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根源の魔術師  作者: 蓮華
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捨てられたリーレ

 ウィザー・シャナ・ムーランが生きた時代、元々国はリミュエール、オスクリダ、ブイオの三国に分かれていた。


 オスクリダの王、ギハが領土を広げる目的で、ブイオを侵略し始め戦争は幕を開けた。


 書物には悲愴な戦争が齎した結果、夥しい人の数が死んだと残っている。


 次第に平和だったリミュエールも巻き込まれ戦乱の世となった。ウィザーは死にゆく人を見て、嘆きに沈み、来る日も来る日も血が流れる、争いに絶望して胸を痛めた。


 悲しい世が一刻も早く終わる事を彼は無駄でも願い続けた。


 そして奇跡は前触れなく起こるのだ。男の目前に眩い光を纏ったしんと名乗るものが現れた。


 神は『汝が愚かな戦いに終止符を打て』と口にして、誰も知らない魔術の知識を脳裏に直接伝えた。


 名は神力魔術。救いと滅びの力だった。体内に宿る神力という源無くして、魔術行使は不可能である。


 様々な情報を瞬く間に理解させた。


 神によって力を授かり、ウィザーが神力の器になったのだ。


「ウィザー・シャナ・ムーランは人知を超越した威力を持ち、滅びではなく救いを齎した。嘘みたいに戦乱の世は終わり、国は一体化してリーレと呼ばれるようになった。俺はこの歴史を信じている訳ではないが、代々ムーラン家の王に神力が受け継がれていった。それは間違いなく真実だ」


 ここまではジェーンも知っている事だ。


 ユールは壊れた物を呪文を必要とせず再構築し、同様に存在する物を最初から、なかったかのように消滅させてしまう。


 彼が起こす奇跡的な魔術を人々でさえ、しばしば目にしてきた。


 神力の器でなくなったユールは完全に力を失った。


「王になる者が齢八になった時、受け継ぎの儀が行われ、神力はアクミス王子へ受け継がれるはずだった。ユール王に選ばれ儀式を任された者がオレゴン。補佐としてガスト。神殿には関係者しか立ち入りが許されなかった。受け継ぎの儀で何が起こったのか、これだけ年月が経過しても、ユール王は未だ二人に口外を禁じている。だから、はっきり言って部外者だった俺は知らない。何故、ジェーンが神力を体内に宿してしまったのか、理由を話してくれ」


 少年は話す意思がないと首を振って示した。


 記憶を蘇らせじっくり考える時間がいる。あの日、幼い自分は混乱していた。


「これだけは真実だ。神力はアクミスには受け継がれず、現在は俺の体内にある」


 自分の記憶には神力に関する知識があった。だが、鍵がかかっているように全く引き出せない。


「五日程、受け継ぎの儀が失敗に終わった事実は公にされなかった。秘密は意外な所から漏れた。儀式に携わった神官の一人が隠事をしている罪悪感に負け、シュリン王とセオド王に口外した。その頃、俺はのうのうと時を過ごしていた。それに、まさかお前が監禁されてたなんて、予測もしなかった」


「俺の事はどうでもいいんだ。話を続けろ……」


 声が微かに震えた。開きそうな記憶の扉をどうにか閉じた。


「秘密が露見して二人はユール王に問い質し、白状させようとしたが、堅く閉ざされた口は何も打ち明けなかった。黙秘は続いた結果、遂に怒りを買ってしまった」


 各々がナシャアの話を異なった表情で聞いていた。尤も仮面を被るソリクの顔は分からないが。


「怒りを買ったくらいで国の存続が危うくなった、訳じゃないだろう」


「ああ、レベイユが国を分裂させる発端になったんだ」


 空気が凍りついた。静寂が息苦しく肩は重い。


「翠玉の間に三人の王とシヴェルティアの魔術師を集め、そして進言した。『直にリーレは終わります』とまるで予言をするかのように。奴は優雅にお辞儀して突然、歌を唄い始めた。

――我は救いを齎そう。我は滅びを齎そう。救いは滅び。滅びは救い。我と剣と闇だけを残して、音もなく世界は一新する。新たに生を与えられ、死して再生する。我が統べる世界から争いが消えた。本当の平和が訪れたのだ。免れた剣は何も知らず、十字架を背負う闇だけが語り続ける。忌々しき歴史の苦痛と闇を――。

唄い終えた瞬間、辺りは水を打ったように静まっていた。『今宵、リーレの闇を記憶する私がシュリン王とセオド王の為に、夢で語りましょう』レベイユはぞっとさせる美しい笑みを浮かべて、呆然とした一同を残し去った」


 意味不明な歌だがレベイユはふざけた男ではない。意味ある事をしたから、世界は三つに分かれた。


 翌朝、二人の王はユール王に『リーレはもう終わりだ』と嫌悪を表す蔑む目で告げた。


 翠玉の間から人払いが去れ、三人の王が何を話したのか知る者は存在せず、話し合いは何時間にも及んだ。


 まずシヴェルティアの魔術師達に決定事項が発表された。


 一つ、ウィザー・シャナ・ムーランの後裔である者にこの国は任せられない。


 二つ、直にリーレは無くなり、リミュエール、オスクリダ、ブイオヘ戻る。


 三つ、民にその旨を公にし三日間、猶予を与え、王を選ばせる。


 誰もが混乱に陥った。訳も分からず民は自分が信じる王を決めるしか選択の余地はなかった。


 それから魔術界は目まぐるしく変わり始めた。


 セオドとシュリンはついて来た、民と共にためらわずリーレを捨てた。


 ユールは二人の王と民に不用とされてしまったのだ。


 各々が違う所に新しく国を興した。魔術師が協力し合えば、お粗末でも地道に国は作っていける。


 こんな簡単に国は終わってしまったのか。ジェーンが知っていた魔術界は変わってしまったのか。


「ユール王はリミュエールに残った民をこれ以上、不安がらせないように来る日も最善を尽くした。自身の気持ちに整理がついていないにも拘わらず、王の役割を果たそうと必死に努めた」


 濃い赤紫色の瞳にしっかり目線を定め、やおら口を開く。


「この話だけだと、不明瞭な点が多すぎる。レベイユの事も俺は真実を知りたい」


 レベイユは何を記憶している。セオドとシュリンに何をした?どうして生まれ育ったリーレを壊した。


 全ての事には意味と原因がある。彼の思惑と望みはどんなものだろう。


「ナシャア、頼みがある。俺をシヴェルティアの魔術師に入れて欲しい」


 十年間のブランクを経て、魔術界に戻ってきた。


 大好きだったレベイユと、敵対関係になる事は考えなくても予想できる。


 自分には繋がりを実感できる人、エイラとナシャアがいた。気づけばジェーンは、会いたい人とちょっと変わった、相棒の事を思い出す。


「個人的にはお前を仲間に入れたい。しかし、それを決めるのは王だ。下された判断に従って貰う」


「その言い方じゃ、まるで……」


 ジェーンがシヴェルティアの魔術師に入りたいと言う、意思表示を想定してユールへ意向を伝えた。そう解釈が可能だ。

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