シヴェルティアの魔術師達
「そもそも原因を作った、淡く黄色い髪で青緑色の瞳をした椅子に座る奴の方が、数百倍は頭が悪いと思いますけど」
胸座から手を離して高ぶった感情を抑え冷静になる。
掴んだだけで殴る気は更々なかった。一発殴りたいと考えた、事実は否定せず認める。
「意気地なしめ。別に殴ってもいいぞ。華奢な体つきの君が殴った所で、少しも僕に苦痛を与えられなさそうだ」
神経を逆撫でするような言葉を少年が選択した。
「相手を不快にさせる言動を心得ているな」
ジェーンが睨みつけるとわざわざ腰を上げ、腕を組み受けて立つ。
「女顔で華奢な上に背も小・さ・い」
頭の天辺から爪先まで観察して「小さい」の部分をやけに強調された。
「背が俺より高いだけで、いい気になるな!」
拳が怒りで震えた。心のどこかで背が小さい事に落ち込む。
まだ伸びる。まだ伸びる。伸びる。伸びる……。心中で幾度も幾度も呟く。
「レンテ、友達になりたいからって、此奴を苛めるな。気に入ったのは分かるが」
ナシャアが二人の間に割って入り口元が綻ぶ。彼は楽しんでいたのだ。それを知ってしまい、無性に腹が立つ。
「友達?ご冗談を。ただ僕は見た目からして、ジェーン・ルウファスが気に入らないのです」
「嘘をついているだろ。嫌いなら関わらなければ済む」
尤もな指摘に黙るかと思いきや、「嘘はついておりません。誰が女顔と友達になりたいのです?」と此方を指差す。
「ジェーン、彼奴と仲良くしてやって欲しい。同い年だしな」
勝手に話を進めた。同い年が理由で仲良くしなければ、いけないのはおかしい。
「無理」
「そんな事を言うな。レンテが悲しむ」
「根拠のない主観的な想像はやめて下さい。たとえ女顔が友達になりたいと頼んでも願い下げです」
先程まで座っていた椅子にまた腰を下ろし、清冽な雰囲気がぴりつき苛立っている。
少年とはうまくやっていける気が微塵も感じられず、嫌な印象が脳裏に記憶された。
「リノとサロフは既に自己紹介を終えた。一先ずここに集まる、シヴェルティアの魔術師達を紹介するか」
透視でジェーン達の様子を見ていた為、状況を知っている。
「彼はレンテ・マカレル」
紹介され見向きもせず無言だ。少しも仲良くするつもりはなく、後ろ姿から小馬鹿にしているのが見た感じで分かった。
ナシャアが少女を指し示す。
「彼女はフィモ・ネピア」
オレンジ色の髪を二つ結びで肩に垂らし、やや赤めの黄色い瞳。丸顔で柔らかそうな頬とふっくらした唇。
「宜しくですぅー」
わざわざ席から立ってジェーンと握手を交わす。
やたらと語尾が間延びしていた。おっとり構えて笑顔は大層可愛らしい。
ズボンは右が長く、左は膝まであり、甲の部分が広く開いた靴は黒光りする。
「フィモは童顔だがこれでも十九歳だ」
「気にしているのに、酷いですぅ」
ぷっと剥くれてフィモが睨む。怖さというものに無縁だ。
「いつ見てもリスみたいだな。癒される」
ポンポン。幾度も頭を叩く。ナシャアは大空に輝く太陽みたいで皆に明るさと元気を齎す。
「遅くなりましたがリノちゃん。サロフくんもお帰りなさい。待ちくたびれましたぁ」
勢いよくフィモに飛びつかれ、リノは床に尻餅をつく。
「痛い!何回、言ったらあんたは飛びつくのをやめるのよ」
年上でも偉そうな態度である。
「ごめんなさいです。許して下さい。うぅー」
しょんぼり瞳を潤ませて今にも泣きそうだった。
「別に怒っていないわよ」
「本当ですかぁ!!」
晴れやかな表情で首に手を回して「大好きですぅ」と抱きつく。
「苦しいから離れて。あんたが私を大好きなのは、日々思い知らされているわよ。にたにた笑うのをやめて助けなさい。サロフ」
「はいはい」
巻きつきに苦しむ少女の命令に従い、サロフがフィモを引き離した。
「サロフくん。フィモは悲しいです。どうしてリノちゃんと引き離すんですかぁ」
「それは悪い事をしたね。ごめん」




