責任
『うっ。苦しい』
苦痛の声が聞こえ、片腕で挟み持っていたフィネメズを床に下ろす。瞬間的に怒りが力となり腹を締めてしまった。
『可愛いフィズを締めつけるなんて酷いぞ』
「悪い。つい腕に力が入った。文句なら彼奴に言え」
精霊はサロフの顔を穴があく程見る。熱心に観察した。
「初めまして僕はサロフ・ナイシエ」
『フィズはフィネメズ』
人が僕、私、俺を使うように自分自身をフィズと言う。暫し自由に頭を撫でさせていたが、行き成り指先にかぶりつく。
「痛っ!痛い」
襲ってきた痛みに顔をしかめる。
「血が出たらどうするの。口を開けて」
満足したのか噛む行為をやめて、
『甘噛みだ』
悪気なく堂々とする。
歯形がついた指を押さえ、恨めしげに見入っていた。
「もしかして圧迫される原因を作った、僕へ仕返しの甘噛み?」
『報復の甘噛みだ』
「仕返しも報復も同じ意味だろ」
『報復の方が恰好いいぞ』
ジェーンが指摘したら妙な事にこだわる。
アクミスはフィネメズを持ち上げ、腕の中に抱え込む。特徴的な耳を撫でた。
『フィズをもっと愛でろ。アクミス』
撫でられ心地よさに目を閉じる。
『もっと、もっと』
自分が可愛いと思っている所為か、誰かに愛おしまれる事を好む。
「サディストはどんな姿をした精霊なんだ」
「黒くてでっかい精霊。俺の記憶に唯一残っている」
姿を見た覚えは三、四回。それより見ていた可能性はある。何しろ幼かった為記憶にない。
サディストは常に剣の姿で相棒のエイラだけに気を許している。
信頼関係があってこそ強くなれた。
剣の魔術師は精霊と生涯契約を交わし、剣となる相棒を得る。生涯契約は契約主の生命がこの世にある限り続き、死んだ場合、効力を失う。
四歳の時にフィネメズを召喚した。いや、エイラに説得されて仕方なく召喚した。
人を傷つける武器を持つ事が嫌で自分は拒んできたから。
本来剣の魔術師は三歳には精霊と生涯契約を終える。人と精霊の絆を深める思惑があった。
しかし王族に仕え、将来性が期待された純血だけだ。
父方の祖父は剣を拒むジェーンに苛立っていた。
強さを追求し続ける男とは考えが正反対だった。
名はヤーハオ・グドロム。早くに亡くなったユールの父、スカイ・シャナ・ムーランに仕えていた。
スカイが世を去ったのはアクミスが、二歳の頃だとエイラに教えられた。
『サディストは異常な程、人見知りをする。だが、それは人だけで話せばいい奴だ。久々に会いたい』
知らぬ間に精霊同士で友好を深めていき、思い起こすとサディストと遊んだ、楽しかったなどフィネメズが度々話してくれた。
『エイラにも会いたい。けれど、気配を感じない』
身の上が無事であるか、視線は答えを求める。
「俺の所為で捕まっている」
『お前は責任を感じるとすぐ自分の所為にする。悪い癖だ』
「そうかもな」
曖昧に笑って苦い思いを抑え止めた。ジェーンはいつだって責任ばかり感じていた。
『お前に魔力、返すのをやめた』
アクミスの腕から抜け出して宙に浮く。ベッドに乗りふて寝を決め込む。
感知困難な程、魔力が巧妙に隠されている。
エイラは先を予測する聡い人間だ。時空の封印が破られ、レベイユの手に落ちた最悪な場合を考えて、少年の魔力を半分封じた。
神力を悪用させない為に。守る為に。あの時は彼自身が魔力を石に封じ込め、後にフィネメズへ移し、それから長く大切に預かった。
「なぁ、アクミス。あの絵を近くで見ていいか」
「好きにしろ」




