怒りに触れてしまう。
ジェーンは詰まる息を吐き出し、サロフと入室した。
カットグラスに多くの電球を組み合わせ光る。金や銀の装飾がきらびやかなシャンデリア。椅子に刻まれた背中部分の紋様は、一つとして同じものはなく異なる。
長い食卓には純白のテーブルクロスがかかり、色鮮やかな花で所々飾られていた。
銀食器には肉、魚、野菜を主とした料理で盛られ、焼きたてのパンや飲むと温かいスープ。デザートに新鮮な果物、見た目が凝ったケーキもある。
ユールは皆が見える左側の縦位置でしかも一番端だ。近くにフィネメズを胸に抱いたアクミスがいる。
そして枯れ草色の髪をした、オルター・ガストも……。冷えきった目が「お前は場違いだ」と言わんばかりで、軽蔑と嫌悪が伝わってくる。
反抗的に睨む事もできたが、敢えて無関心を装う。
先程からユールは和やかに微笑み、ジェーンの言葉を待ち望んでいた。
「俺の為に盛大な晩餐会を開いてくれて、心底では感謝している……なんて、言うと思ったら大間違いだぞ」
「そのような言葉を端から期待していない。実は些か期待しておった。そなたが嫌がるのは百も承知だ」
魔術界に戻って来た少年は必要とされ、シヴェルティアの魔術師となり迎えられた。
王は晩餐会という形で歓迎の気持ちを表現する。
「無礼だぞ。貴様!」
「オルター、ジェーンを無礼と申す事は許さん」
「これは大変失礼致しました」
頭を下げて許しを請う。必死な様子は絶対服従。
瞳の中で滾る怒りが暴れ、オルターは唇を噛み締めた。
密かな怒りの矛先が此方に向き。殺意も向けている。
心に痛みはなくむしろ冷静だった。自分はそんな感情で胸に苦痛を伴う柔ではない。昔からその類の感情には慣れていた。
ナシャアとオレゴンが談笑している。
偶然レンテと目が合った。彼から視線を逸らす。
「マカレル」
注意を引きつけ、手の甲を前へ出して見せつけた。
「宣言通り、魔力封じは解いたぞ。勿論、自力でな」
「それくらい自分で解けて当然だろ」
「お前は簡単に解けるのか」
「三秒あれば十分だ。どうせ、女顔は三秒以上もかかったんだろ」
むかつく。口にしたいが声に出したら、負けたような気になるので堪えた。
「皆、自分の席に座るのですぅ」
にこにこ笑うフィモはリノを引っ張りながら席につく。隣同士みたいだ。
「君はどうするの?」
疎らに椅子が空いていた。人数分より多くある。
「適当に座る」
オルターの隣に座らなければ、基本的どこでもいい。あと、レンテのそばも避けたい。




