信用
確かめるような響きに心臓が一際高鳴った。王族を守る剣は最初から刃を失っていた。
「今まで通りユールもお前も守る。シヴェルティアの魔術師として。だから、安心しろ」
肩に乗る手に触れて握った。彼とは五歳の頃から共に行動した。一番の友達、一番の理解者として。
「フィネメズ、此奴の話し相手になってやれ」
『分かった。話し相手を熟しつつ遊んでやるぞ。アクミス』
王子の頭にフィネメズは遠慮なく着地した。
『さっさと進め、進め!』
既に意味不明な遊びが始まっている。
「頼んだぞ」
『フィズに任せろ』
一瞥すると困りながらも彼は笑う。身を翻した時、寂しげだったがどうやら大丈夫そうだ。
寝室を出て扉付近には護衛の二人が立っていた。軽く首を垂れ、一礼すると敬礼してくれた。
「十年間も離れてたのに、王子とは仲良しだね。何か妬けるなぁ」
暫く経ちサロフが話しかける。
それには答えずジェーンは口を開く。
「ナイシエは誰に監視を命じられた?オレゴンか、ナシャアか、それとも両者か」
「両者」
「信用されていないんだな」
声に出して腹立ちが増幅する。少なくともナシャアには、信用されたかった。
「二人共、君が無茶をやらかす可能性を懸念してる。要するに大切な君をセナードに、奪われる事を防ぐ為の監視であり、守りでもあるんだ」
「信用されていない事実は変わらない」
翠玉の間へ通じる回廊に戻り扉を開けた。
「少しでもオレゴンさんとナシャアさんの気持ちを察して欲しい。僕は命じられた身だから監視を続けるけど、ごめん」
とぼとぼ後ろをついて歩く。小さな足音はどこか元気が消えていた。
「謝るな」
「ジェーンは優しいね」
「別に――」
足音が元気を取り戻し、腕に両手を絡ませ密着する。
「腕に絡みつくな。鳥肌が……」
「嬉しくて鳥肌が立っているんだ」
「そんな訳あるか!!はあぁー」
わざとらしく長い溜息を吐き、無理やり引き剥がす。
この少年はとことん調子を狂わせてくる。疲労に包まれ階段を上がった。
蔵書室は三階に位置する。
読書好きなジェーンは過去常に利用した。本を借りて自室で読む時が安らぎだった。
どんどん階段を上がって行くと、目をあちこちに動かし、何かを探す少年いる。
ローブは纏っておらず、一見してシヴェルティアの魔術師が着る制服だ。
あの時、会議室にはいなかった。
「彼奴は誰だ」
「僕以外の男に興味を持つなんて浮気性だね」
「彼奴は誰だ」
おふざけを渋面で聞き流して二度同じ事を尋ねた。
横顔は「少しは乗ってくれてもいいじゃないか」といじける寸前だった。
「見ての通り、彼も僕達の仲間だよ。名前は……」
「ラズカ・ティノミナ。宜しくね。可愛い子ちゃん」
サロフの言葉を引き継ぎ、ラズカはにこやかに微笑んだ。
細く整った秀眉、目元は切れ長で瞳が茜色。純白の髪はさらさらだ。
惚れ惚れする程の美少年だが、外見のよさと魅力をしっかり心得ている。香水の匂いがした。
「彼は今日から僕達の仲間になった、ジェーン・ルウファス」
「何だ。男か」
さっと微笑みが消えて再び探し始めた。勝手に勘違いして失望までされた。全く以て癪に障る。
「典型的な奴だな」




