現れた侵入者
「気持ち悪くて結構。それでも息子を愛している」
耳を塞ぎ損ねて聞いてしまった。慈愛に満ちる声に顔が熱気を帯びる。
深く愛する温かな気持ちを注がれ、むず痒くも心地よいが、今までずっと頑なに拒んできた。
突如として通路に馬が駆けるような騒がしい蹄の音が鳴り響いた。
「止まれ!」
「待て、不法侵入者」
何者かの侵入を責める数人の叫びも響く。
「助けが来たようだ」
微動だにせず笑みを浮かべている。
少年は手を握って、先程より力が入る事を確かめ起き上がった。
一歩踏み出すとよろけ体勢を持ち直す。まだ甘い眠りが人体に及ぼした作用が残っているものの、消えつつある。
蹄の音が近づき目前で、馬に似た生物が嘶き止まった。
目は銀色、顔と首は長く、頭頂部から肩にかけて黒い鬣と尾も、炎のようにゆらゆらと燃える。額に銀色の石が埋まっている。
二馬目が動きを止めた。
「貴方がジェーン・ルウファスね。オレゴンの命によって助けに来てあげたわ。有り難く思いなさい」
薄い桃色の髪は肩まであり、赤いヘアバンドをつけている。瞳は林檎と同じ色、気の強さが窺える眉。目鼻口は整い、顔立ちは綺麗だ。
偉そうな少女の登場にジェーンは、
「助けるのなら、エイラを助けろ。俺は助けなくていい」
思い切り顔をしかめ、目を見開く彼女がエイラの存在に気づいた。
「どうして、おとなしく捕まっているの。ナシャアもオレゴンも心配して…でも、あんただから自力で戻ると信じ待って……」
「まあ、落ち着くんだ」
エイラは言葉を遮った。どうやら知り合いのようだ。
「リノ、まずいぞ」
焦る少年は数人の足音を警戒する。
群青色の髪、青紫色の瞳。細い体躯。目元はきりっとした容貌は美しい凛々しさがある。
「サロフ、あんたが何とかしなさい」
小さな溜息一つ。サロフが呪文を唱え出す。
「ミゲシ・ハク・ガレヨ・ヨズナ」
宙に青色の五芒星が形成され、そこから大量の爆発的な水が激流となって放たれた。
水魔術に分類される激水だ。
叫び声と慌てて遠ざかる足音が聞こえ、後に水が流れる音が全て包み込む。
「よくやったわ」
他人の成功を得意げであり誇らしげに喜ぶ。
「早く牢屋から出なさいよ」
視線も「早くしろ」と急き立てる。
「無理だ」
「はあ?」
見るからにリノはジェーンが置かれている状況をこれっぽっちも理解していない。
「一本一本の鉄格子には魔術無効化の呪字が施され、都合よく牢屋を開ける鍵はない。手の甲には魔力封じの印がある。仮に魔力封じを破っても、魔術無効化の所為で簡単には脱出不可能だ」
「だから何?」
瞬間移動を無効化にし、自分の力で内から出られず、相手側の助けがあっても瞬間移動は成功しない。魔術無効化は強力である。
魔道書の御陰で知識はやたらに豊富だ。
「……お前、馬鹿だろ」
「今、馬鹿って言ったでしょ!」
頬を膨らませ、怒りの眼差しを突き刺す。
「リノ、ルウファスくんはここから出られないんだよ」
サロフが「やれやれ」と言いたげな雰囲気だった。
「じゃあ、あんたが何とかして」
「僕ができたら、疾っくにやっている」
二人の間に沈黙が流れた。
エイラが笑声を零した。
「二人共、僕が鉄格子を消すよ。エニロ・キキレイ」
一瞬にして事が起きて終わる。ずらっと並んでいた鉄格子が跡形もなく消えてしまった。
魔術無効化を物とせず消無を成功させた。
「暫くブイオで世話になる。誰か心配するなとナシャアかオレゴンに言付けを頼む。ジェーン。出て来い」




