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仙人の楽しい仲間 その一

 今日もいい天気、お昼寝日より。二人はごろごろ、ぐだぐだと一日を過ごしていた。


「サガ~暇~」


 ちぃはごろりんと寝返りをうつ。


「暇だねー」


 仙人もごろりんと寝返りをうった。耳を澄ませば中田さんが玄関を掃いている音がする。

 働き者の中田さんは毎日玄関を掃除していた。

 その音を聞きながら、うつらうつらと幸せそうに瞳を閉じていた二人は、突然跳ね起きた。


「仙人の力で感じた……」


「獣の勘で感じた……」


 二人はげんなりとした顔を見合わせ、同時に呟いた。


「奴が来たね」



 中田さんは鼻歌まじりで玄関の掃除をしていた。ほうきで落ち葉を掃き、花瓶の花を変える。玄関は家の顔。お客様を迎える大事な場所である。

 中田さんは外から玄関を、東屋全体を眺めた。東屋本体は古い作りで奈良や平安を思わせるが、玄関は昭和の引き戸。トースターが物置にあったり、炬燵があったり、それでいて仙人が読んでいるのは古代中国の巻き物だったりと時代がごちゃまぜになっているのが仙人宅である。


(現代のキッチンが欲しいわ)


 付喪神と作る料理も楽しいが、ガスコンロががあればとつい思ってしまう。ほうき片手に中田さんが溜め息をついたその時、


「うっわぁぁ。マジで人間がいやがる。しかもおばさんじゃん! ヤベー面白すぎる」


 明るい声が耳に飛び込んで来た。


「……え?」


 振り返った中田さんが見たのは一人の青年で、この三か月人っ子一人見なかった山で見た初めての人だった。


「顔は並か……アウト」


 男は値踏みをするような目付きで中田さんを見ていた。

 そんな彼を見て中田さんはこう思った。チャラいと。


「おいしょう、何をしに来た」


「チャラ男はさっさと帰りなさいよ」


 玄関から聞こえた二つの声に彼は片手をあげてよっと挨拶をした。


「つれないこと言うなって、けいちゃん」


 仙人のこめかみに青筋が立ち、ピシャリと戸が閉められた。


「あははっ。無駄なのに」


 彼は不歓迎ムードを全く気にせずに、戸を開けて東屋に入っていった。

 その後を中田さんも追う。

 彼は勝手を知った様子で仙人の部屋に入り、彼女の目の前に腰を下ろした。

 

「勝手に入ってくるな」


 仙人は不愉快この上ないと眉間にしわをよせている。


「あの、どうぞお茶です」


 中田さんはすっとお茶を出し、一歩退いてその若者をまじまじと見た。

 彼は茶髪でピアスをし、服装も都会を歩く若者だ。うちきを羽織る仙人とは対照的である。

 ちぃの名付けたチャラ男は的を得ていた。


「サンキュー。あんたけっこう気が利くじゃん」


「こいつに茶など不要だ」


「調子に乗せちゃダメよ!」


 二人からここまで言われる彼は一体誰なのだろうと逆に興味がわく。


「おい瓊。俺を紹介しろよ」


 ぐいっとお茶を飲んで、彼は湯呑みを中田さんに向けた。おかわりだそうだ。


「……ちっ、そいつは湘、私と同じ仙人だ。ちなみに仙名は韓湘子かんしょうし、言動全てが軽率で流行を追う馬鹿だがな」


「ひでぇ。同じ師匠の下で修行した中じゃん」


「あれは最大の不幸だったな」


 中田さんは言い合う二人を見てけっこう仲いいんじゃ? と思ったが口には出さなかった。


「仙人ってサガさん以外にもいたんですね」


「他にも6人いるよな。最近集まってねぇけど。なぁ 瓊、じじいにみんな集めさせようぜ」


 湘は肘でついと仙人をつつく。仙人はつつかれるままに傾き、ゆっくり元に戻った。


「酒は一人で飲みたい……というか師匠に会いたくない」


「あぁ。説教はされるだろーな。俺も」


 中田さんは師匠がどんな人か非常に気になるが、しゅんとした二人を見て踏み出せなかった。


「あ、酒で思い出した。これ、土産」


 彼が指をパチンとならすと 床の上に酒瓶が現れた。

 それを見て仙人は目を輝かせる。


「幻の名酒、酒呑童子しゅてんどうじだ」

 

 仙人は酒瓶を両手で持って顔の高さまで上げた。


「ありがと、今晩飲む」


 嬉しそうに声を弾ませる仙人は子どものようだった。


「で? 裏は何?」


 喜んでいる仙人の隣りで、冷ややかにちぃが訊く。


「裏なんて言うなよ。俺はただ物を預けに」


「……私の物置は付喪神養成所では無いと何度言ったら」


「だから土産やったじゃん」


 その言葉に土産をもらった仙人は黙り込む。再び彼が指を鳴らすと3つの古びた物が姿を現した。


「……今回はまた気味の悪い物を持ってきたな」


 まず一つ目、市松人形。 おっかっぱ頭や長髪など種類はたくさんあるが、


「ベーリーショートは珍しいわね」


 なかなか斬新な市松人形だ。


「だろ。俺が切った」


「馬鹿! 呪われるぞ!」


「はっ? 仙人が呪いを怖がってどーすんだよ」


 呪いなどなんとでとないと。ゴーイングマイウェイ。それが彼だった。

 二つ目、フランス人形。金髪の縦巻きロールに青い瞳。フリフリのドレスを着ていた。


「こいつが動き出すのを想像するだけでゾクゾクするぜ」


 湘は我が子のようにその頭を撫でる。それは傍から見ればなかなか痛い絵だ。

 そして三つ目、クマのぬいぐるみ。様々な布を組み合わせて作ってあり、ボタンの瞳に愛嬌がある。


「なんか、こいつが一番気が強いな」


 不気味さよりも愛らしさが勝るそれは、どこか化性の雰囲気を纏っていた。


「そいつは後ちょっとで化けるな」


 湘は満足気にうなずいて、その3つの人形を腕に抱えて物置へと歩き出した。

 襖を足で開けて入っていく。


「みんな~パパだよ~」


「気色悪い声を上げるな!」


「ママは怒りっぽいね」


 ふぅ、やれやれと彼は大袈裟な手振りをつけて彼は物置へと消えて行った。

 憤怒に悶える仙人を置いて……。


「あ、あの。仙人さん?」


 部屋の隅で控えていた中田さんがおずおずと声をかける。ちぃも衣の裾を引いている。


「私が……ママだと? ふふ……ふふふ。人の物置を私物化しよって……」


 ちぃは真っ黒な笑みを浮かべる仙人を見て、手を引っ込めた。


「仙人さん。どうぞお茶を……」


 中田さんは新たに急須からお茶を入れ、仙人へと出した。


「ありがとう」


 仙人はぐいっとお茶を飲み干し、物置へと顔を向けた。指をくいっと曲げると、襖が閉まりガシャンという音がした。


「……今鍵閉まらなかった?」


「というか、襖に鍵ってあるんですか?」


 二人の疑問を仙人は無視して、仙人はおかわり、と湯呑みを中田さんへ突出した。


「あの……仙人さん。聞きたいことがあるんですが」


 中田さんがお茶を注ぎながら控えめに尋ねる。


「なんだ?」


 仙人の反応が思ったより悪くなかったので、軽い質問をしてみる。


「ケイって仙人さんの名前なんですか?」


「あぁ……あれはまだ仙人になる前の名だな。仙名として何仙姑かせんこ、サガは日本に来てから名乗り始めた名だ」

 

 仙人が気軽に答えてくれたので、中田さんは訊きたくてウズウズしていたことを質問した。


「仙人さんの師匠ってどんな人ですか?」


 期待度マックスの瞳で見つめられ、仙人はうっと答えにつまる。


「せ、仙人かな」


「え?」


「ヒゲ仙人はまんま仙人って感じ。髪は白くて長いし、髭も長いしね~」


 ちぃが補足説明をした。


「口うるさい人で、仙人の道に生きる人だったな。私に言わせると古いけど」


 ちぃが隣りでうんうんと頷いている。


「へぇ。お会いしてみたいですね」


「外見はあれ……おばちゃんがここに来た時の仙人。本物はもっと厳めしいけど」


「あぁ。なるほど」


 中田さんはおじいさんに化けた仙人を思い出して、合点がいった。確かに仙人だ。


「というか、会うと面倒な性格だぞ?」


「薬草語るし、ネコ缶には文句つけるし」


「人ともっと関われって言われるしな」


 二人は嫌だ嫌だと首を横に振る。どの世界でも年寄りは口うるさいものだ。


「そうだそうだ。師匠は偏屈じじいだからな」


 物置物色中の彼が、襖をスッと開けて割り込んで来た。仙人のかけた鍵など物ともせず……。

 小さく仙人が舌打ちした。


「俺だって服装を改めろと何度言われたか」


「当たり前だ!」


「チャラすぎるのよ!」


「はっ、これが俺の仙道だ!」


 湘は鼻で笑って胸を張る。その肩に乗っている物たちも同様に偉そうにしていた。


「……ずいぶん可愛い付喪神だな」


 彼の肩に乗っていたのは小さな色鉛筆たち。12人の兄弟姉妹がいるようで、


「ほらみんな、あの人がお母さんよ」


 と長女らしき赤の色鉛筆が言えば、


「わ~ママ~」


「マミー」


「お母さーん」


 とその弟妹たちが肩の上で大合唱だ。


「湘! 変なことを吹き込むなぁぁ!」


 頭を抱えて叫ぶ仙人を見て、彼は大爆笑していた。


「なんだかんだで仲いいんですね」


「……一方的にからかわれてるんだけどね」


 母さん攻撃に悶えている仙人を横目に二人がひそひそと小声で話した。


「じゃ、他の奴にもお前の暮らしぶりを伝えとくから、後の奴らも来るだろうぜ」


「余計なことをするな!」


「あはは、じゃーな~」


 湘はおかしくて溜まらないと瞳に涙を浮かべ、手を振って窓枠に足をかけた。ふわりと体を浮かせ、窓から出て行く。


「ママ~元気でね~」


「また遊びにくるよ!」


「お母さんも家に来てね」


 色鉛筆たちは各々好きなことを叫んで、湘と共に帰っていった。彼の姿が山の奥に見えなくなると、やっと静けさが戻る。仙人宅は平和になったのだ。

 中田さんはお茶を下げて台所へと行き、ちぃは散歩をすると窓からヒラリと出て行った。


 屍のように横たわる仙人を残して……。

ちょっと頑張りました。

仙人の友達が登場です。残り六人、順次出てくるかと思います。

さて、今月中にあと一本書ければいいな。

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