魔力封じを解く鍵
過去を変えれば未来も変動し、それは人間の想像を絶する。
だが、時の魔術は例外をつくり、永久に同じ形を維持できる。物や時間が齎す破壊や消滅を拒む。
不老、無時間的な存在を示す言葉。時を完全に止め、若さを保つ。老いはしないが不死でない故に命は尽きる。
例外は悪魔と精霊だ。永く生き姿形を変えぬものもいる。
人は条件を課し活動の自由を制限して時間に制約される。しかし、逆にかような物事が成り立つ。不可視なそれは枠に捕らわれず、果てなく限界がない。即ち無限だ。
永遠に時を束縛する事は風を束縛する事と同じ。双方は一切の制約を拒絶でき、無効にしてしまう。
時の魔術は通常ただ一方的へ流れ去る、世の理に干渉可能な有効手段だ。
「へぇー。時って奥深いんだな」
説明はまだまだ続く。夢中になって黙読にのめり込み、知れば知る程興味が湧いた。
没頭した結果、時間の感覚が失せた。
「小僧」
ソリクに呼ばれて文字から目を逸らす。
「疲れないか」
ジェーンは瞬き瞼を閉じる。確かに少々目が疲れて痛む。
「ひょっとして気遣っているのか」
「誰が誰をだ?」
わざと素っ惚け、嫌がらせか読み途中の本を無慈悲に閉じた。
「あぁぁぁー。ふざけんな。ページを分からなくしやがって」
恨めしそうに睨みつけても男は平然と受け流した。
読んでいたページを探す気になれず、座ったまま伸びをする。
ブルームは集中して読書を続け、それに引き換え暇すぎたのか、サロフはうつ伏せですやすや眠る。
「おい、ブルーム」
「何ですか」
あえなく読書をやめる羽目になる。
「頭の働きが悪いな。察しろ」
「察しろと言われましても……」
困り果てて眉根を寄せる。
爪でカツカツと机を鳴らし苛立ち舌を打つ。
「喉が渇いた。コーヒーを持って来い」
ソリクの態度は傍若無人でしかも横暴だ。
「ホティオ。自分の足があるだろ。歩いて取りに行けよ」
言動を責める眼差しをわがままつむじ曲がりに突き刺す。
「私の足代わりは彼奴だ。さっさと行け」
「はい、分かりました」
文句一つなく立ち上がり、ブルームの表情には呆れと諦めの色が滲む。慣れだろう。
「ルウファスくんは飲み物をどうしますか、紅茶かココアか、それともジュースがいいですか」
「いや、俺は」
「遠慮はいりません。仰って下さい」
「じゃあ、コーヒー」
「コーヒーですね。サロフくんは……。紅茶をお持ち致しましょうか。たぶん、早くて五分少々で戻れると思います」
「三分で戻って来い」
「無理です」
苦笑して呪文を唱える。
「空間と空間を繋げ」
忽ち渦巻く歪みが生まれ、男は迷いなくその中へ入った。
歪みが消えた瞬間、姿も消えてしまう。
あれは空間魔術に含まれる繋ぐだ。
哲学では時間と共に物体界を構成する、基本概念とされ時間と空間は不可分である。
異なる空間同士を一時的に繋げ、出口と入口をつくり、瞬間的な移動ができ便利だ。
「所で小僧。何か収穫はあったか?」
仮面を被った表情は隠れ分からない。雰囲気と声で感情が伝わってくる。
「魔力封じを解く鍵は見つけた」
内から湧く自信は確かだという証拠。レンテに宣言した通り解いてみせる。
手の甲の印に意識を向け、封じられた魔力が段々溢れ出ようとしている。魔術行使に於てイメージは大切だ。
強く思い描けば、それが現実にする力となり成功に近づく。
「リバース《逆行》」




