歓迎と不安
「改めて皆に報告する。ジェーン・ルウファスは私達の一員となった。私は新たな仲間を歓迎しよう」
オレゴンは手を打ち鳴らす。
各自が拍手をし始めた。若干、二名気になる者がいる。
ソリクは程良く適当にパチパチ音を立て、レンテは面倒くさげだ。
「ルウファスくん。よかったですね。フィモは嬉しいですぅ。愉快な仲間が増えて」
「私も一応歓迎してやるわ」
「素直に歓迎するって言えばいいのに」
サロフが目線をリノに合わせる。
「うるさい」
「二人共、仲良くして下さいです」
この三人がいるだけで場は賑やかだ。恐らくいや、確定的に毎日が騒々しい。予感は的中しそうでジェーンは穏やかな日を切に願う。
「明日には貴公に合った制服と指輪を支給できよう」
サイズを聞かれると身構えたが、オレゴンは神妙な目つきでやがて口を開く。
「王は対面を望まれておられる」
「翠玉の間か」
首を縦に動かした。
脳裏で翠玉の間の行き方を思い出し、記憶に靄がかり抜けがある。どうにかなると勝手に結論づけ、進む寸前で止められた。
「現世界の恰好でお目にかかるのは、礼儀を欠く行為だ」
男が向いた方向にはレンテがいて思考が働き、答えを導き出す。少年は口元がひきつる。
「今日だけ制服をルウファスに貸してやってくれまいか。頼んだぞ。レンテ」
「はい」
嫌な感情を眉間に深く刻む皺で表現した。有無を言わせぬ響き、目上、それに加え統率者たっての頼みを断れるはずがない。
「早急に用意できればよかったのだが、それは無理な事。申し訳ないが我慢して貰いたい」
「あんたが詫びなくていい」
威厳の所為か取っつきにくい印象だが、不器用な中にも思いやりがある。彼なら人を大切にできる。
「さっさとしろ。女顔」
扉を開けて既に歩む。奴の頭から待つという行為が抹消されている。
「俺はカノヴァントの御陰で、シヴェルティアの魔術師としてここに在れる。有り難う」
頭を深々と下げ、ジェーンは即座に部屋を出た。
本心を曝け出すのはとても照れくさく、感謝しているからこそ直視できなかった。左右を見て先を行くレンテの後ろ姿を急ぎ足で追った。
オレゴンは出て行く少年を視界に入れ、完全に扉が閉まった。
玉虫色の瞳は剣の魔術師である優れた純血を表す。知らず知らずジェーン・ルウファスを特別視していた。他とは違う代々王を守ってきた血筋。
城内で幾度も見たが、ろくに話らしい会話を交わした覚えや関わる機会もなかった。十年という時を経て成長した。
現世界から魔術界へ戻った。否、戻れざるを得ない状況だった。
若いのに重い運命を背負っている。もう十分背負っているか……。
「貴方はジェーンを目にして何を思いになられましたか」
「魅せられた。不思議と人を引きつける力に。意志の強さが伝わってきた」
「貴方が仰った通り、彼奴には魅力があります。本人は無自覚です。曲がった事が嫌いで約束は必ず守る。我を張る所もあります。自分がやろうと決めた事は最後まで成し遂げ、精一杯努力するんです」
「ナシャアはルウファスが大好きなのだな」
ナシャアの口調は明るく弾んでいた。大切に慈しむ思いで満ち溢れる。
「はい、エイラが愛するように俺も愛しております」
一瞬瞳が曇った原因はここにはいない、エイラの所為だろう。
私情を挟み救出しろと指図するなんて余りにも危険で愚かだ。
レベイユを甘くみれば害を被る側は此方だ。今はただ沈黙を守り、男が何か仕掛けてこない事を祈る。
ジェーンが仲間に入り皆騒ぎ浮き立つ。
「今更だがリノとサロフ、ルウファスの救出ご苦労であった」
「私の優秀な働きに感謝してよね」
「目上に偉そうな態度はやめなよ……。あっさり救出できて拍子抜けしました」
鋭い指摘に考え込む。すぐ考え込むのは悪い癖である。
「成功したのだ。良しとしよう」
オレゴンは微かに頬を緩ませ、問いたげなサロフを見据えていた。
この時だけは不安を忘れた。
淡い黄色い床は歩くジェーンが映る程、磨かれ光沢と透明感がある。
壁にはタペストリーが並び飾られ、絵画は壮大な自然の風景だ。写真のように美しく次第に四季が変化していく。
仕掛けは春夏秋冬の同じ絵を四枚描き、最後に複合の呪い(まじない)で一枚にする。




