素っ気ない自己紹介
「俺は悪魔にも精霊にも興味ないんだ」
興味があるのは膨大に存在する魔術。召喚術で呼び寄せる悪魔や精霊の多様な種類なんか心底からどうでもいい。
因みに初めて行う場合のみ召喚術は血、髪、爪などを代価にして喚ぶ。使役主は魔力を与えるという誓約をし、主従関係が成り立つ。
何故なら二種にとって人間から貰う魔力は、貴重で甘美な嗜好品みたいなものだ。貰う為なら命令に従う。
「ギャロンの能力は指定場所の空間に移動が可能よ。使役主、即ち私の魔力を糧として力が発動できる。この説明でお分かり?」
「馬鹿って言われた事を根に持っているだろ」
「ち、違うわよ!」
外方を向くリノは分かりやすく動揺していた。
紺のローブは袖つき。黒い上着とショートパンツ、ハイブーツ。どれも銀色の縁取り線が入ったシンプルなデザインだ。
指に嵌る翠玉には十字架が彫ってある。王と共にあり付き従う有能なシヴェルティアの魔術師を表す。
サロフの方も同じローブを纏い、ズボンはブーツ内で黒と銀、二色を主としている。翠玉の指輪は同一の意味を持つ。
「リーレのシヴェルティアじゃなく、リミュエールのシヴェルティアなんだろ」
「ええ」
「うん」
魔術界が三つに分かれ、リーレは無くなり四年が経過した。迷わず答えた二人は疾うに割り切っていた。
それは悲しい事だ。瞳の奥底に諦めの色が見える。
「ナシャアからあんたの名前は聞いたけど、私とサロフに名乗る礼儀は弁えているでしょ」
湿っぽく暗い雰囲気が嫌なのか、少女は口を開いた。
「ジェーン・ルウファス」
素っ気なく名前を告げ、ジェーンが二人に手を差し出す。
「リノ・ハレンよ。私に握手を求めるなんて、百万年早いわ」
左手を叩き落とす。
「僕はサロフ・ナイシエ」
少年が右手を握ってくれた。
「君の手、小さくて可愛いね。親愛を込めてサロフと呼んでよ。ジェーンって呼んでもいい?」
手を振り払いサロフを睨む。嬉しそうに見つめ返してくる。
「初対面の奴を馴れ馴れしく、ファーストネームで呼びたくない」
急激に光を失った沈む表情になる。
「呼ぶのは互いを分かってからだ。そんなに呼びたいのなら好きにしろ」
ぱっと表情が明るくなり、口元を綻ばす。どうしてかある人の顔が浮かぶ。
「有り難う」
一瞬戸惑うジェーンは接近して来た彼から離れる。
「何で近づくんだ!」
「肌と肌を触れ合う親密な交流して、仲良くなろうかなって」
「これ以上、近づいたら殴るぞ」
「君になら殴られていいかも」
彼の目線は一点に固定されにこやかに微笑む。翻弄されている。
どん引きする少年は心身共に疲れていた。
「そんな顔しないで。冗談だから」
「よかったわね。これであんたは、サロフのお気に入りよ」
「その表現やめろ」
「今日から僕達は親友だ」
肩に回そうとした手を払い除け、剣呑に睨めつける。
「所で何歳なの。ルウファス」
唐突にリノが尋ねた。
「十六」
「ふーん。十六ねぇ」
ナシャアとは知り合いだが、城内にいてもシヴェルティアの魔術師と関わりはなかった。この二人は自分がいない、十年の間に力が認められ、一員となったのだろう。
「私と此奴は十八歳よ。年上は敬いなさい」
形のよい顎を吊り上げて、唇に高圧的な弧を描く。彼女の性格は大体理解できた。
階段を上がり金と銀の重厚な両扉を開けた。
一歩足を踏み出すと、そこは広いエントランスだ。床は様々な色彩のタイルを組み合わせて作った、見事なモザイク。
きらきらと天井を華やかに飾るのは、クリスタルガラスが多くあしらわれたシャンデリア。
入口の正面には同様な両扉があり、茫々たる裏庭に通じている。




