世を壊した元凶
「今は待て。オレゴンが戻ってくれば明らかになる」
ナシャアの口からその名前を聞いたのはこれで二回目だった。
「なぁ、オレゴンってシヴェルティアの魔術師だろ」
頷き男が続ける。
「オレゴン・カノヴァントは、シヴェルティアの魔術師をまとめる統率者だ。お前が仲間に入る事を予測し、レベイユが動き始めた今日を期にジェーンの為、率先としてユール王の元へ向かった。たとえ言い出さなくても、王の許可を意地でも得て来るはずだ」
「信じて待っていればいいんだな」
本来、他人を頼りに待つなんて人任せで嫌だ。だが、今は何を思ってもオレゴンを信じるしか選択肢はない。
もしダメだったら――。ふと過ぎった考えに鳥肌が立ち、背筋が寒くなる。不安と恐怖に襲われた。
ユールはリーレを壊した元凶をリミュエールとなった、この国に置いてくれるのか。
ジェーン自身も未知である神力。それを本来宿すべき人間はリーレを治め、王位を継ぐアクミスでなければいけなかった。
俺が世を歪める、きっかけを作ってしまった。
「小僧、小僧、小僧、小僧!」
「何だよ。一度呼べば分かる。それに俺の名前は小僧じゃない」
「一度目で反応しろ」
「小僧じゃないのに反応してやったんだ。有り難く思え!」
思考を打ち切られ、存在感のあるソリクに目を向けた。仮面と高圧的な雰囲気が際立った異彩を放つ。
「右手の甲にある印は魔力封じだな」
黒いインクで描いたみたいに十字の中央には、二重丸がくっきり浮き出ていた。
目覚めた時は魔力封じをかけた、ルアの残留する魔力が感じられ、現在はもう消えている。
「見れば分かるだろ」
印を不快に思いながらじっと見る。
「私が解いてやろう」
「やめておいた方がいいですよ。ルウファスくん。彼が進んで人の為に何かをやる時は、必ず裏があります」
「邪魔をするな」
ブルームが口を出せば向きになってソリクは言い返した。
「貴方の企みは知りませんが、危険を教えて差し上げたのです」
「あのさぁ……」
互いに言葉が飛び交い、少年の声が完璧に無視状態だ。
「端っから誰かに解いて貰う気なんかない」
こっちの独り言は聞き取っていたらしく、
「親切をむげにするのか」
拗ねて腹を立てる。
表情が隠れていても口調と雰囲気で読み取れる。
「ホティオだから断った訳じゃなく、ナシャアでも断ったぞ。人間にはどうあがいてもできない事がある。俺は最初からそれを認めて諦めるのは御免だ。誰かを当てにするより、己の力を信じて、どんな結果になろうが試しにやってみたい。この魔力封じは自分自身で解く」
「ふん。意地を張りおって」
ジェーンの態度を不愉快に思わず、ソリクは笑いを誘うような快さを響きに滲ませた。
「ホティオとは私の事か」
「長ったらしいからホティーカシャオを略してホティオ」
「今後一切ふざけた略し名で呼ぶな」
「これからはソリクの事をホティオと呼ばせて頂きますね」
上品に口元を押さえて吹き出すまいと堪えるブルーム。
「いい愛称じゃない」
リノが人の悪い笑みを浮かべる。
「ダメですぅー。リノちゃんにそんな笑みは似合いません」
ご不満のフィモは両頬を指で摘み引っ張った。
「いた、痛い。やめなさい」
「似合わないったら、似合いません」
完全にリノはフィモのペースに巻き込まれている。
「女顔が自力で魔力封じを解けるか、疑問だな」
嫌みたっぷりの大きな呟きが耳に入った。取り合うか迷ったあげく自制心が負けてしまう。
「絶対、解いてやる。解いた暁にはお前に必ず見せてやる!」
勢いよく立ち上がりレンテを睨めつけた。
「しっかり自力で解けよ。女顔」
知らず知らずの内に力を入れ爪が食い込む。一言一言むかつく奴だ。
「ジェーンに対して刺々しすぎるよ。レンテ」




