適切な言葉
「やっぱりレンテのじゃ、サイズが合わないね」
「嫌みか!」
手の平が少し隠れる袖口が憎らしく、ジェーンの癪に障る。
サロフは頻りにぶんぶん首を振った。
「お前、何か俺に隠しているんだろ」
あからさまにどっきとなり目を泳がせた。分かりやすい反応である。
「アクミス、出て来い」
一直線の回廊を繋ぐ扉が開いた。
ユールと同じ色の髪と瞳。ほっそりと形よく伸びた体は華奢だが、男の勇ましさがある。超然とした神々しい美貌は遺伝の賜り物だ。
会いたいと願っていた人が目前にいる。
「お前の鋭い気配読みには負けた」
言わなかっただけでサロフと同様に、初めから気配を感じ取り存在を知った。
「驚かそうと思って、隠れていたのに」
拗ねた雰囲気を漂わせ、びっくりさせられず残念がる。十八歳になっても些か子供っぽい。
「背伸びたな」
あの頃は背丈が一緒だった。十年間に生まれた差を神へ問いたい。不平等すぎる。
「ジェーンが現世界にいる間に僕は成長した。もう小さくない」
「お前も嫌みか」
「小さい方が愛らしくていい」
白く透けるような手を伸ばし、アクミスが急に抱き締めてきた。
「十八歳がくっつくな。離せ、離せ!俺は人形じゃ……」
引き離すべく抵抗して聞こえた囁きに口を噤む。
「寂しかった。ずっと寂しかった。別れもなく急に消えてしまったから。また会えて心の底から嬉しい」
彼の孤独は自分なんかの推測を上回る程大きい。寂しさが苦しみとひりつく痛みを与える。
ユールとエイラが放っておかず、そばにいてあげ、心の支えになったに違いない。
「俺も会えて嬉しい」
現在の場面に応じた、適切な言葉を思いつければよかった。生憎これが精一杯である。
「僕を放置して王子といちゃいちゃ楽しそうだね」
ちくちく刺さる視線に手が動き、少年を押し飛ばす。
「もし、誰かが聞いたら勘違いするだろ」
顔が火照り、羞恥で赤くなった頬を両手で隠す。
堪えきれなくなったサロフが「可愛い」と余計な一言を言い、吹き出した。
「僕を押し飛ばすなんて酷いな」
回廊に尻餅をついたアクミスは恨めしそうにジェーンを見遣る。
「ほら」
ぞんざいに手を差し伸べて、引っ張り起こすのを手伝う。
「どうか許してあげて下さい。あれはジェーンの照れ隠しです」
「照れ隠しなら許す」
笑みを形作ったサロフの言葉で納得する。
居心地が悪くなって外方を向き、やおら話し出す。
「偶然姿を隠してナイシエが、俺を待っていたとは考えにくいし、扉の向こうに偶然アクミスも隠れていた訳がない。理由を説明しろ」
「拷問口調で問い詰めなくても……。あっ、でも君になら拷問されていいかも」
「説明しろ」
頭を押さえて冷ややかな眼差しを浴びせた。冗談とも本気とも解釈でき、疲れ果て脱力する。
「君が出て行った後、王子がオレゴンさんの元へいらした。護衛も引き連れずお一人でね。ジェーンが魔術界に戻った事と仲間になった事は、伝言球でナシャアさんが知らせた」
「四六時中、誰かに護衛されるなんてただの監視だ。息が詰まる。護身術は完璧で魔術には自信がある。逸早くジェーンに会いたかったから急いだ。お前が翠玉の間に向かっていた事はその場で耳にした」
「いつ狙われてもおかしくない状況です。以後、軽率な行動を慎んで下さい」
エイラがいない状況では守りは手薄になっている。魔術を封じられ、その魔術の感覚を掴めず、剣術さえ鈍る自分が戻った今でも高が知れていた。
オレゴンを統率者とするシヴェルティアの魔術師がいれば安心だろう。
「王との対面中に勝手な入室はできない。君の退室を王子と共に待っていた。因みに僕は待つ間、護衛を命じられた」
顔を間近に寄せ、サロフが耳元で囁く。
「それと君の監視も」
何かジェーンは言おうとして、唇へ静かにと指先を置かれた。苛立ったが監視の事を考えた。
オレゴンが命じたのか。あるいはナシャアか。もしくは二人が決めたのか。




