つむじ曲がり
「起きていたのですか」
「お前のうるさい声に起こされた。安眠妨害の責任をとれ」
「そんな事を言っても、いつもブルームの近くにいるよね。そこから導き出される答えは」
「嫌いだ」
サロフはつむじ曲がりの男に向けて「少しくらい素直になれば」と呟く。
「人はひねくれていた方が面白味がある。この世に純粋な人間などいない」
「素直なソリクは、ソリクではありません」
尤も至極な意見をブルームが述べた。
「どうするの、ジェーン。手当たり次第に魔道書を呼んでいくなら僕も手伝うよ。魔力封じを解く為、そして君の為だ」
ぐっと肩を掴み、瞳がやる気に燃える。
温かい感情が湧いた少年はほのかに笑う。
「俺の問題は自分で解決したい。でも、有り難う。ナイシエ」
「今、有り難うって……。有り難うって言った」
忽ち喜びに舞い上がる。喜怒哀楽が分かりやすい。
危険を未然に感じ取り、素早く飛び退いた。
サロフの両手は空を抱き、唇がへの字になる。
「こういう時は黙って抱かれるのが鉄則だよ」
「二度もお前に抱きつかれてたまるか!?」
回避できて安堵する。過度なスキンシップはお断りだ。
「ルウファスくん、サロフくんとラブラブですね」
「冗談でも怒るぞ」
「仲良しという意味です」
まじめに返され、怒る気が失せる。ジェーンは吐息を漏らす。
魔道書を取りに動くとソリクが「待て、小僧」と呼び止めた。
「6101巻」
「はぁ?」
「6101巻だ」
一方的に告げて真意を教える親切心はなかった。
不服ながらきっちり収まった、魔道書の中から探す。
どれも背表紙が痛んでおらず、管理が行き届いていた。
本が好きでなければ管理は疎か整理も収集もできない。
「6097…6098…6099…6100…6101。これか」
背表紙の数学を確認して持ち分厚く重い。まだ読破していない巻である。
小脇に抱えて書見台に置いた。
「持って来たぞ。ホティオ」
「私はホティーカシャオだ。誰が読むと話した」
「読みたいんじゃなかったのか」
歩くのが面倒な理由で顎を使ったと解釈したが、どうやら意図が違うようだ。
「ルウファス。お前が読むんだ。さっさと座れ」
「俺が読むのか」
「そうだ。二度も言わすな」
ソリクの隣に腰掛けた。
尊大な態度が板についている。遠慮なく面を剥ぎ、どんな容貌か拝みたい。一瞬のうちに気分が爽快になる自信がある。
「6101巻目は時の魔術に関して記載されています」
「余計な事を口にするな」
ブルームはソリクの意図を理解していた。
目次を開き、最初から最後まで時について記される。総ページ数は610。
早速、ジェーンは読み始めた。
既に過ぎ去った時、過去と未来の間にある今この時、これから来る時。それらは過去、現在、未来に該当する。人間が決めた時間の三様態だ。
時は過去から現在、更に未来へと切れ目なく連なり、一定の速さでとどまらず流れ去る。
動物と植物は時の流れに支配されている。その証拠に生と死を繰り返す。
空間と共に人間の認識、その基礎を成し、世界の基本的枠組みを形作る。永遠から生じ永遠に帰する。
過去から未来への不可逆的方向を持ち、前後に無限に続く。不可逆的方向を持つが時空を超越すれば、過去、未来の自由な行き来が可能となる。
天地間にある全てのものは常に変転して生滅し、永久不変なものはない。




