精霊の相棒
押し黙る少年を見てサロフが、
「あれ、もしかして当たってた。当てずっぽうだったんだけど」
軽い調子でまさかの的中に驚く。
その様子が装いだと直感は告げた。彼はいい加減な判断で口にした訳ではない。本当に心中を読んだ上で何気なく話しかけた。
「ナイシエ」
「ん?」
首を傾げて次に発せられる言葉を待つ。
俺は此奴を知っている――。理由は不明瞭だがそう思った。
刹那、脳裏にある映像が浮かぶ。ぼやぼやした白い二人の姿。はっきりせず鮮明さに欠ける。
ドアが開く音で今まで浮かんでいた、映像はすっと消えた。
「鍵を持ってきたぞ」
「ああ」
適当に応答して思い出そうと試みたがダメだった。
「やっぱ、何でもない」
サロフに小さく伝えて、つっかえる感情に蓋をする。今考えても無意義だ。
金色の鍵を差しがちゃりと開き、箱を押し上げた。中には清く輝く美しい剣が一本収まる。
ただの剣ではなく、精霊が姿を変えている精霊剣だ。
「ジェーンが魔術界に戻って来るまで、エイラが僕に預かってくれと頼んだんだ」
降り積もった雪みたいな鞘と柄は白銀。
どちらも細やかな装飾で中央に嵌る、無色透明な水晶は僅かな濁りなく澄む。
ジェーンは剣を手に取る。
自分には不似合いだと拒絶した剣。厭わしい剣。人を守る為に使うと誓った剣。大切な相棒。
「フィネメズ」
(その声はジェーンか。待ちくたびれて、眠りについていたぞ)
名を呼んだ瞬間、脳裏に声が直接響く。少し不機嫌だが喜びがじわじわ溢れ出る。
剣の姿が霧散して渦巻き、光は輝いて弾けた。毛色は陽光に当たると銀のように白く光る。
鋭い双眸は冴えた銀色。耳と胴、尾は長く足が短い。尾の先に丸い水晶がついている。
羽がなくても宙に漂う。尻尾をうねらせた。
『成長しても女顔だな』
「再会早々に嫌みか」
今日一日で何度も嫌みを言われた。
『フィズは誉めているぞ』
口から発せられる言葉は人語だ。
姿が精霊剣の時は脳裏に声を響かせ、対象者へ思考内容を直接伝達する。
『あれから幾年が経過した?』
「十年」
『世界は』
「リミュエールは終わった。リーレ、ブイオ、オスクリダの三つに戻った」
『そうか。フィズは世界が分かれてしまう以前に自ら眠りについた。ジェーンがいない世界なんて、フィズには耐えられなかった』
銀色の眼に無念がふと浮かび消えた。
初めからフィネメズと心を通わせていた訳じゃない。一方的に閉ざした。そんな凍った心をいつの間にか溶かされ、相棒はかけがえのない存在となった。
『会いたかったぞ』
フィネメズがジェーンの胸に飛び込んだ。優しく受け入れて抱き締め、鼓動と体温を感じる。
「俺も同じ気持ちだ」
「長い歳月を隔ててしまったな」
『お前はアクミスか。あのチビがよくも大きくなったな』
首を王子の方に向け失礼にも凝視する。一緒に遊び過ごした過去を懐かしむ。
『ジェーンが哀れだ』
「俺はまだまだこれから伸びる!」
「僕はそのままの君がいい。伸びて欲しくない」
頭に手を乗せ伸びるな、伸びるなとサロフが念を送っているようだ。手をどけ横目で睨みつけた。
「そんな怖い顔しちゃダメだよ」
耳元に唇を寄せ、突然息を吹きかける。くすぐったさにぞわっとなり耳を押さえた。
「感じちゃった?」
「違うわ!!二回もやるな」
彼が緊張を解こうとしてやった事を思い出し、眉間に皺ができる。




