【粂】
【粂】
訓読み:くめ
部首:米
画数:9
意味
1 「久」と「米」を合わせて作られた国字。地名、人名に使われる。
「こんな苗字があるのね。『久米』が縦に合体してるわ」
私は、引越業者にもらった名刺を彼に見せる。
それを受け取った彼は「合字だね」と答える。
「合字?」
「二つの文字をくっつけて、一つの文字にするのさ。他の漢字だと『麿』も『麻呂』の合字だ。平仮名やアルファベットにも、合字はあるんだよ」
説明しながらも、彼は引越の見積もりを読んで顔をしかめる。
私は彼のハの字になった眉を眺めつつ、晩御飯の準備をする。
「へー。この『粂』って漢字、どんな意味があるの?」
「意味は無いよ。音読みも無い。ただ『久米』を合わせた文字ってだけ。ちなみに『久米』という姓は古事記にも登場する由緒ある……」
「そう、もったいない」
彼は説明を中断されたことより、私の発言が気になったようだ。
「もったいない?」
「ええ。せっかく別の漢字なんだから、意味をつけてあげれば良いのに」
「意味を?」
「文字をくっつけただけなんて、寂しいじゃない。やっぱり漢字ごとに意味があった方がいいでしょう」
「そんなこと、思いつきすらしなかったよ。君のそういう考え、いつも素敵だと思う」
私は人差し指を顎に当て、少し頭を巡らせる。
今度は彼が、私の顔を楽しそうに眺めている。
「そうね。ずっとパンばかりで、『久しぶりに食べた米』という意味はどう?」
「どう……って、それは、うちのことじゃないか」
彼はそう言って笑った。
米価の高騰で、最近パン食やパスタが続いていた。やっとお米の値段が落ち着いてきたので、今日は久しぶりに炊飯器でご飯を炊いたのだ。
「久しぶりのお米のご飯。それが『粂』」
「そんなことに専用の漢字が要るかなぁ?」
彼が首を傾げるので、私は茶碗にご飯を盛る。
「粂です」
彼は腹を抱えて崩れ落ちた。
二人で食べたご飯は、とても美味しく炊けていた。
名前に粂のつく皆様、ごめんなさい。




