装い
承諾を貰い、少年は細長い台に並び立つ絵を見た。
長方形の額縁に収まり三つある。一つ目は威厳を備えた、ユールの肖像画。二つ目は柔らかなセシェムの肖像。そして三つ目はアクミスと両親が描かれている。
「幸せそうだね」
隣から声が聞こえて横を向けばサロフがいた。
「思い出を絵に描いたんだ。幸せな顔をして当然だろ」
家族の幸せはよく分からない。自分は望まれて生まれた存在ではなく、疎まれた存在である。
優美な笑みを表すセシェムに見惚れ、虚しく切ない。最低だが彼女が生きていて、代わりに自分がと考えてしまう。
栗色の髪、黄緑色の瞳。気品があって綺麗な容姿。きらびやかなドレス。笑顔がとても似合う人だった。
「フィネメズ、俺も今日知ったけど、五年前にセシェムは亡くなった」
『……』
開いた双眸は悲しみに揺らぎ、ぽとぽと滴が落ちる。
二人は大の仲良しで人と精霊の隔たりがなかった。
「泣くな。フィネメズ」
『だって、セシェムが死んだ。死んだんだぞ』
膨れ上がる悲しみに胸が締めつけられても、ジェーンは表情に出さず堪えた。
この場で誰よりも辛いのはアクミスだから――。
「父上から聞いていたのか」
「隠すつもりはなかった。ただ話すタイミングを逃して」
「母上に会いに行って欲しい」
「ユールと同じ事を言うんだな」
二人との約束、果たさなければならない。破るなんて以ての外だ。
アクミスの案じる眼差しに申し訳なさが込み上げてくる。
「いつまでも泣くなよ」
そばに行きフィネメズを持ち、瞳と瞳を合わせた。せめて心が穏やかに鎮まるように願う。
「お前が悲しいと余計に悲しくなる」
『ジェーンも泣いた方がいい』
「俺は大丈夫」
無理に我慢して見せかけの元気で平気を装った。こんな装いは本心を偽った演技である。
『フィズも我慢する』
簡単に嘘を見破られ、少年の心情を察して涙を止めた。 これ以上、大好きな人を苦しませまいと。
「弱くてごめん」
強いのではなく弱い為、悲しみを見て見ぬ振りをする。先送りにしたら一層辛いだけだ。
完全に感情が消えてしまえば、どんなに楽だろう。喜怒哀楽も煩わしさも忘れ、無頓着で無情に生きる。
だが、人間味を失った生き方は確実につまらない。
「王妃様は口癖みたいに話してた。『笑顔が一番』だってね」
「慰めているのか」
「うんうん」
明るく二度こくりと反応した。
「元気が出るおまじないをやってあげる。最初はフィネメズ」
ジェーンから掻っ攫うとサロフは精霊の体をくすぐり始めた。
『フッ、フフ。くすぐるな。やめろ。ハハハ、ハハ』
手足をばたばた動かし、尻尾は上下左右に揺れていた。
「はい、笑顔になった。次は王子の番です」
「僕は関係……」
「心が泣いていますよね」
否定する隙を与えず言い切った。
「覚悟して下さい」
指先でくすぐられ身を捩る。数秒後、軽やかな笑声が響いた。
「最後は君」
「俺はいい」
「その〝いい〟は承諾だね」
「お前は馬鹿か!」
嬉しそうに近づくサロフ。しかめっ面で後退るジェーン。
「逃げるなんてずるいぞ。僕が苦しみを味わったのに」




