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豆まき ~仙人の逆襲~

小ネタです。短いのは御愛嬌で。


「サガ、豆まきしよ!」


 唐突にちぃがそう言った。

 読書中に仙人の前に豆が二袋投げ出された。明日は節分ですから、と昨日中田さんが置いていったものだ。


「豆まき?」


 人間の風習、文化全てに興味のない仙人は胡乱気に訊き返す。


「そうよ。人間の風習。二月三日に豆をまいて鬼をはらうのよ」


 うきうきと説明するちぃはすでに人間に化け、投げる気満々だ。


「鬼? どこにいるんだそんなもの」


 仙人の家には付喪神はいても鬼はいない。


「ふふふ」


 ちぃは怪しい笑い方をすると、鬼の面を仙人の頭にかぶせた。節分の豆についていたお面である。


「何だ、これ?」


 仙人はそれを外し、まじまじと見る。赤い、どことなく愛嬌のある鬼だ。


「ちゃんと被ってよね」


 ちぃがそれを仙人に被せ直し、ますに豆を入れて準備を始める。


「何をするつもり……うわっ!」


 豆まきは突然始まった。


「鬼は~外! 鬼は~外!」


 ちぃはにこにこと笑いながら豆を仙人にぶつける。ふいを突かれた仙人は慌てて逃げ回った。


「鬼は~外! 鬼は~外!」


 福は内がなかなか呼んでもらえないのは、ちぃの性格だろう。


「痛い! 急に何するのよ!」


 仙人は必至に逃げるが、動くものを追いかけるのが猫の習性。そう簡単に逃げられない。


「鬼は~外~!」


 数分間鬼ごっこを続け、とうとう仙人はお面を取り床に叩きつけた。


「疲れた! 交代して!」


 息の荒い仙人に、ちぃは不満そうに唇と尖らせる。


「え~、もっとあそ……豆まきしたい」


 つい本音がでてしまいそうになった。


 だがしばし考え、ちぃは二ヤリと笑った。


「いいわ。今度は私が鬼をやってあげる」


 そして自ら鬼の面をつけた。


 仙人は新しい豆の袋を開けて枡に入れる。


「いくよちぃ! えっ」


 仙人が大きな的目がけて投げようとした時、すでにちぃは猫の姿に戻って部屋を駆け回っていた。


 体に合わせてお面も小さくなっているのは化け猫の力だろう。


「ちょっとちぃ! ずるいんじゃない?」


「私は猫です! こっちが本来の姿なんです~。仙人なんだからこれぐらいどーとでもなるでしょ?」


「ち~い~。鬼は~外!」


 仙人は豆をむんずと掴み、ちぃに投げるが、ちぃは俊敏な動きでそれをかわす。


「鬼は~外! 外!」


「へっへ~ん。あたんないよ~」


 ちぃは調子にのって空中で宙返りまでみせる。


「鬼は~外!」


「ダメダメ~」


 今度はバク宙だ。


 完全にからかわれている仙人は、ぴたりと動きを止め、ぼそっと呟いた。


「ちぃ。私、本気だすから」


「え?」


 そう宣言すると、仙人は枡に入った豆を全てぶちまけた。


「ちょっと、サガ?」


 もしかしたらいけないスイッチを押したかもと後悔してももう遅い、次の瞬間、仙術によって宙に浮いた豆たちが一斉にちぃに襲いかかった。


「鬼は~外!」


「きゃ~! ごめんなさい!」


 四方八方から飛んでくる豆。必至に謝るが、一度スイッチの入った仙人を止めることなど出来るはずもない。


「も~こうなったら!」


 意を決して立ち向かってみるが、にこにこと笑っている仙人に逃げ腰になる。


「鬼は~外~!」


 ちぃは結局仙人が満足するまで部屋を走り回るはめになった。復讐をその胸に近いながら……。






 そして翌日、豆が散乱した部屋に中田さんが眩暈を起こし、二人仲良く説教を受けたのだった。


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