探し物
「ラズカの微笑みは美しい女性だけに贈られる」
サロフは少年の人柄を熟知する。気さくに話しかけた。
「いつ起きた?」
「十五分前だ。いつ起きようが我の勝手だ」
「それはそうだけど、オレゴンとナシャアに挨拶はした?」
「後で行く」
苛々して落ちつきなく階段を上がっては下がるを繰り返し、焦りが雰囲気から窺えた。
「大切なものなのか」
「……」
視線が一瞬ジェーンに注がれ逸らす。
「ただのピアスだ。どこかで外れたらしい」
「俺も探す」
困っている人を放っておけない。
「勝手にしろ」
ラズカはつんと外方を向く。
魔力を読み取り、精神の働きを鋭くした。普段身につけるものなら微かでも、残留している可能性があった。
「ねぇねぇ、本気で探す気なの」
「うるさい。静かにしろ」
集中してジェーンは階段を上がり、感じた魔力を辿った。糸のようで細く簡単に切れそうである。
立ち止まり周囲を見回し、銀色に光るものが視界に入る。階段の隅に落ちていた。
腰を屈め拾い、これが彼の探し物だ。
「見つかった?」
「いっ…急に話しかけるな」
驚いた所為で誤って尖った部分に指が刺さる。血が滲み、思わず口元を歪めた。ちくちく痛む。
落としたピアスを慎重に広い、サロフを軽く睨む。
「ごめん。ごめん」
傷の具合を確かめようと伸ばす手から逃れ、僅かに震える指を忌々しく思う。
「ほら、これを探していたんだろ」
わざわざラズカの所へ戻り渡した。
「よかったな。見つかって」
「ああ……」
慣れた手つきで耳朶の孔にピアスをつけ、ほっとしている。
「お礼を言いなよ」
「ふん。男の指図は受けない主義だ」
サロフの言葉に偉ぶった態度で腕を組む。
「お前、怪我しただろ」
優れた嗅覚が空気中の匂いに気づく。自然な所作で手を取り、どうしてか血を異常に見入る。
手を引いても離さず、「甘美な香りだ」と呟いた。
ジェーンがぎょっとしている間に舌で血を舐めた。
唐突な出来事に顔が引きつる。即座に手を振り払った。
「ラズカは血に含まれる魔力を糧として、生きるヒア族の魔術師なんだよ」
「生き血を吸うなんておぞましい種族だな」
「ヒア族をおぞましいで表現するな。相手の少ない魔力でも、己の魔力に変換して利用できる。有能な種族だ。一日必ず食事目的で糧を得なければ、ならないのは面倒だが」
「魔力は味がするのか」
眉間に皺を寄せたジェーンの純粋な疑問にラズカは相好を崩す。
「無味だ。それに対し血の味は人それぞれ違う。男の血は断じて飲まないと決めていたが、よい香りに誘惑された。お前の血は格別だな」
獲物を捉えた眼差しは媚びを表す。やけに色っぽい。全身に寒気が走る。
「今度は首筋から貰っていいか」
「断る」
「頼む」
「断る」
「頼む」
進む度について来る。 サロフといい、レンテといい、ソリク、そしてラズカ。シヴェルティアの魔術師には、強すぎる個性を持つ人間が多い。
「お食事候補にされちゃったね。余程ジェーンのが美味しかったんだ」
「お食事候補って何だよ……」




