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プロローグ
波があった。ざざぁ、ざざぁと波の音だけが聞こえる。
冷たくも熱くもない、かといってぬるいわけでもない、海水であろう水が頬を叩く。
水死体のように海面にぷかぷかと浮かんでいる中、空の月を見上げていた。
刃物のように尖った三日月よりも細い月が黄金の光を放っている。
ざざぁ、ざざぁ。
浮くように踏ん張っているのでもなく、かといって沈むわけでもない身体。一定の間を保って小さな波が浮かぶ身体を叩く。
空は抜けるような青空だ。かと思えば全てを赤く染める夕暮れ。瞬きをすれば表現しがたい、水色のような灰色のような霧状のものが覆う空になる。何故か夜は来ない。
目まぐるしく変わっているのではない。ここにいる時間が長く、体感時間が短いだけなのだ。
朝が昼になるように、昼から夜になるようにゆっくりとした時間を、身体が認識できていないだけなのだ。
ざざぁ、ざざぁ。
揺れる。揺らめく。揺られていく。
ここにずっといたい。護られているような、抱きしめられているような安堵感。
目を瞑って深呼吸をする。
次に目を開く。月が以前としてそこにあった。
ざざぁ、ざざぁ。
ずっとここにいたい。
ざざぁ、ざざぁ……。
その願いは叶わないのだろうけど。




