引っかかり
少年がすんなり手を離して、ふざけないでという顔のリノへぴったりくっつく。
「相変わらず仲がいいな」
「ナシャア、助けて。ルウファスでもいい」
微笑ましい光景を見るように、ナシャアの顔つきは穏やかだ。完全に仲間を紹介する事が頭から抜け落ちている。
ジェーンは「自分で何とかしろ」と視線で投げかけた。
記憶に引っかかりを感じて、柔和に笑う男性から目が外せなくなる。
癖の強い菫色の髪、不自然な透明の瞳。目元は彫りが深く、どことなく知的だ。
「私はブルーム・シュノールです」
「どうも、初めまして」
微かに引っかかった不明な何かは、今にも切れそうな糸を手繰り寄せているようだ。掴めそうで掴めず、容易には思い出せない。
「彼はソリク・ホティーカシャオです」
波打つ長い髪は非常に艶やかな蜂蜜色。被る白い仮面の頬には水色の雫型があり、顔立ちは不明だ。白いマントを纏う。
「小僧、懇意にしてやろう」
頬杖を突き風変わりを絵に描いた、ソリクの物言いは高飛車だ。しかも上から目線。
「それではルウファスくんと懇意な間柄にはなれませんよ」
「ならばどうするのだ?」
「貴方がどれだけ懇意な間柄になりたいか、ありのままにお伝え……」
「静かにしろ」
自ら聞いておいて聞く行為をやめるのは余りにも無責任だ。
椅子の脚を思い切りソリクが蹴った所為で、ブルームは床へ大きな音を立てて倒れた。しっかり受け身をとり、平然とした態度で起き上がる。
椅子を立て直して姿勢よく座す。
「いつまで貴方は子供じみているのですか」
呆れて吐息一つ。乱れた髪を手櫛で整え、ブルームが微苦笑する。
「大丈夫か……」
「彼の勝手気ままな振る舞いには慣れています。ですから、平気です」
二人には温度差がある。ジェーンの瞳には幼い頃からの友みたいに映った。
こんな時に限って脳裏では、腐れ縁が姿を現し笑う。
何で出てくるんだよ――。
姿を無理やり消し去った。
自分は最後に一度、現世界を訪れてなすべき事がある。今はその事に気を囚われ頭を悩ます暇はない。
「お前が人に興味を持つなんて珍しい。明日の天気は大荒れだな」
「面白い対象には興味を持つ。小僧は心地いい魔力の持ち主だ」
仮面を被っていてもひしひしと視線が伝わり、ナシャアの背を盾にして隠れた。
感覚的に魔力を感知する為には、物事を捉える心の働きを使う。
ジェーンが消していた魔力を容易く感じ取った。密かにソリクは鋭い感覚を持ち、優れていると証明した。
「ナシャア」
「ひょっとしてソリクが怖いのか」
「違う」
顰蹙しながら即座に否定する。声を潜め尋ねた。
「シヴェルティアの魔術師に枯れ草色の髪をした男はいるか」
「何故、そんな事を聞く?」
「……いいから答えろ」
「オルター・ガスト。恐らくお前が知りたい男の名だ」
哀れむ訳でもなく、此方を見下ろす双眸。
『消えろ』と卑劣に笑った。
あの時の男が城内にいる。背筋に震えが走った。
「俺がいない十年間、魔術界に何があったかを話して欲しい」
少年はナシャアを見据え、オルターについて問う事を拒む。今更、話すなんて時間の無駄だ。
「皆、悪いがジェーンの為につき合ってくれ」
サロフが「どうぞ」と言い席につき、リノはべったりくっつくフィモを引き摺って、自分だけ腰を落ち着ける。
話につき合ってあげるという意思表示を示した。
誰も異を唱える者はいない。促すナシャアに背中を押され座る。室内が静寂に支配された。
「お前が知っての通り、リーレは《リュヌ》の役割を持つ、ユール王と《ソーレ》の役割を持つ、シュリン王とセオド王があってこそ成り立った。ユール王が太陽であれた理由は神力魔術を扱える、神力の器だったからだ。ウィザー王がそうであったように強者が表に立ち、弱者が従うのは必然的だろう。リーレは一つの太陽と二つの月があって、現に成立していた」




