中に入るもの
不都合を抑制する働きが監視なんて皮肉だ。
あの時は感情に押し流され、助けるとエイラに意思を伝えた。
助けたい気持ちはある。ブイオに乗り込んだとして捕まれば、過大な迷惑がかかる。
身勝手な行動で誰かを傷つけたくない。
「王子がジェーンを驚かせたいと仰られた。僕はここで姿を隠して君がやって来たら、合図を送る役目だった。本来なら扉が開く瞬間に、サプライズは大成功したんだ」
「お前が気づいた所為で大失敗だ」
「責められても困る」
回廊で意外な再会に内心驚かされた。彼には秘密だが。
「これから僕につき合って貰ってもいいか」
唐突に懇願して「どうせ、暇だろ」と言い足す。
「断る」
「冷たい。いつからそんなに冷たくなった?」
拒否権は与えられず、ジェーンの手首を掴む。不服げなアクミスが歩き始めた。
「これで護衛は解任だがサロフはどうする」
「ご一緒させて下さい」
ついて来るのは目に見えていた。
目的地に向かって進んでいく。アクミスの横顔は笑みを含む。
王族が使用する部屋は翠玉の間付近にあり、自室と寝室が分かれ、衣装室、執務室、書斎。たくさんの部屋がある。
廊下を歩行していると、前方から制服を着用した男達が王子の元へ駆け寄った。
「アクミス王子、いくら城内でも我等護衛を置いて、単独で歩かれては……」
「その話は日々耳に胼胝ができる程、聞かされている。うんざりだ」
胸中では悪いと思いつつも、彼の態度は刺々しく人を遠ざける。
困惑顔の護衛を残し、ジェーンとサロフを室内に入れた。
「アクミス、気持ちは分かるけどあの態度は改めろ」
「お前は僕の味方だ。違うのか?」
どちらでもないという意味を込めて、首を振ったが悲しげな表情になった。
「背は大きくなっても、すぐ拗ねる所は全然変わらないな」
頭に手を置いて不満を宥める。ジェーンが彼の気持ちを落ち着かす時にやる行為だ。
恥ずかしさで目線を下にして、どこか懐旧の念に浸っていた。
「これじゃあ、どちらが年上で年下か、こんがらがっていますね」
サロフの朗らかな笑声が零れ、釣られてアクミスも笑う。二人の声が混ざり響く。
「いつまで笑ってるんだ」
「久々に楽しくて笑ってしまった」
心が明るく満ち足りた感覚に安らぎ、彼は快さに身を委ねる。
「フフ、ハハ。僕は笑いが止まらなくなっちゃった。助けて。ハハハ」
「ナイシエは一生笑ってろ」
「そんなぁ」
「フッ」
王子は気が済むまで体を揺さぶった。
落ち着いてから尋ねる。
「ここってお前の寝室だよな」
白、銀、赤を取り入れた室内は気品が漂い、必要最低限の芸術性ある家具が配置されている。
両手両足を広げても、隙間が有り余るくらいの天蓋付きベッド。安らぐ香りを放つ観葉植物。壁には精巧な銀細工で縁の紋様が形作られた、姿見が嵌る。冬になれば火を燃やして暖める暖炉が役に立つ。
「俺をつき合わせた理由を話せよ」
「焦るな。直に分かる」
勿体ぶるアクミスはベッドに歩み寄ってしゃがむ。下の隙間から丈夫そうな箱を引きずり出した。
金属製の箱は縦に細長く鍵穴がある。
ジェーンはこの中に入るものが何か悟った。
「鍵はどこだ」
目が離せなくなり、鼓動は速くなる。中を確認したい。
「待っていろ。今、持ってくる」
王子は早足で寝室を出て行った。
恐らく自室のどこかで、ずっと鍵を保管していたのだろう。
「ねぇ、君は中に何が入っているか、もう察してるでしょ」
心中を読まれた。




